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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の森でサバイバル!
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第016話~子供は可愛い。変な意味ではなく。~

最重要な塩を要求し忘れていた。ウカツ!_(:3」∠)_(というわけで前話で穀物粉と一緒に塩を要求する微修正をしました

 職人街にある共同倉庫から難民達の居住区はかなり近い。魔法畑区画を抜ける必要はあるが、魔法畑は立体駐車場のように三層構造になっており、敷地自体はそこまで広くないのだ。明るい光を放つ魔法畑を横目に見ながら十分も歩かないうちに雑然とした難民区画に辿り着く。

 難民達の住居の材料は実に様々だ。日干し煉瓦のようなもの、木の板、倒木のような朽ちかけの材木、背の高い草、丈夫そうな布……雨風を少しでも防げそうなものであれば何でも使われている。しかし、どの建物も一様に粗末なのは変わらない。辛うじて寝られる、といった場所でしかないのは一目瞭然だ。


「厳しいな」

「エルフの生産能力は彼等を食わせるだけでも手一杯だ。材料も道具もないからまともな住居作りが一向に進まない。拡張によって防壁と住居を一挙に作ろうとしてはいるが、資材の調達が難しくてなかなか進まんのだ」


 難民達の視線が俺とシルフィに集まる。俺に集まる視線は相変わらず厳しいものが多い。シルフィに対しては……よくわからんな。恐怖――いや、畏怖の視線だろうか?


「どこに向かってるんだ?」

「彼らのまとめ役がいる。まずは状況を把握するつもりだ。長老達との話し合いがどうなったのか聞いておく必要がある」


 遠巻きにこちらを眺める難民達の間を抜け、拡張区画にほど近い場所まで歩く。そうすると、干し煉瓦で作られた少し大きな建物が見えてきた。その建物が近づくに連れて子供達の笑い声が聞こえてくる。


「託児所?」

「そのようなものだ」


 そこには難民の子供達が集められていた。猫耳、犬耳、うさみみ、リザードマン、ハーピィ、ラミア、角っ子、天使っぽい子、悪魔っぽい子、単眼……実に様々な亜人の子供達が選り取り見取りである。


「うーん、子供はかわいいな」

「なんだ? そういう趣味なのか?」

「いや、一般論としてね?」


 無邪気に笑う子供達は無条件で可愛いじゃないか。下衆な勘ぐりはやめてくれ給えよ。


「にんげんだ!」

「さらわれる!」

「にげろー!」

「にんげんしね!」

「しねー!」


 そして俺を発見した子供達は俺を罵倒しながら物凄い速度で建物の中に逃げていった。とてもかなしい……俺が何をしたと言うんだ。


「嫌われているな」

「俺は悪くねぇ! 世の中が悪いんだ!」


 まるで駄目な大人みたいな台詞を叫びながら建物に近づく。そうすると、先程の子供達の叫び声が聞こえたのか難民達が集まってきた。その中から一際体格の良い傷だらけの男が進み出てくる。

 でかい。どうやら右足が悪いようで、少し引きずっているようだが……まさに筋肉もりもりのマッチョマンって感じの男だ。頭から猛牛のような大きな角を二本生やしている。ミノタウロス系の獣人だろうか?


「姫殿下……」

「ダナン、何度も言っているがその呼び方はやめろ。そのように呼ばれる資格など私にはない」

「いいえ、姫殿下がなんと仰られようと姫殿下は姫殿下です。我々のために闇を纏われた、あの光景を見てそう思わぬ者などいるはずがない」


 大男がシルフィの前に跪き、頭を垂れる。臣下の礼というやつだろうか?

 それにしても闇を纏うとかなんとも中二心を刺激する表現だな。色白な他のエルフと違ってシルフィの肌が褐色であることと何か関係がありそうな感じだな。


「頑固者め……まぁ良い。ギズマ対策について話をしに来た。主だった者を集めて場所を用意してくれ」

「はっ!」


 ダナンと呼ばれた大男が立ち上がり、一瞬だけこちらに視線を向けて立ち去っていった。刺すような視線とはまさにああいうもののことを言うんだろうな。ちびりかけた。


「ご主人様、あいつ怖いんですけど」

「ダナンは黒き森に逃れてくる前に人間に妻を辱められた上に殺され、オミット大荒野で二人の子供を失った」

「Oh……ヘヴィ」


 そりゃ人間に対する恨みはすごいだろうなぁ。うーん、シルフィという後ろ盾だけで大丈夫かな? いざギズマと戦うって段になって後ろからバッサリとかされない? というか、俺を囲っているシルフィの立場が心配になるな。


「俺を連れていて大丈夫なのか? 立場とかあるだろ」

「さて、どうかな。私が言い聞かせれば大丈夫だとは思うが、お前もできる限りのことはしたほうが良いだろうな。だが、私がお前を見捨てることだけは絶対にない。それだけは覚えておけ」

「わかった。俺もシルフィを見捨てたりはしないからな」

「ふふ、それは嬉しいな」


 シルフィが極自然に柔らかい微笑みを浮かべる。そんなシルフィの表情を見て周りの難民達が大きく目を見開いた。単眼の女性とかその大きな目が零れそうなほど目を見開いている。うん、俺にとってはそうでもないのかもしれないけど、シルフィをずっと見てきた人にとっては大事件なのね。よくわかったよ。


「さて、諸君! 薪と食料を用意してきた! 全員が腹いっぱい……とまでは行かないかもしれないが、行き渡るだけの量があるはずだ。手を貸してくれ!」


 シルフィが俺に視線を向けてくる。はいはい。

 俺は促されるままに穀物粉の入った袋と塩の入っていた壺を取り出した。穀物粉の袋はともかく、壺を地面に置くのはなぁ。


「ほい」

「えっ」

「頼む」

「お、おぅ」

「これも」

「ひゃい!?」

「これもな」

「……」


 というわけで、近くに居た難民に次々に渡した。香味野菜の入った籠や袋も適当に近くの難民に渡す。


「薪もここに出して良いのか?」

「ああ、そうしろ。ギズマの肉もな」

「地べたには置けないぞご主人様」

「それもそうだな。調理台を用意するというのはどうだ?」

「ご主人様頭いいな」


 釘も木材もインベントリに入ってるからテーブルくらいはすぐにクラフトできる。クラフトメニューからサクッとクラフトして大きめの木の机を量産する。


「こんなものでどうだろう?」

「悪くないのではないか?」


 テーブルはいくつかデザインがあったが、天板が一枚板のものにした。これなら粉物も練れるし。どんどんどんと大きめのテーブルを設置する。


「ギズマの肉をこの上に直接置いて大丈夫かね? 砂埃とかで汚れない?」

「それもそうだな……風除けの壁を作るか?」

「大げさすぎるだろ……木箱を量産してはどうか」

「冴えているじゃないか。やれ」

「アイアイマム」


 今度は一抱えほどのサイズの木箱を量産していく。一個あたりの木材は大したことないが、数が数なので消費が激しいな。また伐採に行かないと。


「こんなもんでどうだ」

「良いんじゃないか?」


 出来た木箱を一つ取り出し、内部を触って木屑などがないことを確認する。大丈夫そうだ。というわけで、ギズマの肉を木箱に入れていくのだが……これはなんだろう? 生の蟹肉? それとも海老肉か? 白くて少しだけ透き通ってて、ぷるっとしている。うん、イメージはでかい海老肉だな。シルフィも木箱の中の肉を横から覗き込んでくる。


「やはりどこの部位なのかよくわからんな。ギズマの肉には違いなさそうだが」

「食えればいいじゃない」

「そうだな」


 箱を取り出し、ギズマの肉を詰める。箱を取り出し、ギズマの肉を詰める……という作業を繰り返しているうちに箱の数は十を超えた。十三個か。三百人ちょいで分けたら大した量にはならないかもしれないけど、まぁ穀物粉は十分あるしそっちで腹を膨らましてもらうしかないな。


「あとは薪か」


 インベントリから薪となる木材を取り出してガンガン積み上げていく。どれくらいいるのかね? 少しだけ残して多めに置いておくか。余ったらそのまま何かに使ってもらえばいいし。


「こんなもんでどうだ」

「ふむ、こんなものだろう。何をしている? 食事を作り始めろ。子供達にはたらふく食わせてやれ」


 シルフィに言われて呆然としていた難民達が慌ただしく動き始めた。テーブルやギズマ肉の入った木箱を運び、石を持ってきて即席のかまどを作り、袋から出した穀物粉に魔法で水を加えて調理台の上で捏ね始める。鍋などの調理具は各々の家から持ち寄ってきたようだ。鍋、鍋か。大きな鍋とか鉄板とかを用意しておけばこういう時に便利そうだな。そのうち余裕ができたら作るとしよう。


「姫殿下!」


 ダナンが難民達の有力者らしき人々を連れて戻ってきたが、極短い時間で大きく変わった辺りの光景に言葉を失ったようだ。そうだよな、ほんの十分かそこらで炊き出しが始まってたら面食らうよな。


「食事ができるまで少し時間がかかるだろう。その間に話を済ませるぞ」

「こ、これは?」

「わたしにできることくらいはしたくてな。これから話すことにも少しだけ関係している。あちらの隅で話そう。コースケ、椅子は作れるか?」

「あー、ギリギリだな。少し待て」


 木材を少し残しておいてよかったな! 材料の軽いスツールみたいな椅子になるが、地べたに座るとか立ったままとかよりはマシだろう。歩いている間にサクサクっと作って会合場所になるちょっと開けている場所に設置する。数は人数と同じ五つだ。俺の分は作っていない。俺はシルフィの奴隷という立場だからな。シルフィやダナン達とさも対等ですって感じで座るのは良くないだろう。

 ダナン達は突然現れた椅子に面食らっているようである。


「コースケ、椅子が足りんぞ」

「ご主人様の忠実な奴隷である俺が座るわけにはいかんだろ」

「ふむ……では命令だ、椅子を置いて座れ」

「えぇ……まぁ、ご主人様がそう言うなら」


 自分の分のスツールも作ってシルフィの右斜め後ろに座る。出しゃばるつもりはないという俺なりのメッセージだ。そんな俺とシルフィとのやり取りを見ていたダナン達は困惑しているようである。まさに何が何だか分からない、といった表情だ。


「……まぁ良いだろう。他でもない、今日話し合おうと思っているのはギズマの件だ。昨日、長老どもに呼び出されたはずだな? 情報のすり合わせをしたい」

「はっ、エルフの里の長老衆からは森の奥深くに逃げ込むか、エルフの里に留まって戦うかのどちらかを選べと。また、里に留まるとしても今ある壁の中に入れられるのは子供達が精々だと通告されました」

「チッ、あの狸どもめ。やはり精霊石を放出するつもりはないというわけか」


 シルフィが忌々しげに呟く。

 なるほど、確かに五つで一〇〇人の軍団を退けられるという精霊石を惜しげもなく使えばギズマの襲撃なんて簡単に跳ね返せるだろうな。だが、里の長老達はそうするつもりはないというわけだ。

 別に意地悪というわけではないだろう。恐らく、精霊石の備蓄に余裕が無いんだな。さっき共同倉庫であれだけの宝石の原石は珍しいと言っていた。エルフの『暫く見なかった』がどれくらいの期間になるのかはわからないが、随分前から精霊石の在庫は逼迫してるんだろうな。

 長老達が見据えている緊急事態はギズマの襲撃程度のことではないというわけだ。まぁ聖王国の侵攻を警戒してるんだろうなぁ。相手は大陸を二分する大国だ。もし黒き森を征服するとなれば送ってくる兵力は一体どれくらいになるのか想像もつかないな。いくら備えても備えすぎということはないだろう。

 シルフィは憤慨しているようだが、ダナン達はそれほどでもないようにみえる。案外、聖王国やメリナード王国のことをよく知らない俺よりも彼らのほうがこの措置に納得しているのかもな。逆にシルフィが憤慨していることのほうが意外だ。

 だが、今の俺はオブザーバー。半ば公の場であるここで奴隷の俺がご主人様に疑問を呈するなどもってのほかである。


「まぁ、奴らの事は良い。他には何か言っていたか?」

「防壁の建築が間に合いさえすれば、とは言っていましたが……」

「なるほどな。私達が聞いた話と同じか……防壁の建造に関してはコースケが鍵を握っている」


 シルフィが振り返って俺に視線を向け、釣られるようにダナン達の視線も俺に集中してくる。うーん、さっきみたいな激しい敵意は感じないけど、注目されるとムズムズするな。


「紹介しておこう。この男はコースケ。私の奴隷、ということになっているが私はこの男に操を捧げた。よって、私はこの男の主人であり、妻でもある」

「なっ……!?」

「姫殿下!?」


 シルフィが何の前触れもなく特大の爆弾を投下する。どうもシルフィは最初にインパクトを与えて相手を動揺させ、混乱しているうちに有利に事を進めるってスタイルが好きなようだな。


「落ち着け。コースケはな、普通の人間ではないのだ」

「確かに、妙な力は使うようですが」

「ですが、その男は人間です」

「そうだな、人間だ。だが、この世界、リースの人間ではない。コースケは異界から訪れた稀人だ」


 シルフィの発言で場に沈黙が訪れ、炊き出しを行う難民達の声が妙に耳に響く。そして俺に向けられる視線が一気に胡散臭いものを見るそれになった。うん、そうだよね! 俺が君達の立場でもそうなるよ!


「いきなりこんなことを言っても信じられないだろうな。私とて多くの言葉を交わし、その不思議な能力を見るまで確信を持つことなどできなかったのだから」

「失礼ながら姫殿下、姫殿下はその男に騙されているのではないかと」

「どこにでもいる普通の人間にしか見えません」

「魔力も感じない」

「腕っぷしも無さそうだしなぁ」


 言いたい放題のフルボッコである。そうだよね、俺もそう思うよ。腕っぷしがないのも事実だしな! せいぜい俺にできることなんて気持ち悪い動きをすることくらいだよ!


「お前たちがコースケを信じられないのもわかる。だが、まずはコースケを信じる私を信じて欲しい。そして、コースケに対する不信は彼と言葉をかわし、またその力を見て晴らして欲しい」


 あくまで真摯な態度でそう言うシルフィにダナン達はそれ以上何も言えなくなってしまったようだ。しかしシルフィがここまで言うのなら、というところもあるのか俺を見る視線には猜疑だけでなく興味も含まれてきたようである。


「まずはお互いに自己紹介することからだな。コースケ」

「ああ、どこまで話す?」

「全てだ」


 真っ直ぐに目を合わせてシルフィがそう言う。

 正直気が進まない。気が進まないが、ここでシルフィの言葉に従わないということは傍で俺を守ると言ったシルフィの言葉を信用していないということになる。

 気は進まないが、シルフィを裏切ることはできないなぁ。


「……改めて自己紹介する。コースケだ。信じられないかもしれないが、この世界の人間じゃない。ほんの数日前に、気がついたら荒野と森の境に放り出されていた。その後、生きるために森に入ってご主人様に拾われた。俺の力については一言で説明するのは難しいんだが……材料さえあれば色々なものを短時間で大量に作ることができる、というのが主な内容だ。その他にも大量の物資を手ぶらで持ち運べたり、ちょっと普通じゃない動きができたりする。だが、俺は今まで殺し合いとは無縁の世界で生きてきた男だ。直接的な腕っぷしは人並み以下だと思う。こんなところだが……」


 俺に向けられる視線は相変わらず疑いの度合いが強い。


「シルフィには命を救われて、保護してもらったという恩がある。俺はその恩を返したいと思っている。できることはなんでもやってシルフィを助けていくつもりだ。俺に言えることはこれくらいだ」


 あまり言葉を重ねすぎても嘘っぽくなる。これくらいが限界ギリギリってとこだろう。さて、反応はどうかね?

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