第166話~改良型エアボードあれこれ~
色々と検討した結果、馬車サイズの改良型エアボードを二台作ることにした。駐車スペースや道の幅などに関して馬車とある程度互換性を持たせたい、と思ったからだ。流石に馬車サイズの大きさでは俺達全員が乗ることは難しいからな。何せ合わせて11人もいるわけだし、
一台で全員が乗れるようなものを作ろうとすると、馬車よりも遥かに巨大なものになってしまう。多分大型バスサイズとかになるだろうな。グランデとかザミル女史は尻尾の分スペースを取るし、シュメル達は単純にデカいから。
「居住性というか、乗り心地はある程度確保したいな。長時間乗るものだし」
「揺れの少なさという意味では乗り心地は馬車と比べるべくもないはず。席をちゃんと作れば寝ることすらできると思う」
「地面の状態に左右されずに走れるということは、雨が降っていたりしても問題なく走れるということよね? なら、雨に降られても問題ないようにするべきだと思うわ」
なるほど、確かに雨でぬかるんだ道でもエアボードなら問題なく走れるはずだな。確かに雨天でも関係なく走れるようにするべきだろう。
「雨風を防げるようにするのには賛成だ。それに加えて安全面はどうするべきだろうな。外から丸見えだと盗賊とかに矢を射掛けられないか?」
「どちらにせよ風雨や砂塵を防ぐために風属性魔法の障壁を展開する。馬車一台分を覆うくらいなら可能。問題はコスト。製造コストを取るか、ランニングコストを取るか」
アイラ曰く、風の障壁発生装置の品質をどうするかという話なのだそうだ。ミスリルを多めに使って、製造コストを高くして性能を上げれば燃費は良くなる。ミスリルの量をケチって大量に風の障壁を展開する魔道具を作ることもできるが、その分性能は落ちて燃費も悪くなるのだという。
「最終的に何百台、何千台と運用するならランニングコストが安いほうが得だと思うわ」
「待て、重量に関して言えば浮遊装置である程度無視できるんだから、それなら乗員スペースの防護は木材の壁に鉄板の装甲とかにした方がトータルコストが安いんじゃないか? メンテナンスのコストもそっちのほうが遥かに安いはずだ。何もかも魔道具にすると整備性が悪くなりすぎると思うぞ」
「整備性という話をするなら魔道具をふんだんに使っているエアボードは整備性が劣悪と言える。いずれにせよ整備性は悪いのだから、どうせなら突き抜けた方が良い」
「私はコースケの案に賛成よ。場合によっては野宿することもあるのだから、そういう場合を考えれば幌馬車や箱馬車の方が野宿に使いやすいと思うわ。野営する時まで風魔法の障壁を展開しっぱなしにするのは魔力の無題使いでしょう。風魔法の障壁はあくまでも車体が風に煽られたりしないようにするためだけに使うべきじゃないかしら? 御者を風塵から守るだけならマスクでも被ればいいわけだしね」
「それはそうだな……便利で色々できるからって何でもかんでも魔道具に頼る必要はないか。魔道具でしかできないことを魔道具でするようにしよう」
「ん、わかった。二台作るなら箱馬車型と幌馬車型の二つを作るのが良い」
「そうか? そうだな。微妙に性能の違うものを二つ作って運用試験をするのが良いか」
座席の数や操作系、推進装置は全く同じものにして、箱馬車型の方の浮遊装置を大型単発式、幌馬車型の方の浮遊装置を小型四点式にしてみた。風の障壁を展開する魔道具に関しては、空気抵抗を減らして移動を補助する通常モードと、弓矢などで射られた際に防御するための緊急モードを搭載した出力可変式のものにした。いざという時に防御効果を発揮できるというのは安心に繋がるだろう。
トズメは身体の大きさの割に手先は非常に器用であった。デザインセンスも良く、幌馬車や箱馬車の作りも大まかに知っていたので、エアボードの筐体作りに非常に貢献してくれた。
「トズメすごいな。冒険者としてだけじゃなく、職人としても働けるんじゃないか?」
「その道のプロには敵わないわよ。冒険者稼業で関わるものならなんとなくで作れるけど」
なんとなくでこのクォリティなら十分なのでは? 触ってみた感じ、作りそのものもなかなかに堅牢そうだし、品質に問題はなさそうだ。
造形として接地ブレーキのことも考えた結果、箱型の大型ソリ、幌付きの大型ソリみたいな感じになった。エアボード本体下部についている浮遊装置が接地の際にエアボード本体に押し潰されないようにソリの足の部分で高さを少し稼いでいるわけだ。また、御者がサイドブレーキのような感じで操作できる接地ブレーキも別途設置した。
「できたな」
「ん、できた」
「試験運転は……コースケとアイラがそれぞれやる?」
「そうするか。トズメもどっちかの荷台に乗ってくれ」
「それじゃあ……コースケのほうに乗るわ」
出来上がった改良型エアボードに乗り込み、燃料となる魔力結晶を使ってそれぞれ起動する。俺が箱型の大型単発式エアボード、アイラが幌付きの小型四点式エアボードだ。
「安全運転で行くぞー」
「任せて」
操縦桿を両方外側に倒して少し高度を取り、次に両方を少しだけ前に倒して微速前進を開始する。
「全体の重量が多くなった分、動き出しはやっぱりちょっと重いな」
「動き出しが遅いってことは、止まる時もなかなか止まらないってことよね。早めのブレーキが重要になりそう」
「そうだな。でないと大事故になりかねない」
後ろから話しかけてくるトズメに返事をしながら慎重に加速して操作する。今回はフットペダルで操作できる方向舵も取り付けた。右側のペダルを踏めば右に、左側のペダルを踏めば左にある程度曲がれるようになっている。それに加えて左右の推進機に出力差をつける事によって旋回ができるというわけだ。
試験運転は特に問題なく成功し、大凡同じ速度で移動した場合の消費魔力量に関しては大型単発式の方が魔力の消費量が少なかった。
「どう思う?」
「四点式のうちの一つを故意に作動不良にして状態で走らせたらどうなるかね?」
俺の提案で四点式の浮遊装置のうちの一つをわざと作動不良状態にして運用してみたところ、一つが欠ける事によって揺れや傾きが発生するものの、一応走ることはできた。
「何かの理由で浮遊装置のうちの一つが壊れた場合でも、四点式なら辛うじて走行できるというのは強みじゃないか? 単発式だと浮遊装置がイカれたら一発でお陀仏だ」
「動けなくなるのは問題だけど、それは馬車だって同じでしょう? 馬車だって車軸や車輪が破損したら予備でもない限り立ち往生確定なわけだし」
「予備の浮遊装置を全車両に搭載するのは現実的とは言えないと思う」
「でも、軍用品ということであれば突然のトラブルで行動不能になって、現地で修理もできないっていうのは避けるべきだよな。いや、そもそもそう簡単に壊れるものでもないとは思うんだが……実際のところ、耐久性とかはどうなのかね」
「そうそう壊れるものではない。でも、走行中は常に作動させ続けることになる。どのような負荷がかかって壊れるかは実際に運用して小まめにチェックするしかない」
「一朝一夕では解決できない懸念ね」
部品の耐久テストに関しては実際に壊れるまで使ってみるしかないものなぁ。大量に作って稼働させ続けるしかないか。
「あと、製造コストに関してだけど……コースケが作る分には材料コストだけ考えれば済むと思うけど、実際に職人が作るとなると小型の浮遊装置四個よりも大型の浮遊装置一個のほうが手間はかからないんじゃない?」
トズメの指摘に俺とアイラの目から鱗が落ちた。
俺が作る分には素材を用意して作業台にクラフト予約して時間が建てばチーンとできてくるのだが、実際にこの浮遊を魔道具を職人や魔道士、錬金術師達が作る場合には大型の浮遊装置一つを作るほうが小型の浮遊装置四つを作るよりも手間がかからないのである。
例えば、魔道具のコアとなるミスリル合金製の基盤にレビテーションの魔法術式を書き込む場合、小型の浮遊装置でも大型の浮遊装置でも基盤に彫る文字数は一緒なのだ。
つまり、一つのエアボードを動かすために必要な作業時間は小型四点式の場合は単純計算で四倍ということになる。
実際には大型基板一枚に術式を彫るのと、小型基盤一枚に術式を彫るのでは大型基板に彫るほうが若干作業時間はかかるかもしれないが、小型基盤四枚と大型基板一枚では大型基板一枚の方が作業時間は短くなるだろう。
「これはやっぱり俺達は技術開発だけをして、コスト面での考察はメルティとか研究開発部で検討してもらったほうが良さそうだな」
「ん。材料コストを重視するか、生産性を重視するかの判断は私達には少し難しい。トズメの意見も合わせて、材料コストと生産性、整備性などについては私がレポートを書いておく」
「頼んだ」
そういう難しい話はわかる人に任せようというスタンスで行こう。コストとか運用については専門家に検討してもらったほうが良さそうだ。そもそも作ったばかりで部品の信頼性評価もまだできていない段階だし。
とにかく運用してデータを取っていくことにしよう。




