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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
荒野の遺跡でサバイバル!
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第165話~経典解読~

 一夜明けて翌日。俺とアイラは朝からオミット王国時代のアドル教経典の翻訳作業を進めていた。

 翻訳作業の手順そのものはとても単純だ。俺がオミット王国時代の経典を読み上げて、アイラがその通りに白紙の本に書き留めていく。

 俺の能力による翻訳は完璧で、誤訳などは基本発生しない。そりゃそうだ、俺にとっては古いオミット王国語も母国語同然に読めるのだから。


「昨日の苦労は一体……」

「ごめんて」


 サクサクと進んでいく翻訳作業にアイラの目が虚無を映し始める。その目はやめてくれ、怖いから。なんなら膝枕でもなんでもしますから許してください。

 肝心の内容はと言うと……うーん、なんと言ったら良いのか。創造主アドルの成したことを淡々と綴り、その言葉や教訓を書き綴ってあるといったところだろうか。

 曰く、アドルは星々の彼方よりこの地に現れ、この世界……つまりリースと、天の彼方に見えるオミクルを生き物の住まうことができる世界に変えた。

 今、この世にいる生き物の大半はアドルに連れられてこの世界に訪れたり、アドル自身によって創られたりしたものであるらしい。ごく一部、この世界に生き物が住めるようになる前からこの世界に存在する生き物もいたが、それもアドルに恭順したのだという。


「うーん……」

「どうしたの?」

「いや、前々から思っていたことなんだが……」


 テラフォーミング、遺伝子改良、生命工学、原生生物の知性化といった言葉が脳裏をよぎる。やっぱりこのアドルとかいう存在はそれこそSF小説に出てくるような超技術を持った異星人とか、そういうのなんじゃないだろうか。


「つまり、コースケから見ると神というよりはとてつもなく進んだ技術を持ったヒトか何かの所業に思える?」

「そんな感じだ。まぁ、進みすぎた技術は魔法や奇跡と変わらないように見えるというし、俺のこじつけかもしれないけどな……剣や槍、弓矢しか知らない人が俺の使うような銃での攻撃を魔法か何かかと思うのと同じような感じで。それのスケールがもっと大きいような感じだな」

「なんとなく言いたいことは伝わってくる。でも、その考えは異端。アドル教の過激派にそんなことを言ったら異端審問にかけられて火炙りにされるかもしれないから、言わないほうが良い」

「やだこわい」


 そんな会話を交えつつ、翻訳を進めていくと亜人が創られた辺りの話になってきた。この経典によると、亜人は人間の様々な可能性を模索するためにアドルが創り出した種族なのだという。

 つまり、人間をベースとして様々な種と掛け合わせたり、遺伝子改良を施したりすることによって可能性とやらを模索したのだろう。

 マッドサイエンティストかな? アドルとかいうやつの頭の中の辞書には生命倫理という言葉は存在しなかったらしい。


「確か今のアドル教主流派の教えでは罪人に罰を与えるために亜人にしたという内容だったはず」

「そういえばそうだったな。俺もそんな覚えがあるぞ」

「この経典ではそうは書かれていない。つまり、これが懐古派の言う改竄の痕跡。その証拠」

「そうなるだろうな。他にも痕跡が無いか探してみようか」


 そうして更に解読を進めること数時間。昼頃には全編の翻訳作業が終了した。


「細かいところも含めるとかなり改竄されてるっぽいな」

「ん。少なくともこの経典の内容を見る限りは、この時点のアドル教は亜人排斥を謳うものではない。現在のアドル教主流派が信奉している教えはオミット王国崩壊後に改竄されているものである可能性が非常に高い」

「こうしてみると改竄前のアドル教は人間か亜人とか関係なく、皆同じ神様に創られた兄弟とも呼べる存在なのだから仲良く暮らしましょう、って感じの割と真っ当な宗教に思えるな」

「ん。もしかしたらオミット王国と黒き森のエルフとの関係が悪化するにつれて徐々に改竄が始まって、エルフによってオミット王国が滅亡させられたのを機に急速に教えの改竄が進んだのかもしれない」

「原本ともども写本が地下倉庫に放り込まれていたのもそういう理由があったのかもな。そんなご時世になってきたら、改竄前の経典とか悪書扱いされたりしたかもしれん」

「可能性はある。でも、あの倉庫を所持していた写本師は改竄前の経典を処分する気にはならなかったのかも」

「これ以外の経典は見当たらなかったし、改竄された経典を写本するのも、改竄前の経典が処分されるのも我慢ならなかったのかもしれないな。プロ意識が高かったのかね」


 この経典が保管されていた倉庫の持ち主に思いを馳せる。実際には単に売れないから地下倉庫に放り込んでいただけかもしれないけど。


 ☆★☆


「というわけだ。アドル教の教えが改竄されていることはほぼ確実だな」

「ふゥン。あんまピンとこないねェ」

「アドル教と言えば聖王国、聖王国と言えば亜人排斥、亜人排斥と言えばアドル教みたいなイメージっすからね」

「本当のアドル教が亜人排斥を謳ってないとか言われてもね」

「すぐに我々がアドル教徒を受け容れるのは無理ですね」


 鬼娘ズ&ザミル女史の反応はごもっともだ。アドル教を国教とする聖王国が亜人排斥を掲げて活動すること既に数百年。その間に積もり積もった互いの敵愾心はそう簡単にどうにかなるものではないだろう。


「私達を助けてくれたのは神でも精霊でもなくコースケさんですし」

「そうですわね。旦那様のほうがよっぽどご利益がありますわ」

「現世利益ましましやねぇ」

「……」


 昼食として出したクレープをはむはむと食べながらハーピィ達がそう言って俺に視線を向ける。寡黙を通り越して無口の領域に入っているエイジャも目をキラキラさせながらコクコクと頷いている。


「人族はくだらんものを信じておるのう、としか言えんな」


 クリームとフルーツマシマシのクレープを頬張りながらグランデが呆れている。弱肉強食の魔物の世界に生きるドラゴンに言わせれば宗教なんてものはナンセンスでしかないのかもしれない。

 ちなみに、昼食のクレープはクリームとフルーツマシマシのものと、肉や野菜を挟んだものを半々で出した。甘いほうが圧倒的に売れ行きが良いですね、はい。8:2くらいにしても良かったかもしれない。


「それで、目的も果たしたことだしもう帰るのかい?」

「そうだな。畑に植えた作物が明日辺り収穫できるはずだから、明日収穫して後方拠点に帰還。ここの管理について引き継ぎをしてアーリヒブルグへ、って感じで良いんじゃないか?」

「……またアレに乗るのかい」


 シュメルの顔から血の気が引いていく。シュメルは高所恐怖症みたいだからなぁ。


「まぁ、そうなるな。空飛んだほうが早いし」


 一応昼飯を食った後に改良型エアボードを完成させて明日の後方拠点までの移動には使うつもりだが、後方拠点からはゴンドラを使ってグランデに運んでもらうつもりだ。


「そ、そんなに急ぐ必要はないんじゃないかい? ほら、予定よりも早く目的のものを見つけただろう? あの……そう、エアボードとかいうのを使って移動するのもあたしは良いと思うよ。ほら、試験とか色々しなきゃいけないんだろう?」


 シュメルがダラダラと汗を流しながら必死にグランデによる空輸を拒否しようとしている。


「シュメル姐必死っすね」

「必死ね」

「グランデ様に運んでもらうのが畏れ多いというのはわかりますが……」


 うん、ザミル女史の考えはちょっとずれてると思うよ。畏れ多いとかじゃなくて怖いから絶対に乗りたくないだけだろうし。


「どうする?」

「シュメルの言うことにも一理ある。後方拠点からアーリヒブルグまでエアボードで走るのは走行試験としては悪くない。後方拠点からアーリヒブルグまでは徒歩でおよそ二週間の距離。試作型のエアボードでどれくらいの日数で走破できるのかは興味がある」

「有用だということの証明にはなるか。燃費もある程度わかるだろうし」

「ん。アーリヒブルグから何か急報があればグランデに運んでもらえばいい」

「そうだな。とりあえず後方拠点に行って、後方拠点の大型ゴーレム通信機でアーリヒブルグのシルフィに連絡して、問題ないようならエアボードの走行試験がてら陸路で帰るか」


 アイラが頷き、シュメルが拳を握ってガッツポーズを取った。そこまで嫌だったのか。


「それじゃあ昼食を終えたらちょっと食休みして、改良型エアボードを仕上げちゃうか。ザックリとは作ったんだけど、魔法道具の微調整とか大型化とか効率の面でどうしたら良いか詰まってたんだよ」

「ん、手伝う」

「じゃあ、あたしたちは……畑の世話かねェ?」

「もうハーピィさん達が終わらせてるっすよ。やることがないなら休憩で良いんじゃないっすか?」


 ベラがこちらに視線を向けてきたので、俺はザミル女史に視線を向ける。


「良いのではないでしょうか。私は槍を振るっていますが」

「ザミル様はストイックね。私はエアボード作りを見物してようかしら」


 そういやサイクロプスって結構ものづくりが好きなイメージがあるな。トズメもそういう傾向があるんだろうか?


「私達は辺りを偵察してあの遺跡群の他に何か無いか見てきますね」

「妾は寝てる」


 勤勉なハーピィさん達に比べてグランデはこれである。でも、このところグランデは色々と働いてくれたからな。本来食っちゃ寝するのが当たり前なのがドラゴンなわけだから、グランデの行動も当たり前といえば当たり前か。俺達の尺度でグランデの行動を評価するのはよくないな。


「それじゃそういうことで、午後も事故や怪我のないようにしていこう」


 俺の言葉に皆がそれぞれ了解の意を示した。それはそれとして甘いクレープが品切れ……はい、追加で出します。甘くないのも美味しいですよ? あ、枚法が良いですかそうですか、はい。

 売れ残りのクレープはお夜食として俺とグランデとシュメルで美味しくいただきました。

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― 新着の感想 ―
あ、枚法→甘い方が こっちですね。甘いのが好きな女性陣
[気になる点] 枚法が⇒無い方が の誤字なのかな?
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