第164話~本当に申し訳ない~
目的の書物を見つけた俺達は即座に拠点へととんぼ返りし、アイラは経典の解読、俺は大型エアボードの作成、他の皆は思い思いに休むということになった。
大型エアボードの作成そのものは特に難しいところはない。各パーツを大型化して補強するだけだからな。問題は、レビテーションの魔道具や推進装置の出力調整と、スロットルの調整か。あとは方向舵をつけてみるかね。
風塵対策はガラス製の風防……いや、搭乗者用のマスクとかゴーグルを作ったほうがお安いな。大型のガラス風防となると重量も嵩むし。アイラの手が空いたら風の防壁魔法を展開する魔道具でも作ってもらうとしよう。
問題はランニングコストだな。推進装置はかなり燃費が良いんだが、レビテーションの魔道具が結構魔力を食うみたいなんだよなぁ。今は四角形のボードの四つ角に一基ずつレビテーションの魔道具……長いな、浮遊装置で良いや。浮遊装置をつけているわけだが、なんとか工夫してこれを減らせないものか。
ボード自体を四角形から三角形とかに変えて、浮遊装置を三つにしてみるか? いや、浮遊装置を超大型化して、接地面全体を浮力の発生源にするのはどうだ?
今は浮遊装置という点を複数設置して板を支えている。四角形の板だから四つ設置して、四点で板を支持しているわけだな。これを点ではなく面にすればどうだろうか? 試してみるか。
「真剣な表情っすね」
「旦那さんはものづくりをしている時はいっつもあんな感じやねぇ」
「あの表情をした後にとんでもないものが出てくることもありますが」
少し離れた場所からベラとカプリとザミル女史が改良型エアボードを作っている俺を見守っている。いや、ベラは見守っているというよりは興味本位で眺めてるだけだろうな。もしかしたらまたエアボードに乗りたいとか思っているのかもしれない。
次にぶつけて大破させたら虎柄のマイクロビキニを着せてやるからな、お前。先っぽしか隠れないような布面積のほぼアウトなやつ。
「うっ!? な、なんか悪寒がしたっす」
冒険者としての勘が危険を感じ取ったのか、ベラがブルリと身を震わせている。なかなか良い反応だな。でも、また試作品を壊したりでもしない限りそんな未来は訪れないはずだから多分大丈夫だ。多分。
作業を進めていると、遠くから戦闘音らしきものが聞こえてくる。いつのまにかザミル女史が見当たらないので、たぶんザミル女史と誰かが模擬戦でもしているのだろう。
出力テストを行った大型推進装置がまたもや黒き森方面に吹っ飛んでいくという事故があったが、それ以外の作業はスムーズに進んだと言って良いだろう。いや、この前の失敗を反省してそれなりにしっかりと台に固定して出力テストをしたんですよ? でも想像以上の出力でね……僕は悪くない。運悪く飛んでいった推進装置が直撃した人が居なければ良いんだが。
というかこれ、考えてみたらあれだよな。魔煌爆弾を遠くに飛ばして炸裂させるのに丁度良いのでは……? 精密爆撃を考えずに遠距離の広範囲を殲滅するなら二十連装のロケット方式とかにすればとんでもないことになりそうだな。数万単位の軍勢を粉砕するんじゃなかろうか。
ははは、危険なことを考えるのはこの辺にしてちょっとしまっておこうか。文字通りの大量破壊兵器になりかねん。というか槍やら剣やら騎兵やらで向かってくる相手に多連装ロケット砲を使うとか無慈悲にも程があるよな。ははははは! こっそり開発しておこう。
「なんかすごい悪い顔してないっすか?」
「あれは何か危ないもののアイデアを思いついたときの顔ですね」
「大丈夫なんすか?」
「本当に危ないものの場合、よほどのことがない限り持ち出したりしないから大丈夫ですよ」
ピルナの察する能力に若干戦慄を覚えるんですけど。なんだかんだでピルナは俺が銃やら爆弾やらを作り始めた頃からずっと俺を見てるんだよな。なら察する能力が培われているのも納得か。
それにしても、エアボードに関しては部品だけなら作業台で作れるのに、完成形のエアボードは作業台で作れないんだよな。これは何故なんだろうか? まだ試行錯誤の段階だからなのかね。部品がクラフトできるのは、部品単位では既に完成品のレベルまで来てるからってことなんだろうか。
それなりの期間俺の能力に関しては色々と検証を重ねてきたわけだが、未だにまだよくわからない部分が多いな。本当にヘルプ機能とかが欲しいわ。
☆★☆
結局改良型エアボード作成は最後までは行かなかったので、完成はまた明日だ。日も落ちてきたので皆で集まって夕食を取り、食後にアイラの進捗を聞くことにする。
「結論から言うと、これは懐古派の求めていた経典そのもので間違いない」
「そうなのか」
「ん。まだ途中までしか解読できていないけど、今のところ亜人を排斥し、隷属化を推奨するような内容は確認できない。私はそこまでアドル教の教えに明るくないけれど、私も知っている有名な亜人排斥を謳う項目が全く違う内容になっている」
「ほぉ……それはまたなんとも」
そう言えば、俺はこの世界の言葉を自動的に理解できる能力があるっぽいんだよな。俺がこの経典を見たらどうなるんだろうか? と思ってアイラの前に置いてある経典の原本にさらっと目を通してみる。
「コースケ読める?」
「読めるわ」
アイラやシルフィが使っている文字とは明らかに違うのが見てわかるのだが、その内容は問題なく頭の中に入ってくる。これはもしかして俺が解読作業を手伝ったほうが作業が遥かに捗るのでは?
そう思ってアイラに視線を向けると、物凄いジト目で睨まれていた。
「結構苦労して解読してた」
「……正直申し訳ないと思っている」
「これは謝罪が必要だと思う」
「本当に申し訳ない」
こういう古文書の解読とかは魔道士で頭脳労働担当のアイラが適任だと思いこんでいたんだよ。自分がドラゴンの言葉でもなんでも異世界の言語なら理解できる謎能力持ちだってことを普段からくあんまり意識してなかったんだ。
結局明日一日、アイラのリクエストする食事とデザートを提供するということでなんとかご機嫌斜めになったアイラの機嫌を取ることに成功した。半日の努力を無駄にしたのにこの程度で許してくれるアイラは優しいと思う。
そういうわけで、明日は俺とアイラの二人で経典の解読をすることになった。アドル教の教義にも少し興味があったし、丁度良かったかもしれないな。
ここのところいろいろやることが多かったせいかバテ気味……!_(:3」∠)_




