第161話~私は許そう>(゜∀゜ )~
だがこいつが(ry
ベラとトズメが左右から扉を蹴り破り、シュメルとザミル女史が疾風の如き速さで部屋に突入していく。俺とアイラ、グランデもその後に続くと、部屋の中は中々に広い空間だった。
施設管理者の応接室兼執務室といったところだろうか?
『よくぞここまで辿り着い――ちょ、ま……ああアアァァAHHHHHHH!?』
そして、執務机の前にいた禍々しいローブ姿の人物が速攻でシュメルに金砕棒でぶん殴られ、床にべしゃりと潰れたところをザミル女史の短槍でザクザクと突かれまくっていた。
『痛い痛いすごく痛い!? まって! タンマ! ストップ! 降参するから許してプリーズ!』
「なんか命乞いしてるよォ?」
「構わん、やれ」
「はいよォ」
こいつが友好的な存在だというなら俺達が道中グールに襲われる前に警告するなり、ここに来るまでに話しかけるなりいくらでも事前にコンタクトを取る方法があったはずだ。
それなのにここでふんぞり返って待ち受けている辺り、絶対にまともなやつじゃない。
『ああぁぁぁぁぁぁ待って待って待って! 何かお探しなんですよね!? お役に立ちますよ!』
振り上げられた金砕棒を見て黒ローブが悲鳴を上げる。役に立つという言葉を聞いてザミル女史も攻撃の手を止め、俺にちらりと視線を向けてきた。どうしますか? ということだろう。
「どう思う? アイラ」
「リッチの言うことなんて信用できない。消滅させたほうが良い」
「ほう、リッチ。俺の認識ではリッチというのはアンデッド化した古代の強力な魔法使いって感じなんだが、合ってるか?」
「合ってる。コースケの世界にもいた?」
「いや、想像上の存在だな」
絶対に存在しなかったと断言することはできないが、魔法というものが無かった世界だしまぁいなかっただろう。
『大丈夫! 大丈夫です! リッチとは言っても死者の指輪で成った即席リッチですから! 雑魚リッチですから! 実際安全!』
「と言ってるが?」
「死者の指輪は装着者が死んだ時に自動的にリッチにする古代の遺物、と言われている。ただ、今までにその存在が確認されたことはない」
『これ! この指輪がそうです! 嘘じゃないです!』
ローブ野郎――リッチが差し出した右手の中指(骨)に嵌っている黄金の指輪を見せてくる。なるほど。
「興味深い。没収する」
『取られたら消えちゃうから! 消えちゃうから許してください! なんでもしますから!』
「ん? 今何でもするって言った?」
『え? はい』
リッチが顔を上げて俺の方を見てくる。うん、ガイコツだ。目の奥に青い炎の灯ってるガイコツだな。こいつ、信用できるのだろうか?
「じゃあ、お前の目的を話せ。何のために死者の指輪とやらを使ってリッチになって、こんなところに引き篭もっていたんだ?」
『えっと、クソエルフどもがオミット王国に攻めてこんできたんですよ』
リッチは石の床に正座をして語りだした。オミット王国には正座の文化があったのだろうか。
「それは知ってる。それで?」
『それで、ここは死んだダンジョンを利用した避難壕でして、私を始めとした周辺住民の中でも地位の高いものがここに避難したんですね』
死んだダンジョン? 気になるワードだが、なんとなく意味はわかるからここはスルーしておこう。話が進まないし。
「お偉いさん専用の避難壕ってことか。で、それがどうして大量のグールとリッチが蔓延るダンジョンになったんだよ」
『出入り口がエルフ共の爆撃で潰されまして、救助を待っていたんですが救助は来ず、次第に備蓄食料も尽きて内部抗争がですね……で、私は一応ここの責任者だったんですが、割と真っ先に殺されまして』
「それでリッチになったと」
俺の言葉に正座したリッチが頷く。
『はい。ただリッチになった直後に殺された怒りと恨みではっちゃけてしまいまして』
「何をしたんだ」
『ついカッとなって残りの食料と水に呪いをかけて生存者同士で殺し合いをさせてしまいました』
「思いっきり行動が邪悪じゃねーか。やっぱ消滅させたほうが良いんじゃないかこいつ」
「それがいい」
アイラが俺の言葉に同意して頷く。他の面子も同様の反応である。そりゃそうだよな。
『待って待って待って! じゃすとあもーめんと! それで、見ての通り私を殺した奴らはグールになったわけですが、長い年月奴らがグールとして彷徨っているのを見ているうちに恨みと怒りも収まったんですよ』
「恨みとかがなくなったらこういうアンデッドって消滅するもんじゃないのか?」
「普通はそうじゃな。だが、聞く限りこいつは普通のアンデッドではないからのう」
いつでもリッチに飛びかかれる態勢を維持したまま、グランデが答える。グランデの言葉にリッチも頷いた。
『はい。死者の指輪の効果で消滅することもなく、理性を取り戻したわけです。でも、自分で死者の指輪を外して消滅する勇気も無く……』
「それであれか、ダンジョンマスターごっこをすることにしたのか」
『はい。まぁ暇だったので大体休眠してましたが』
「なるほど……どう思う?」
「理性があってもリッチはリッチ。危険なアンデッドには変わらない。消滅させたほうが良い」
「私もアイラと同意見ですね」
「アンデッドは世の理に反した存在じゃ。消滅させるのが理に適っておるのう」
「あたしは難しいことはよくわかんないけどねェ。でも生かしておく理由も無いんじゃないかい?」
「あたいはわかんないっす」
「ダンジョンマスターごっこと言っても、下手すれば私達はグールに引き裂かれていたわけよね。殺意を向けてきた相手に同情する余地はないと思うけど」
同行者達の意見はリッチに厳しかった。まぁアンデッドだしね。突然本性を現して生者を襲わないとも限らないし、わざわざ生かして――生かして? おく理由もないか。安全に制御する方法でもなければ。
「安全にこいつを飼う方法は無いんだよな?」
「腐ってもリッチ。従属させるのは無理」
「奴隷の首輪とかも無理か?」
「無理。というか、死者の指輪なんて持っている人物が倫理観に溢れる善人であるわけがない。死霊魔道士なんてどいつもこいつも外道」
『酷い差別だ!?』
「死霊魔道士自身が積み上げてきた世間の評価。実際お前も私達にグールをけしかけた。反論の余地はない」
アイラが恐ろしく冷たい目でリッチを見下ろす。うーん、残当。
「じゃあ、そういうことで」
『くっ……! こうなったら……!』
キッと俺を見たリッチの目が怪しく輝く。なんじゃらほい?
『ふはははは! 油断したなバカどもめが! その男の意識は我が乗っ取った! その男の命が惜しくば――』
「今、何かしたか?」
『……へっ?』
リッチが唖然とした表情を浮かべる。いや、なんか目がピカピカしてたけど何かされたのか? 意識を乗っ取ったとか言ってたから催眠とか洗脳とかそんな感じのことでもやったのかね。
「多分何かの精神魔法。洗脳か催眠か強制。魔力のないコースケには効かない」
「なるほど……つまり俺に攻撃したわけだな」
俺がリッチに視線を向けると、リッチは媚びるような笑顔を俺に向けてきた。ガイコツでも笑顔って浮かべられるんだなぁ。
『ど、どうかお許しを……』
「私は許そう」
俺は努めて笑顔を浮かべた。俺の笑顔を見たリッチが安堵の表情を浮かべる。表情豊かなガイコツ野郎だ。
「だがこいつが許すかな!?」
俺はミスリル銀ジャケット弾を装填したサブマシンガンをリッチに向け、引き金を引いた。
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
正座をしていたリッチがミスリル銀ジャケット弾の連射を受けてバラバラになっていく。やっぱりマフィア御用達のマシンガンを作っておけば良かったな。
ばらばらになったリッチの右手の中指の骨から死者の指輪を引き抜き、ばらばらになった骨をインベントリに入れておく。
「実に無駄な時間を過ごしたな」
「まったくだねェ……」
シュメルが肩を竦める。いや、情報も何も得られなかったしマジで無駄な時間を過ごした。とっとと漁るものを漁ってこんな辛気臭い場所からはおさらばするとしよう。
☆★☆
「おかえりなさい!」
「ご無事で何よりですわ」
「お疲れ様やったねぇ」
「……」
地上に戻るとハーピィさん達が飛んできて労いの言葉をかけてくれた。畑の世話が終わった後、皆で探索拠点の周辺警戒をしながら待っていたらしい。
「中はどんな様子だったんですか?」
「グールだらけだったぞ。一番奥にリッチがいた」
「コースケがさぶましんがんでバラバラにした」
「流石は旦那様ですわ」
全員で拠点に戻り、遺跡から引き上げてきたがらくたを確認しながら一つ一つ並べていく。
「壊れている物が多いねェ」
「なんだかんだで数百年前のものですからね。内部抗争もあったようですし」
「でも金目のものも多いっすね。宝石とか貴金属とか」
「あのリッチが有力者の避難壕って言ってたのは本当みたいね」
年月とグールどもの蛮行によって壊れたりしているものも多いが、貴金属を使った装飾品や調度品などがなかなかに多い。壊れているものに関しては鍛冶施設の修理機能を使って修理しておけば価値が上がるだろう。
アイラには引き上げた遺物の目録を作ってもらうことにする。
「装飾品や調度品が多いのう」
「武器や魔道具もいくらかありますね。ゴミも多いですが」
壊れたベッドとかタンスとかの家具の残骸が多い。あと、破られた絵画とか衣服の類は修復ができないみたいだな。
「本も色々あるけど、教典の類は無いみたい」
書籍に関しては日誌のようなものや暇つぶし用なのか物語や旅行記などの本などが多く、あとは魔導書や技術書が少々。残念ながらお目当ての古いアドル教典は見当たらなかった。残念ながらあの避難壕に信心深い人はいなかったようだ。
「とりあえず、金にはなりそうなものが多かったから探索としては成功か」
「そうだねェ、冒険者的には大成功だねェ」
「コースケさんが冒険者になったら滅茶苦茶稼ぎそうっすよね」
「こんなに沢山のものを持ち帰れるってだけで冒険者としての大成が約束されているようなものね」
荷物がいくらでも持てるってだけでもかなり反則だよな。よくわかる。インベントリに所持量や重量の制限がないのは俺も助かっている。これがね、制限されているサバイバル系のゲームが多いんだけどね。俺的にはイージーで大助かりだよ。いきなりこの世界に放り出されたことそのものはハードだったけどな。
「任務的には大成功とは言い難いですね」
「仕方ない。まだ一箇所目、まだまだ探索すべき場所はある」
そう言いながらアイラは回収してきた物の目録を作っている。この目録を元に、後日見つけた品の価値に応じてシュメル達に追加報酬が与えられることになっているのだ。俺とアイラとザミル女史、それにハーピィさん達は解放軍に所属しているからそういうのはないけどね。
ちなみに、グランデは解放軍に所属しているわけじゃないからシュメル達と同じ扱いだ。
「今晩はあれだな、冒険の成功を祝して宴会だな」
「お、いいっすね! 流石はコースケさん、わかってるっす!」
ベラが心底嬉しそうに声を上げた。ふふふ、いつもよりも豪勢な食事と酒を出そうじゃないか。
そういうわけで、俺達の初めての遺跡探索は成功裏に終わったのだった。さて、次も上手くいくと良いが。




