第160話~これはずんびーですか?~
いいえ、ぐーるです_(:3」∠)_
ゾンビ。
それはサバイバーにとっては馴染み深い存在だ。多くのサバイバル系のゲームで敵役を務める非常に使い勝手の良いキャラクターである。
概ね歩く死体という描写であることが多く、最近はのたのたと歩くだけでなくスプリンターも顔負けの速度で走ってくるようなやつも多い。俺としては走ってくるタイプは邪道だと思う。ゾンビの恐怖というものはその『数』と『噛まれたら一発アウト』という二点に集約されていると考えているからだ。
走るゾンビが怖いのは、ゾンビはノソノソと歩くものだ、という常識が前提にあり、その常識が破られる事による驚愕と恐怖という面が強いと思う。要は、ノソノソと歩くゾンビという正道があっての走るゾンビという詭道ということである。
いきなり何の話だって? ここまで話せばなんとなく想像はつくだろ?
「走るゾンビなんてクソ食らえだ! オラ滅びろやぁぁぁぁぁ!」
カカカッ、カカカッ、という乾いた音と共に亜音速で発射された鉛弾が走り寄ってくる動く死体を撃ち倒す。
「コースケ、これは動死体じゃない。屍食鬼」
押し寄せてくるゾンビ――ではなくグールに雷撃の魔法を浴びせながらアイラが間違いを指摘してくる。そんなこと言ってもお父さんは騙されませんよ。感染者だとかランナーだとか変異者だとかグールだとか、ゾンビという言葉を使わなければ許されると思いやがって。
「コースケさんのあの武器、めっちゃ強くないっすか?」
「至近距離で長弓を連射するようなものですからね。強力な武器です」
ベラが斧で、ザミル女史が短槍でそれぞれグールを叩き斬り、刺し貫きながら俺が発砲しているサプレッサー付きサブマシンガンの評価をしている。君達、余裕あるね。
「しかし数が多いねェ……」
「どうやってこんな状況になったのかはあまり考えたくないわね」
シュメルとトズメはそれぞれ金砕棒とウォーハンマーを振り回してグール達を薙ぎ払っていた。なんでもこのグールという奴らは餓死した人族の成れの果てなのだという。それがもう既に二十体近く……トズメじゃないが、本当に何が起こったのかなんて考えたくもないな。
「しかし、ここは何の施設だったのかね……?」
撃ちきったマガジンを交換し、発射準備を整える。このサブマシンガンの箱型マガジンには30発の銃弾が入るようになっているが、調子に乗ってガンガン撃っているとすぐに撃ち尽くしてしまう。このサブマシンガンはフルオート射撃しかすることができないので、引き金を引きっぱなしにせずに点射を心がけるのが重要だ。フルオートで弾をバラ撒いても無駄になることが多いしな。
「なかなか広大な地下施設。収容人数も多い。これだけの人が生き埋めになって餓死するというのはなかなか特殊な状況。この地下施設は避難壕か何かとして使われていたのだと予想できる。ただ、上に建てられていた遺構が何なのかは見当もつかない」
「これだけの人数がいて脱出することができんとは。軟弱だのう」
凶悪な爪でグールを引き裂き、強靭な尻尾でグールをぶっ飛ばしながらグランデが呆れたように呟く。確かに、これだけの人数がいれば力を合わせて土を掘れば脱出することもできたんじゃないかと思うよな。
「土魔法を使えば簡単に外に出られたんじゃないのか?」
「多分。でも、エルフ達を警戒して潜伏しているうちに不測の事態が起こったのかもしれない。真相は闇の中」
「どこかに手記でも残っているかもしれませんね」
最後の一体を始末したザミル女史が短槍を振って血糊を切る。グールが身に纏っている殆ど原型を留めていないボロ布を使って更に血糊を拭う辺り、かなり手慣れてるなぁ。
「怪我はしてない?」
アイラの問に皆が口々に無事を報せてくる。アイラが言うにはグールの爪や牙には毒があるらしく、ちゃんと解毒しないと体が痺れて動かなくなったりするのだそうだ。そして動かなくなったところを生きたまま……というのが対グール戦における負けパターンらしい。
「意外と凶悪だな、グール」
「身体能力は一般人より少し高い程度で、訓練を受けた兵や冒険者なら難なく倒せる。でも決して油断して良い相手じゃない」
俺にも効くのかね、その麻痺毒。うーん、こんなに沢山押し寄せてくるならマフィア御用達のドラムマガジンを使えるサブマシンガンの方が良かったかもしれないな。狭い場所での戦闘になりそうだったから今回の採用は見送ったんだよなぁ。今度作っておくとしよう。
「グールの死体って何か使い途があるのか?」
「爪や牙から取れる毒は使える。上手く調整すれば麻酔薬にもなる。あとは稀に何か金目の物を身に着けていることがある」
「なるほど。一応回収しておくか」
閉鎖空間に大量の死体を放置しておくのは色々とまずいからな。そのうちこの地下施設も何かに使うかもしれないし、できるだけ綺麗にしておくに越したことはないだろう。
何かに使う可能性なんて今の所思いつかないけどな。後方拠点からも遠いし。
「内部は荒れてるねェ……こりゃ戦いの跡じゃないかねェ?」
回廊を移動していくつかの部屋を見て回るが、調度品が破損している部屋が多く、どうにも争いの形跡と思われるものも散見される。
「仲間割れでもしたんすかね?」
「閉じ込められて食料や水が少なくなれば内部抗争が起こる可能性も十分ありえますね」
「地獄絵図じゃねぇか……」
そして最後は仲良く餓死して死後もグールとして何百年も彷徨うとか……あまりにも悲惨な末路に身震いする。
「コースケ」
「おう」
部屋の中のガラクタを片っ端からインベントリに収納していく。何をしているのかと言うと、こうすることによって探索を一気に終わらせているのだ。俺のインベントリの中に入れてしまえばそれがどんなものなのか、名前だけはわかるようになる。
今回はそれを利用して部屋の中のものを全てインベントリに収納し、脱出後に仕分けするということに決めたのだ。なんだかんだいって一番時間がかかるのはこういう部屋の探索だからな。ゴミだったら後でまとめて処分すればいいし、修復する価値のあるようなものであれば鍛冶施設で修理するという手もある。修理に関しても予約さえ入れておけば寝ている間、こうして探索している間にも進んでいくのだから、修復するものの数やそれにかかる時間などは考慮する必要もない。
無論探索を進めていけば。
『GYOAAAAAA!』
という感じでグールとかその他諸々のアンデッドが出てくるのだが。
「ふんっ!」
「せぇい!」
「はっ!」
「シッ!」
「おりゃあ!」
シュメル達三人に加えてザミル女史とグランデまでいるので、殆ど出オチ状態で即現世から退場コースだ。この地下施設に侵入してすぐにあった大広間での戦闘以来、俺とアイラの出る幕はまったくない。
「グランデ様は流石ですね」
「うむ、そうじゃろうそうじゃろう」
今回、一人で部屋に突入して一瞬で四体のグールをミンチにしたグランデをザミル女史がヨイショしている。リザードマン・リザードウーマン的にはドラゴンという存在は崇敬の念を覚える存在であるらしく、ザミル女史は何かにつけてグランデに構っていることが多い。
「似たような広さの部屋が多いな」
「ん、砦か何かみたいに見える。もしかしたら軍事施設だったのかもしれない」
「地下軍事施設か……エルフがそんなものを見逃すかな?」
「エルフは大雑把。特に長老達の世代は」
「……そうだな」
反論の余地がなかった。まぁ、軍事施設だと決まったわけではないが、それに準ずる施設である可能性は高いか。少なくとも、個人レベルでこんな広大な地下施設を運用していたとは思えないし。
「これだけ大きい施設なら、蔵書庫とか偉い人の部屋に本がありそうだよな?」
「可能性はあるねェ。問題は、それがどこなのかがわからない上にあちこち瓦礫で埋まってる箇所があるってことかねェ」
「瓦礫に関してはコースケ殿にかかれば何の障害にもならないでしょう」
「瓦礫の撤去はまかせろー」
「妾にも任せるが良いぞ」
グランデも瓦礫の撤去に名乗りを上げる。確かに守りの腕輪を外したグランデは力も強いし、ちょっとした重機並みの働きができそうではあるな。
そんな話をしながら進んでいくと、正面に両開きの大きな扉が見えてきた。トズメが扉に罠がないかどうかを確認し、アイラが魔法を使って内部の様子を探る。
「結構強い魔力の反応がある。今までのグールよりも強いアンデッドがいるかも」
「ん、そうかい。じゃァ、ちょいと気合を入れていくとするかねェ」
シュメルが金砕棒を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべた。その横に短槍を構えたザミル女史も並ぶ。どうやら二人で突入するらしい。この戦闘、勝ったな。




