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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の森でサバイバル!
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第015話~そんな話は聞きとうなかった……~

「おはよう」


 パチリと目を覚ましたシルフィに早速朝の挨拶をする。シルフィはまだ寝ぼけているのか、暫くぼーっと俺の顔を見つめた後、急に顔を真赤にした。


「わすれて」

「何を?」

「いいから、わすれて」


 シルフィは真っ赤になった顔を隠すように俺の胸に顔を押し付けてきた。それは逆効果では、と思ったが可愛いのでそのままにしておく。


「別に良いじゃないか。シルフィと俺はもう夫婦みたいな痛い痛い痛い!」


 噛み付くのはやめなさい! そこはダメだって! 特に使い途はないけどちぎれちゃうから!


「わすれろ」

「おーけーおーけー、忘れた。だが提案がある」

「なに」

「日が昇ってる間は忘れるけど、日が落ちたら思い出す。日が落ちたらシルフィは俺に思う存分甘え痛い痛い痛い痛い!」


 らめぇ! ちぎれちゃうぅ! いやほんとマジで!


「かんがえておく」

「そうしてください」


 許された。

 そうして俺達は昨日と同じように身を清め、朝食を取りながら今日の予定について話し合う。今日の朝食は昨晩のキーマカレーみたいな料理の残りを温めて、刻んだ野菜と一緒にケバブ生地のようなもので包んだものである。料理の名前は特に無い。あえて付けるなら残り物ブリトー?


「それで、今日はどうする?」

「そうだな、野菜が少なくなってきたから食料庫に行って配給を受ける。蜜酒も欲しいから、ヤッキと交換する。その他に欲しいものがあればコースケが岩から取り出した宝石の原石を使おう」

「宝石ね。宝石なんて需要があるのか?」


 俺はこの里のエルフをじっくり観察したわけじゃないが、少なくともじゃらじゃらと目立つように装飾品を身に着けているようなエルフはいなかったように思う。長老衆はジャラジャラとまではいかずともいくらか装飾品をつけていたけどな。


「勿論、ある。宝石は魔法の触媒になるし、加工すれば魔道具の材料にも、精霊石にもなる」

「お、ファンタジーっぽいね。具体的にその三つはどういうものなんだ?」


 魔法らしい魔法はシルフィにかけてもらった生命の精霊とやらを使った回復魔法と、俺を暴徒を吹っ飛ばした風の魔法くらいしか見ていない。折角魔法のある世界なんだから、そっち方面の見識は広めたいよな。


「宝石にはその色に対応した魔力が染み込んでいるだ。赤い宝石なら火の力、青い宝石なら水や氷の力、緑色の宝石なら風の力、黄色い宝石なら土の力、透明な宝石には光の力、色の濃い宝石には闇の力といったようにな。そういった宝石を魔法の触媒として使うことで、魔法の威力が上がるんだ」


 そう言ってシルフィは自分の腕輪を見せてくれた。シルフィの腕輪には青い宝石と緑の宝石、それに輝く透明な宝石が嵌っている。


「私の腕輪は風と水、そして光の魔法の触媒としての役割がある。無くても魔法は使えるが、あったほうが少ない魔力で強力な魔法が使えるわけだな」

「ふぅん、アンプみたいなものか」


 きっと特定の魔力を強くするみたいな効果があるんだろう。いいなぁ魔法。使えたら面白そうなんだが。


「触媒としての能力はそのまま魔道具にも応用される。私は職人じゃないから詳しいことはわからないが、魔道具作りにおいて宝石は絶対に必要な部品なのだそうだ」

「なるほど。それで、精霊石ってのは?」

「宝石に魔力と一緒に精霊を封じ込めたものだ。言わば、精霊の仮の住処のようなものだな。精霊は自然界に遍く存在しているものだが、場所によって特定の精霊の力が弱かったり、場合によってはまったく居なかったりする。風の通らない真っ暗な洞窟の中に風や光の精霊は居ないし、枯れ果てた荒野に水の精霊はいない。勿論、そうなれば対応する精霊魔法を使うことはできない」

「なるほど、風や光の精霊石を持っていれば洞窟の中でも風や光の精霊魔法が使えるわけだ」

「そういうことだな。あとは、精霊石を代償として強力な精霊魔法を使う、といったことも可能だ」

「ロマンがあるな」


 恒常品として使える品を代償に強力な一撃を放つとか、まさに男のロマンみたいな仕様である。ほら、某有名フリーシナリオRPGのファ◯ナルストライクとかああいうロマン砲ってワクワクするよな。


「つまり、エルフにとって宝石は戦略物資のようなものということだな」

「そうだな。五つも精霊石を使い捨てれば一〇〇人規模の人間の軍団くらいは蹴散らせるだろうな」

「なにそれすごい」


 ちょっとした戦術兵器じゃないか。そりゃ価値もあろうというものだ。五つで一〇〇人を撃退できるというのは、ちょっと想像がつかない。地球の兵器でも五発で一〇〇人を撃退できる武器というと、携行兵器のレベルじゃないな。戦車でも五発の砲弾で一〇〇人は倒せないだろう。もう艦砲射撃とか航空爆撃とかのレベルだ。


「ちなみに、どんな感じの現象が起きるんだ……?」

「火の精霊石なら火の上級精霊が現れて敵陣で大暴れする。辺り一面火の海だ。風の精霊石なら風の上位精霊が竜巻や落雷を呼び寄せるだろう。他の精霊の話も聞きたいか?」

「いいや、十分だ」


 まさに災害級の事象が起こるということがよくわかった。他の属性の精霊石もロクなことが起きないに違いない。


「黒き森の外に広がるオミット大荒野だがな」

「うん?」


 シルフィの唐突な話に思わず首を傾げる。


「あの土地にはその昔オミット王国という国があったのだそうだ。今は広大な荒地になっているがな。あの土地が荒れているのは精霊力に異常があるせいでな?」

「そんな話は聞きとうなかった」


 オミット荒野って抜けるのに徒歩何日だっけ? そんな広大な土地を荒地にするとか、いったいどれだけ精霊石を使ったんだよ。実はエルフってものすごくヤバい奴らなんじゃないのか。


「ええと……話が逸れたな。で、配給と物々交換を終えたらどうするんだ?」

「メリナード王国の避難民達にお前を紹介する。長老どもにお前が稀人であることを明かしたのだ。最早コソコソと隠れる必要もないからな、お前の能力を含めて事情を説明して防壁作りについての話を進める」

「なるほど」


 それに関して少し考えてみる。俺はシルフィに対して能力の開示を制限していた。何故か、と言えばシルフィが何の目的で俺に近づいてきているのかがわかっていなかったからだ。流石に平和ボケしている日本人である俺にも目的を明かさずにすり寄ってくる相手を警戒するくらいの危機感はあったわけだ。

 だが、今のシルフィはその目的を俺に公開した。何故急速に接近し、肉体関係を結んでまで俺を籠絡しようとしたのかという疑問は解決したと言って良い。そして、俺としてもシルフィに力を貸すのは吝かではないと思っている。

 自分の目的のために操を捧げるほどの彼女の覚悟に報いたいという話だ。いや、正直に言えば肉体関係を結んだ彼女に情が移っているんだな。それも仕方がないだろう。彼女は美人だし、俺の好みだ。可愛いところもあるし、境遇だけ考えても応援したいと思う。それに、なにか大きな目標があったほうが生活にハリが出るというものだ。


「一応、俺の能力に関して難民達に全て公開するのは保安上の観点からあまり良くないと思うが」

「む、どういうことだ」


 食後のお茶を飲んでいたシルフィが憮然とした表情をする。恐らく、メリナード王国の避難民がその情報を元に俺に被害を齎すとでも言うのか、とでも言いたいのだろう。


「直接的に難民達が俺に何かするとは思わない。でもこの先シルフィはメリナード王国を取り戻していくんだろう? そうすると相手は魔物だけじゃなく人間ってことになる。この先、俺はほぼ間違いなくシルフィのやることの多くを助けていくことになるだろう。自惚れるつもりはないが、俺が居なくては成り立たないとかそういうレベルでシルフィのやりたいことに寄与していくと思う」

「……コースケが私の弱点になるということか」


 深刻そうにそう言ってシルフィは俯きその細い顎を撫でた。少し考えた後に顔を上げて俺の目を真正面から見つめてくる。


「問題ないな。私がずっとコースケの傍にいれば良いだけの話だ。私の隣がコースケにとってどこよりも安全な場所だからな」

「やだ、発言が超イケメン」


 それに対して自分が一番の弱点だとかのたまう俺のなんと惰弱なことか。穴があったら入りたい。


「ふふ、ちょういけめんというのは何かよくわからないが、褒められているのはわかるぞ。さぁ、動こう。今日も忙しいぞ」

「アイアイマム」


 食後のお茶を飲み終えた俺達はシルフィの家を後にした。今日は昼飯は作っていない。シルフィ曰く今日は外食をするらしい。


 ☆★☆


「ここが里の倉庫だ」

「でけぇな」


 職人街の一角にその倉庫はあった。里に住んでいるエルフが何人いるのかは知らないが、過剰に大きいように思える。


「人間とやりあっていた頃の名残らしいぞ。私も詳しくは知らんが」

「なるほど」


 オミット大荒野を文字通りの荒野に変えるほどの戦いをしていた頃はこの里ももしかしたらもっと大きかったのかもしれないな。そんなことを考えながらシルフィの後を着いていくと、倉庫の管理番なのか武装したエルフが何人かいた。難民対策だろうか?


「おはよう、シルフィエル。それと、噂の奴隷か」


 倉庫に近づいた俺達に挨拶をしてきたのは無表情な男のエルフだった。シルフィだけでなく俺にもチラリと視線を向けてきたが、俺を広場に放り出したエルフ兵と違って敵意などは感じない。


「ああ、物資の配給と交換を受けたくてな。配給の方は野菜が少なくなったから、ディーコン以外の野菜を一通りだな」

「ああ、用意させよう。交換というのは?」

「蜜酒を樽で八つ、あと穀物粉も同じく八袋だな。塩は壺で四つ」

「随分な量だな」

「民達にな。ヤッキと石を出せ」

「はいよ」


 シルフィに目配せされたので、インベントリから内臓を抜いて川で冷やしただけのヤッキの死体を倉庫の床に置く。まだ毛皮が濡れているせいかベシャッと音が鳴った。それと木皿を取り出し、その上に採掘した宝石をばらばらと載せていく。その宝石の原石を見て無表情だった男エルフの目が大きく見開かれた。


「なんと、宝石の原石がこんなに……いや、それにどこからともなくヤッキや宝石を……いったいどんな魔法を使ったんだ、シルフィエル」

「ふふん、こいつは使えるやつなのさ。それで、これで交換の対価は十分か?」


 シルフィが胸を反らしてドヤ顔をする。やだ、奴隷自慢するうちのご主人様かわいい。


「過分だな。最近は質の良い石があまり入ってきていなかった。職人達がこぞって石を求めるだろう」

「そうか。ならオニールとガリケ、ペパルもくれ。多めにな」

「わかった」


 エルフ達が倉庫に入っていき、穀物の入った袋や一抱えほどもある樽を持ってくる。俺はそれらをせっせとインベントリに入れた。恐らく、難民達に振る舞うつもりなんだろう。


「よし、行くぞコースケ。それではな」

「ああ」


 倉庫番のエルフ達に見送られながら難民達の居住区へと向かう。俺としては苦い思い出というか、怖い思い出しかないんだが……さて、どうなることやら。

短くてすまない……本当にすまない……お詫びにコースケのB地区を噛む権利を――あっシルフィさんゆるして中身でるぅぅぅ_(:3」∠)_(踏まれ

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