第151話~納品~
なんかしらんがずつうがぺいん!_(:3」∠)_
さて。各々に渡す武器のクラフト予約も済んだので、あとは出来上がりを待つのみである。
「物資倉庫に納品に行こうと思う」
「ん、忘れてるのかと思った」
「いや、クラフトは予約入れてから出来上がるまで時間かかるからな。とりあえず先にクラフト予約を入れて、それから納品に行こうと考えてたんだ」
「そう」
決して忘れていて、今思い出したというわけではない。だからアイラ、その生暖かい目で見るのをやめてくれ。それは俺に効く。
「え? これで作業終わりっすか? 炉に火を入れて金属を溶かしたり熱したり、カンカン叩いたりしないんすか?」
「俺の能力はな、作るものを指定してあとは施設任せで自動で出来上がってくるんだ。凄いだろう?」
「職人に喧嘩売ってるわね、その能力」
トズメが呆れたような視線を向けてくる。アイラと同じような大きな一つ目だけど、トズメはクール系の美人さんだし、身長の関係上見下ろしてくる形になるから迫力があるな。
「ははは、そうだろう。だから職人の皆さんに言ってはダメだぞ。闇討ちされるかもしれん。まぁ、大量にモノを作る場合は自重して職人の皆さんとは競合しないものだけにするとか、どうしても緊急に必要な場合とか、そういう時だけにしてるから大丈夫なはずだけどな」
「自重しなかったらどうなるんすか?」
どうにも想像がつかないらしいベラが首を傾げる。まぁそうよね、具体的な数字が出ないと実感わかないよね。
「例えば今だと作業台一つにつき、一分半以下で鋼の剣や槍が一本作れる。つまり、一時間で四〇本作れるわけだ、作業台ひとつあたりで。作業台を五つに増やせば一時間に二〇〇本の鋼の剣や槍が出来上がる。そしてクラフトはやろうと思えば一日中だって動かしていられる。つまり、丸一日で四八〇〇本の鋼の剣や槍が作れるというわけだ。作業台を増やせば鎧兜も同時に作れる」
「……恐ろしいっすね。武具職人なんて必要なくなるっす」
「そうだろう? しかもこれは武器だけの話じゃないぞ。鍋だってフライパンだって農具だって食い物だって、服だって薬だってなんだって同じように作れるんだ。俺が自重しなかったらそういったものを作っている人が死ぬんだ。経済的に」
しかも品質は安定しており、粗悪品は一切ない。試しに作った鋼の剣を本職の鍛冶職人に見てもらったが、名剣には程遠いけど上質な鋼の剣だという評価を貰った。つまり、一般的な鋼の剣よりも品質が良いという評価なのだ。
そんなものが大量に出回ったらどうなるか? 想像するのはあまりにも容易だ。
「コースケは皆のことを考えて自重できる。えらい」
「ははは、そうだろうそうだろう。もっと褒めてもいいぞ」
「夜になったらお姉ちゃんがいっぱい褒めてあげる」
「お姉ちゃん……?」
「アイラはアレで三十何歳だか四十何歳だかだよォ。二〇年前の時点で宮廷魔道士だったらしいからねェ」
「マジっすか」
怪訝な表情をするトズメにシュメルがアイラの歳を暴露し、ベラが驚愕する。うん、見た目はちっこいけど俺よりも年上のレディなんですよ、この子。体型と口調で幼く見られるけど。
「んじゃ行ってきまーす」
「私もついて行く」
「どうします?」
「あたい達もやることないし、ついていきましょう」
「あたしはここで待ってるよォ。通りがかりの誰かがいたずらしないとも限らないしねェ」
作業台の見張りをかって出たシュメルを除く四人で物資の備蓄倉庫へと移動を開始する。アイラが小さな手を伸ばしてきたので、その手を握ってゆっくり歩くことにした。
手の大きさが違い過ぎて所謂恋人繋ぎはしにくいんだよな。だからなのか、こういう時アイラは俺の人差し指と中指だけを握ってくる。彼女的にはこれくらいがベストフィットらしい。
「なんつうか、見てるだけで当てられそうっす」
「下手したら親子に見える身長差だけどね……ヒェッ」
アイラが親子発言をしたトズメを振り返った瞬間、トズメの怯えたような声がした気がする。きっと気のせいだよな、ははは。マジギレしたアイラは怖いから発言には気をつけたほうが良いぞ。
和やかな雰囲気のまま暫く歩き、物資備蓄倉庫にたどり着いた。管理官らしきリス系の獣人がトコトコと歩み寄ってくる。
「コースケ様、お待ちしておりました!」
「悪いな、先にちょっと寝床の方の確認に行っていたんだ。これが目録だ」
メルティから預かってきた物資の目録をインベントリから出してリスの管理官に手渡す。今回持ってきたのは木材や精錬した金属、宝石の原石、香辛料の類や砂糖、保存の効く菓子に酒類などの嗜好品、塩漬けの肉、岩塩など後方拠点では手に入りにくい品がメインだ。
後方拠点でも金属の採掘は細々と行われてはいるが、採掘できる量も後方拠点内の需要を満たせる程でもない上に、ギズマに襲われる恐れもあって危険だ。木材にいたっては黒き森から運んでこないと入手自体が不可能である。周りは石と砂と土しか無い荒野なので。
嗜好品の類に関しても食糧生産が優先されている状態で、生産量は決して多くはない。畜肉に関しても家畜の飼育は始まっているもののまだまだ需要を満たせる状態ではなく、塩に関しても近くに採取できるような場所は無く、エルフの里とメリナード王国方面から運んでいる状態である。
それと、精錬した金属や宝石の原石、嗜好品などに関してはエルフの里との交易にも使える。というか実のところエルフとの交易用に用意してきたというのが実際のところだ。実際にどういう感じで交換するかは俺は知らんけど。
「今回は多いですねー。倉庫に入るかな?」
「貴重品もあるし、なんだったら頑丈なのをもう一つ作るか?」
「そうしてもらっても良いですか?」
リス獣人の管理官にアイラも交えて三人で倉庫を建てる位置や構造を検討し、倉庫の建て増しではなく、既存の倉庫の拡張という方法を取ることにした。俺が作った建物なので、作業自体は楽ちんである。普通に建てた建物だと屋根を支える柱とか色々考えなきゃいけないんだろうけどな。俺ならそんな難しいことを考える必要もない。
いや、ゲームによってはちゃんと重力が計算されてて、支える力より重量が重くなったりすると建物が崩壊するのとかもあるんだけどね。俺の能力はそうじゃないみたいだから楽でいいけど。
「ありがとうございます! これで問題無さそうですね!」
「棚とかは職人に発注してくれ」
「わかりました!」
リス獣人の管理官は部下らしき大柄の熊獣人や牛系の獣人に指示を出して俺がインベントリから出した大量の物資を次々と拡張した倉庫に運び入れ始めた。
「いやー、とんでもないっすね。三〇分足らずで倉庫がでかくなったっす」
「規格外よね。冒険者としても大成できるんじゃない?」
「荷物はいくらでも持ち放題、武器が壊れても現地で修理どころか作ることすらできる、安全な寝床に美味しいご飯も現地で用意できる、一パーティに一人は欲しい人材っすね」
「……」
アイラは二人の評価に何も口を挟まなかった。実は治療もできるとか、銃だのなんだので強力な遠距離攻撃もできるとか、他に冒険者として役立ちそうな能力もあるわけだが、そんなことを二人に伝えてもあまり意味がないからな。今更冒険者稼業に身をやつすつもりもないわけだし。
「とりあえず、今日の用事はもう終わり?」
「そうだな。あとは戻って武器の調整をしながらゆっくりするくらいで。なんなら久しぶりに色々と衣装でも作ってみるか?」
「まほーしょうじょふく?」
「まぁそれも含めて。ベラとトズメにも何か作ってやるよ。ドレスとか」
俺の言葉にベラとトズメが驚いた表情をする。良いね良いね、そういう反応。最近、俺の周りにいる人達は俺のやることに慣れてきてそういう表情を見せてくれないからな。
「へぁっ? ドレスっすか? あたい達の?」
「いや、そういうのは私達にはちょっと」
「二人とも美人だし、着飾れば映えるって。まぁ、今回の依頼の余禄だと思えば良い」
「既に余禄だけで家が建ちそうなんすけど」
ベラが真顔でそう言う。うーん? 市場価格は知らんが、ミスリル鉄合金の武器ってそんなに高いものなのか。鉄とミスリルの比率を考えると、ミスリルの量なんて微々たるものなんだけどな。
「まぁまぁ細かいことを気にするなって。ハゲるぞ」
「だから女に向かってハゲるって言うのはどうかと思うっす」
蓮っ葉な感じというか、下っ端っぽい言葉遣いの割にはベラは真面目なやつだよな。
「シュメルの言っていたことの意味がわかってきたわ……」
「ん? なんて?」
「いちいち突っ込むと疲れるから好きなようにさせて、黙って見てるのが一番疲れないって」
「ははは、シュメルめ。戻ったら白くてフリルとレースでふりふりふわふわのウェンディングドレスめいたものを着せてやる。二人とも手伝えよ」
「えぇ……まぁいいけど」
「怖いっすけど見てみたいから手伝うっす」
「私も手伝う」
ふふふ、四人がかりならさしものシュメルも抵抗できまい。今日は久々にファッションショーだな。




