第150話~本日の昼食メニュー:芋煮と焼き立てパン~
大食堂に入った俺達は配膳口への列に揃って並び、自分達の分が来るのを大人しく待っていた。
「今日のメニューは具沢山のスープとパンみたいだな」
「ん、芋と野菜のスープと焼き立てのパン」
「朝焼いたパンってわけじゃなく、焼き立てみたいですね?」
ピルナがクンクンと鼻を鳴らして首を傾げる。
「この拠点では脈穴から無尽蔵に湧き出す魔力を利用することができるから、燃料の節約をする必要がない。つまり、朝にいっぺんに一日分のパンを焼いたり、数日分のパンをまとめて焼いたりする必要がないということ」
「なるほど、だから食う度に焼きたてのパンを食えるってことっすね」
「焼き立ての温かくて柔らかいパンを毎食食べられるのはとても良いことね」
「焼いてから日数の経ったパンはボソボソで堅くてスープに浸してふやかさないと食べられたもんじゃないっすからねぇ」
アイラの解説に赤鬼娘のベラとサイクロプス娘のトズメが感心する。そうしているうちに俺達の番が来た。
「あら、コースケ様今日はこちらで食事を?」
「うん、皆が普段食べているものを知っておこうと思ってな。何か不足しているものとかは無いか?」
俺の言葉を聞いて配膳係の猿人族のおばちゃんはにっこりと笑った。
「大丈夫ですよぉ。野菜は沢山収獲できているし、ちょくちょくギズマが来て退治されるから、肉にも困りません。最近はメリナード王国の方からチャボ鳥や山羊も運ばれてきましたから、食生活はもっと充実していくと思います」
「そっか。何かあったらまとめ役の彼を通じてアーリヒブルグに陳情してくれよ?」
「はい、ありがとうございます」
あまり話し込んでも後ろの人に悪いので焼き立てのパンと具沢山のスープが入ったどんぶりのような深皿をお盆に載せて空いている席に向かう。程なくして全員が揃ったので、いただきますをして早速具沢山スープの攻略に取り掛かることにした。
「具はタルイモ、ニギ、カロル、ディーコン、ギャベジ、それにこれは……ギズマの肉か?」
「ん、多分そう。切り分けたギズマの肉を干したもの?」
「多分焼干しですわね。香ばしい香りが致しますし」
「足が早いギズマの肉を保存できるように工夫したんやねぇ」
スープの味付けは塩だけであるようだが、野菜とギズマの焼干しから出る出汁が効いていてなかなか美味しい。サトイモのような食感のタルイモと黄色くてニンジンに似た味のカロル、黒いダイコンのディーコン、真っ赤なキャベツといった外見のギャベジ。ニギはネギだな。俺の知るネギよりも太くて短いけど、味や香りはネギそのものだ。この世界でも香味野菜として使われている。
「うん、塩味の芋煮だな」
「ん、芋煮美味しい」
「野菜も芋もたっぷりで栄養満点ですね」
「ギズマの肉から良い出汁が出てるっすね」
パンの方は焼き立てで美味しいだけのパンだった。でも、スープにも合うし食べごたえもあるな。
「俺は美味しいと思うけど、この世界の食事のグレード的にはどうなんだ?」
「普通の農村の食事と比べるのはアレっすね。村の収穫祭のごちそうとかそういうレベルっすよ」
「私もそう思うわ。アーリヒブルグで銅貨五枚出して食べる食事より遥かに豪華ね」
「身体が大きいからって器も大きいのにしてくれたし、パンも三つもつけてくれたっす」
ベラとトズメが解説してくれる。確かに、二人とシュメルのスープの器は俺達よりも大きい。パンも三つついているようだ。
「毎食こんな感じで腹いっぱい食えるとか、天国みたいなとこっすね」
「コースケの力があってのもの。コースケの力がなかったら、この痩せて乾燥した土地でこんな生活は絶対にできない」
「そうですね。防壁も、家も、畑も、水源もコースケさんが作ったものですし」
「特に水源と畑が規格外」
まぁ無限水源と一週間で収穫できる畑だもんな。水と食料の心配がなければ人というものは割と穏やかに生きられるものである。
「それで、飯食い終わったらどうするんすか?」
「んー、寝床を確認して装備の確認かな。時間もあるから装備のメンテが必要なら請け負うし、欲しい装備があるならできる範囲で作るよ」
「それは何でも良いので?」
「まぁ、俺に作れる範囲のものなら」
ザミル女史の目が鋭い光を放った。あ、これはウカツをやらかしましたかね?
「では短槍を作っていただきたいのですが」
「アレの?」
「できれば。流星は長すぎて遺跡の内部などの閉所では扱いにくいので」
アレというのはつまり、ミスリルのことである。俺としてはミスリルなんていくらでも作れるわけだし別に構わないんだけど、シルフィからはあまりみだりにミスリル製の武器を作るなって言われてるんだよな。
「鉄合金製で良いなら」
「勿論それで構いません。純粋なものより重くなりますが、破壊力が増しますから。短槍ならかえって都合が良いです」
「……今日の晩までにどんな形状が良いか考えておいてくれ」
「御意」
ザミル女史がニタリと笑みを浮かべる。うん、ザミル女史のその顔は怖いんだよね。こう言っては失礼かもしれないけど、威嚇しているように見える。
「武器も作ってくれるんすか?」
「武器でも防具でもなんでもいいぞ。その分働いてもらうけど」
「素材は?」
「金属系の素材は鉄、鋼、真鉄、魔鋼、ミスリル合金各種。あと黒き森で採れる素材が色々、ワイバーンとかグランドドラゴンの鱗とかもあるけど」
用意してある素材の内容を聞いたベラとトズメがぎょっとした顔をした。
「うん、その反応も仕方ないと思うけどあるものはあるんだ。君達の戦力アップは俺の安全にも繋がるし、遠慮は要らないぞ」
「え……? えっ? マジっすか? マジっすか!?」
「ほ、本当に良いの?」
「うん、良いよ。シュメルの金砕棒も魔鋼で作り直すか? ミスリル鉄合金のが良いかな?」
「……ミスリル系の合金は基本的に鋭さと粘りが特徴だから、打撃武器には合わないよ。魔鋼がいいねェ」
今までずっと無言だったシュメルがやっと言葉を発してくれた。なんとか機嫌を取ることができたようだ。
「じゃあ、シュメルの金砕棒は魔鋼製にするぞ。長さとか形状とかに希望があるなら聞くけど」
「今のままで良いよ。多少重くなっても構わない」
「わかった。二人は?」
「あたいも柄の長さとかバランスとかは今使ってる斧と似てたほうが良いっすね。えっと、素材は……」
「斧なら刃物だしミスリル鉄合金で良いんじゃないか?」
「い、良いんすかね……? なんか分不相応な気が……」
「そんなもん武器に見合う腕になりゃ良いんだ。おたおたすんじゃないよォ」
あたふたするベラをシュメルが嗜める。うん、調子が出てきたようで何より。
「え、ええと、私は……」
「ああ、トズメの武器に関しては腹案があるんだ。シュメルが金砕棒で打撃、ベラが斧で斬撃を担当できるだろう? だから、トズメの武器は刺突もできるような武器はどうかと思うんだけど、どうだ?」
「刺突って、私は槍なんか使えないよ?」
「打撃も刺突も両方いけるように工夫するから」
今までハンマーヘッドのある大木槌で戦っていたなら、ウォーハンマーの類も上手く使えると思うんだよな。ハンマーヘッドは打撃部を広めにして、打撃部の片方は平たく、反対側は先端を鋭くすれば打撃攻撃も一点集中の刺突攻撃もできるだろう。あと、柄の長さとバランスを今使っている大木槌と同じように整えてやったほうが使いやすいだろうな。
「うーん、やる気が満ちてきた。とっとと飯を食って早速作りに行くか」
「私はコースケが無茶をしないように傍で見てる」
「じゃあ、私達は拠点内の見回りと情報収集の続きをしてきますね」
「隅々まで確認してきますわね」
「私は短槍のデザインを考えながら警備に当たっている者達の練度を見てきます」
アイラは俺の傍で監視、ハーピィさん達は情報収集を続行、ザミル女史は拠点の警備兵の訓練……頑張れ警備兵の皆さん。
「あたい達はどうすれば良いっすかね?」
「武器の調整とかしないといけないから、悪いが俺の方に付き合ってくれ」
「わかったよォ」
こうして本日の活動方針を決定した俺達は食事を終え、各々動き出した。
☆★☆
「さて、そういうわけで君達三人の武器をぱわーあっぽしていきます」
「あっぽ?」
「あっぽ。まずは作業台をドーン」
首を傾げるアイラに頷き、付与作業台とゴーレム式作業台、改良型作業台に鍛冶施設、といった感じで本日の宿となる建物の前に並べて設置していく。
「相変わらずあんたの使う力は面妖だねェ」
「どっから出てきたんすかね、これ」
「こまけぇこたぁいいんだよ。ハゲるぞ」
「女に向かってハゲるとか言うのはどうかと思うっす」
なかなか良い突っ込みを入れてくるベラをスルーして作業台の他にテーブルを出し、三人から預かっている武器をそれぞれテーブルの上に置く。
「相変わらずクッソ重いな。よくこんなの振り回せるな、シュメル」
「鍛え方が違うんだよ、鍛え方が」
「そんなに腕とか太くないのにな」
シュメルは確かに俺よりデカいし筋肉質だが、ちゃんと女性らしい柔らかさも兼ね備えている。ムッキムキビッキビキのマッスルボディってわけじゃないんだけどなぁ。不思議だ。
「コースケ、目つきがやらしい」
「冤罪だ。無罪を主張する」
とは言えあまり女性の体をジロジロと見るのも不躾というものだろう。作業に入るとするか。
「シュメルの金砕棒は工夫の余地がないから簡単だな。素材を魔鋼にするだけだし……それじゃつまらんな。何か面白機能とかつけてみるか?」
「そういうのは要らないよォ。あたしはそんな器用でもないしねェ」
「そうか? まぁそう言うなら」
というわけで、魔鋼を素材にして金砕棒を作る。ゴーレム作業台で作ればさほど時間はかからない。
「ベラの斧はどうすっかね。もうちょっと刃渡りを広くしてみるか?」
「あ、それは良いっすね。是非お願いしたいっす」
「んじゃバルディッシュ風にしてみるか。あまり柄は長過ぎない方が良いよな?」
「そっすね。あんまり長いと森の中とか遺跡の中とかで使いにくいんで」
それじゃあベラの斧は柄を切り詰めたミスリル鉄合金製のバルディッシュだな。ショートバルディッシュってところか。
「私の武器はどういう感じにするつもりなの?」
「おお、トズメのはこんな感じのにしようかと思うんだが」
と、そう言って俺は地面の土にトズメの戦鎚の絵を書いてみた。柄頭の片方は打撃面の広い平型、反対側はツルハシのように尖った形状。まぁ、典型的なウォーハンマーだな。普通のウォーハンマーに比べると柄頭の重量がかなりすごいことになってると思うが、サイクロプスのトズメなら多分使いこなせるだろう。ミスリル鉄合金は普通の鉄より若干軽いし。
「思ったより珍妙な武器じゃなくて安心したわ」
「おっ? なんだ? 珍妙でリリカルでマジカルな感じの武器にしてやろうか? サイクロプス魔法少女・トズメちゃんになるか? おっ? 今ならフリフリピンクの魔法少女コスチュームもつけてやるぞ? おォン? なんなら三人全員分作ってとりぷる☆オニキュアとかしちゃう? ん?」
「なんかよくわからないけどあたしは嫌だよ」
「やるならトズメだけにして欲しいっす」
「私が悪かったから許して」
トズメが土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。俺としては三人の魔法少女コスチューム姿も見てみたいし、オススメだぞ? 嫌だ? どうしても? なら仕方ない、勘弁してやろう。
「まほーしょうじょコスチュームって、私が前に着たやつ?」
「そうそう。新作を作ってみようか?」
結構前にファッションショーめいたことをしたことがあったな。その時にアイラには魔法少女風の服とか着てもらったんだった。
「今晩着る?」
「Oh……いいね!」
今夜はコスプレしてくれるらしい。前に作ったのはフリフリ系のやつだったな。今回はどんなのにしようかな。悩むね。
「とにかく作っていくか。恐らく大丈夫だと思うけど、重量バランスその他で不満点がある場合は言ってくれ。調整するから」
そう言って俺は武器の作成を開始した。




