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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
ドラゴンと黒き森でサバイバル!
137/435

第136話~黒き森の妖精樹~

アブナイ指摘をいただいたので該当部分を削除したゾ。

ありがとう親切な人!_(:3」∠)_

「おっきいねぇ!」

「ああ、でかいな」


 見上げて放った俺の言葉にシルフィが深く頷く。

 黒き森の最奥に聳え立つ大樹はとにかくでかかった。高さは何mあるんだろう? 枝葉で天辺が見えないから定かではないが、軽く100mは超えてると思う。枝の張り出している範囲も広い。野球場の広さを軽く超えているだろう。

 それに、根が凄い。地上にも波打って張り出している根の太さは軽く直径1mを超えているものが多数だ。それが更に折り重なり、絡み合って地表をのたくっている。なんというか、幹まで移動するのも一苦労な感じだ。


「里の集会場の木とは別の種類だよな?」

「葉の形が違うからな。しかし、雄大な姿だ……一体どれだけの月日ここに立ち続けているのか想像もつかんな」


 シルフィと共に木を見上げていると、はらはらと一枚の葉が俺達に向かって落ちてきた。シルフィがそれを器用に掴み取る。


「ふむ……やはり見たことのない葉の形だな」

「結構でかいな。これもアイラのお土産にするか」

「見たことがないものだろうし、案外喜ぶかもしれんな」


 シルフィから葉っぱを受け取り、眺める。まぁ、見たことのない形だけど普通の葉っぱにしか見えないな。形は……うーん、ブドウの葉っぱに似てるかな? 三方向に張り出しているような感じだ。とりあえず、インベントリに入れてみる。


・黒き森の妖精樹の葉×1


「お、インベントリに入れたら木の名前がわかったぞ。妖精樹だってさ」

「妖精樹……? 本当か?」

「うん、黒き森の妖精樹の葉って表示されてるから間違いないと思うぞ。この世界には精霊だけじゃなく妖精もいるのか?」


 精霊はシルフィが精霊魔法を行使する時に何度も見たことがある。ぼんやりと光る玉みたいなやつだ。なんだか知らんが、俺は精霊に好かれる体質らしい。エルフの伝承だと俺みたいな稀人は精霊に導かれてこの世界に来るそうだから、何か深い関係があるのかもしれんな。


「妖精樹には妖精の住処があるというが……コースケは妖精のことなんて知らないよな?」

「悪戯好きで羽の生えたちっちゃい存在ってイメージしかないな。この世界ではどうだかわからんが」

「概ね間違ってはいない。妖精は羽の生えた小さな人族といった外見で、背の高さは人間の大人の手首から中指の先くらいの小型の者もいれば、人間の子供とさして変わらない大きさの者もいるらしい。姿を消す能力を持ち、強力な魔法の力を操ることができるとされている」

「……強くない?」

「強い。妖精は基本的に無邪気で陽気な存在だが、怒らせるととても危険だと言われている。まぁ、人を殺すほど怒り狂うことはまず無いし、怒っても手酷い悪戯を受けるだけということが多いようだがな」

「こえぇなぁ……ってことはあまり近づかないほうが良いか?」

「もしかしたらグランデはそれを知っていて近くに降りるなりすぐに飛び立っていったのではないか?」

「あり得る」


 俺達をこの妖精樹の近くまで運んだグランデは「ちょっと急用を思い出したのじゃ」とか言ってすぐさまどこかに飛び立って行ったんだよな。俺達が何かを言う前に飛び立っていったので、どうやって合流するんだよって実はちょっと途方に暮れていたりする。

 まぁ、もし合流できなかったらエルフの里までゆっくり歩いて戻っても良いしな。危険な夜は地下シェルターなり高床式拠点なりに籠れば良いわけだし、水も食料も十分ある。シルフィがいれば自衛能力には不自由はしないし、俺だって無力ではない。へなちょこではあるけど。

 なんとかなるだろうということで俺とシルフィはまったく焦っていなかった。


「近づいてみるか?」

「うーむ、近くで見てみたい気持ちはあるが、あまり近寄って妖精達を刺激するのは良くないのではないか? あまりに大きいから近くまで寄ったら壁にしか見えなさそうだしな」

「それもそうか。もう少し見晴らしの良いところ……あの根っこの上に上って眺めるくらいにしとくかね」

「そうしよう」


 俺とシルフィは協力して高さ数mはある妖精樹の根を乗り越え、その上に腰掛けた。木材ブロックを積めばこれくらいなんでもない。


「風が心地良いな。さっきの泉よりも温かいし」

「そうだな。丁度過ごしやすい気温だ。そう言えば結構長くこっちの世界にいるけど、この世界には四季がないのか?」

「季節の移り変わりはあるぞ。今は秋だな。もうじき冬が来る」

「冬か……寒くなるのか?」

「そうだな。だが平地で雪が降ることはあまりないな。山の上など標高の高い場所なら雪が降ることもあるが。霜が降りるほど冬に寒くなることは稀だ」

「なるほど、かなり温かいんだな。俺の住んでいたところは冬はかなり寒くなるところだったんだ。膝くらいまで雪が積もるのは当たり前、暖房を入れなきゃ家の中のものが凍るくらい冷えるって感じでな」

「それは厳しいな……冬になると凍死者が続出しそうだ」

「今は暖房や水道なんかのライフラインがかなり普及してるから少なくなってるみたいだけど、それでも年に1000人以上は凍死者が出てるんだったかな……でも、春になると桜の花が咲いてな。綺麗なんだ」

「春に咲く花か……そのサクラやウメというのはどんな花なんだ?」

「桜はな、木いっぱいに薄いピンク色の花が咲くんだよ。本当に淡いピンク色でな。桜色、なんて呼ばれていた。花の期間は短くてな、散り始めると一斉に散るんだ。強い風に散らされて桜の花びらが吹雪みたいに舞い散って、桜吹雪なんて呼ばれることもあるな」

「それはとても綺麗なんだろうな……」

「ああ、綺麗だったよ」


 この世界では見られないだろうな、と内心思いながらその様を思い出す。桜の花びらが舞い散る光景を。

 そうすると、急に辺りに強い風が吹き始めた。


「むっ?」

「なんだ?」


 風は俺達の回りを囲むように吹いているらしく、風に吹かれた枯れ葉が俺達の回りをぐるぐると回り始めた。


「普通の風ではないな。妖精か?」

「周りにいるのか……? ん?」


 周りに吹きすさぶ風の中にピンク色のものが混ざり始めた。それは次第に数を増し、まるで吹雪のように俺とシルフィの視界を覆い始める。


「桜吹雪……」


 それはまさに桜吹雪だった。淡い桜色の花弁が視界いっぱいを覆い尽くし、渦巻いて舞っている。


「これが……? これは、妖精の仕業か」


 郷愁の念が強く呼び覚まされる。俺には故郷に残してきた家族は居ない。だが、郷愁の念が無いわけではない。この世界は、やはり俺の生まれ育った世界ではないのだ。

 目尻から涙が零れ落ちる。知らず知らずのうちに涙を流してしまっていたらしい。俺の顔を見たシルフィがハッと驚いたような表情を見せ、次の瞬間その美しい顔を怒りに歪ませて立ち上がり、鋭い視線を周囲に投げかけた。


「やめろ。いくらお前たちが善意でこれを為したのだとしても、コースケに涙を流させるのはこの私が許さない」


 シルフィの美しい銀髪がゆらゆらとまるで生き物のように動き始める。それと同時に桜吹雪はピタリと止まった。いや、消え失せた。舞っていた花弁も、それを舞わせていた風も幻のように消え失せたのだ。実際に、これは幻の類だったのだろう。


「ごめんなさい」

「まれびとさんがみたがってたから」

「だから、そのとおりにみせてあげたの」

「なくとはおもわなかったの」

「ごめんなさい」


 小さな声が辺りからいくつも聞こえてくる。どの声もしょんぼりとしていて、申し訳無さそうな声音だ。恐らく、妖精の声なのだろう。


「シルフィ、大丈夫だ。ちょっと懐かしくなって涙が溢れただけだから」

「本当に大丈夫なのか?」


 目尻の涙を手で拭い、笑顔を作ってみせる。シルフィはなおも心配そうな表情を見せたが、俺は彼女の言葉に頷いてみせた。


「ああ、なんでもない。俺のために怒ってくれてありがとうな。それと、周りにいる君達もありがとう。もう二度と見られないと思っていたから、嬉しかったよ」


 俺がそう言うと、再び周りから小さな声が返ってきた。


「ほんとう?」

「おこってない?」

「かなしくない?」

「ああ、本当さ! 俺が流した涙は悲しい涙じゃない、嬉しい涙、感動の涙だからな! 良いものを見せてもらった。ありがとう。シルフィだって綺麗だと思っただろ?」

「む……そうだな……確かに美しい光景だった」

「シルフィだってもう怒ってないよな?」


 俺がシルフィの服の裾を引っ張りながら笑顔でそう聞くと、シルフィは苦笑いを浮かべながら再び木の根に、俺の隣に腰掛けた。察してくれたようで嬉しいよ。


「そうだな……コースケが悲しくて泣いたんじゃないなら、私の怒りは筋違いだったな。妖精達、すまなかった」

「なかなおりしてくれる?」

「もうおこってない?」

「ああ、もう怒ってない。仲直りしよう」


 シルフィがそう言うと、風景から滲み出るように小さな人影がいくつも空中に現れた。それは、まさに妖精といった容姿の小さな人々だった。大きさはまちまちだが、概ね俺の掌に乗るようなサイズの子が多いようだ。背中には光る羽のようなものが生えており、それを小刻みに動かしている。羽からはキラキラと光る粒子のようなものが舞い散っているようだ。


「へぇ、これが妖精か……うん、いかにもって感じだ。実にファンタジーだな」

「私もこんなに間近で見るのは初めてだな。森で狩りをしている時に遠目で見かけたことは何度かあったが」


 妖精達はまだ警戒しているのか、それとも俺を泣かせたのを気にしているのか、俺達遠巻きに囲んでいた。どの子も怒られた子供のような表情をしているようだ。


「俺もシルフィももう怒ってないよ。むしろ、あんなに綺麗なものを見せてくれて感謝しているくらいだ。さぁ、仲直りしよう。仲直りの証に甘いお菓子はどうかな?」


 俺はそう言ってインベントリからクッキーの入った籠を取り出して見せた。ハーピィさんの卵とミノタウロスさんのミルクとバター、そして俺が作った畑から収穫された小麦粉とサトウキビからクラフトした砂糖を使った逸品だ。


「ほら、シルフィ。あーん」

「んむっ?」


 シルフィの口にクッキーを一枚押し込み、俺自身も一枚口に運んで見せる。こういうお菓子を初めて見る妖精もいるだろうから、先に手をつけたほうが妖精達も安心できるだろう。


「ほら、甘くてサクサクで美味しいぞ。遠慮せずに食べてみると良い」


 そう言って籠を差し出すと、妖精達は互いに顔を見合わせてからおずおずと俺達の傍に近づいてきた。籠の傍まで来た妖精がこちらの顔色を窺ってきたので、笑顔を返してやる。

 妖精はクッキーを一枚手に取り、両手で抱えあげようとした。しかし大きすぎてうまくいかないようだ。


「大きすぎたか」

「でかい、おもい」

「どれどれ」


 一旦籠を木の根の上、俺とシルフィの間に置き、クッキーを一枚手にとって細かく砕いた。粉々にするのは本末転倒なので、身体の小さな妖精でも簡単に持てるくらいの大きさに。


「これでどうかな?」

「ありがとう!」


 砕いたクッキーを掌の上に乗せて差し出すと、妖精はその中から一片手に取り、両手で持ってクッキーの欠片に齧りついた。


「さくさくであまくておいしい!」

「そうだろう、そうだろう。ほら、たくさんあるからみんなもお食べ。シルフィもほら」

「ああ」


 シルフィもクッキーを一枚手に取り、砕いて掌の上に乗せて差し出す。すると、妖精達がわっと集まってきた。最初は俺の手に多く集まったが、数が多くて俺の手から取りにくいと見た妖精の何人かがシルフィの手からクッキーを貰い始めると、様子を見ていた妖精達もシルフィの手からクッキーを手に取り始めた。


「おいしー」

「さくさく」

「あまーい」

「慌てて食べて喉を詰まらせないようにな」


 目をキラキラさせながらクッキーを貪る妖精達に苦笑しつつ、インベントリから木製の水筒に入ったミルクと深皿を取り出し、深皿にミルクを注いでやる。ミルクは勿論ミノタウロスさんのミルクだ。いや、なんかよくおすそ分けで貰うんだよ……ストックがそこそこあるんだこれが。

 口の中がパサパサになったのか、妖精達が深皿の縁に着陸してミルクに口をつける。特に忌避感とかは無いらしい。まぁ、ミノタウロスさんの母乳ですって言ってないしな。あえて言うこともあるまい。

 クッキーとミルクでお腹いっぱいになった妖精達は俺とシルフィの肩や膝、頭の上に乗って歌を歌ったり、俺達の目の前で踊りを踊ったりしてくれた。猫カフェならぬ妖精カフェ状態だな!


 ☆★☆


「またねー!」

「ばいばい」

「ありがとー」


 妖精達が山盛りのクッキーが入った籠を複数人でなんとか持ち上げて運びながら妖精樹の方に去っていく。妖精達の話を聞いたり、逆に請われて俺達の話をしてりしているうちに日が傾いてきたので、解散することにしたのだ。


「得難い体験だったな」

「そうだな。あんなに沢山の妖精と触れ合った者はそういないと思う」


 俺とシルフィは立ち上がり、互いに身体をポンポンと叩いてクッキーのクズを地面に落とす。妖精達がクッキーを食べながら俺達の話を聞いたりしてたからね。こうなるよね。


「さて……じゃあ少し離れたところにシェルターでも作るか」

「そうしよう。明日はグランデと合流したいな」


 話を聞いたところ、妖精達はどうやらドラゴンを怖がっているようで、近くにいると姿を表さなかっただろうということが知れた。きっとグランデは気を利かせてこの場に俺達を置いていったのだろう。


「明日はどこを案内してくれるのかな?」

「そうだな。グランデの故郷とか良いんじゃないか?」

「ふふ、それは楽しみだな。ちょっと怖いが」

「確かに」


 そんな事を話しながら俺達は妖精樹を後にするのだった。

超高層マンション的なアレ_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の人も言ってるけど、ウメの記述が無いのにいきなりシルフィが言ったのは、削除した部分にその記載があったのかな?
[気になる点] いきなりウメが出てくるのは言葉のキャッチボールの不調を感じました。無い方がスッキリするように思えます。 作者様の仕様でしたらすいません。一応誤字報告を使って書き込みもしていますので御一…
[気になる点] 「今は暖房や水道なんかのライフラインがかなり普及してるから少なくなってるみたいだけど、それでも年に1000人以上は凍死者が出てるんだったかな……でも、春になると桜の花が咲いてな。綺麗な…
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