第134話~コースケ、怒る~
「GYAUUUUUUU!(はんばーがーくれよヒューマン!)」
「GURRRRRRRR!(酒だ! 酒を持ってこいヒューマン!)」
「GYAOOOOOOOON!?(兄上達やめるのじゃー!?)」
響き渡る鳴き声を頼りに昨日ドラゴン一家を迎えた広場へと移動すると、そこにはジタバタするグランデとそのグランデを足蹴にして地面に押さえつけている二頭の兄ドラゴンがいた。
うん、まずはだな。
「今すぐグランデからその汚い足を退けろ、クソトカゲども」
俺、激おこ。
グランデの様子を見る限り、無体を働こうとする兄ドラゴンを止めようとしたのだろうということは想像に難くない。よく見ればあちこちの鱗に傷もついている。これは許せんよな?
「生意気なことを言ってないではんばーがーはよ!」
「酒! 酒を寄越せ! 今すぐ! はやく!」
なんでこいつらこんなに本能に忠実なんだ……『知能:動物並み』なのかな? グランデとかグランデママは比較的理性的なのに……グランデパパもまぁ、こいつらに比べれば理性的だったな。
単にこいつらの頭がクルクルパーなのか、それとも全体的にオスドラゴンが本能的なのか判断に迷うな。
「もう一度言うぞ。今、すぐ、グランデから、足を、退けろ!」
グランデを足蹴にしているクソトカゲ二匹に向かって指先を突きつける。
「おい、コースケ」
「シルフィ、相手がドラゴンだろうとなんだろうと俺の友達を足蹴にするような奴とは仲良くできないよ、俺は」
「ふむ……それもそうだな。私も同じ気持ちだ」
「そうだろう。ちょっと話をつけてくるから、シルフィはここで見守っててくれ。ヤバそうだったら助けてくれると嬉しい」
「わかった」
シルフィはそう言って頷き、俺を送り出してくれた。腕を組んで仁王立ちし、事態を静観する構えのようである。
「コ、コースケ、流石に兄上達に喧嘩を売るのは……」
「馬鹿、妹を足蹴にする兄なんざゴミクズだ。何より友達を足蹴にするやつなんて許せんね。というわけで今すぐ足を退けろクソトカゲ。従わないならぶっ飛ばす」
「貧弱なヒューマンがどうやってだ? 良いからとっととはんばーがーをよこせよ」
「酒! 酒!」
兄ドラゴンAは俺を嘲笑うかのようにグルルルと喉を鳴らし、兄ドラゴンBがゴッフゴッフと興奮したかのように息を吐く。うん、駄目だこいつら。
「最後通告だ。グランデから足を退けろ。でなきゃぶっ飛ばす」
俺の言葉に兄ドラゴンズは従わず、むしろグランデを踏んでいる足に力を込めたようだ。
「むー……っ!」
グランデが苦しそうな声を上げてジタバタする。
うん、ぶっ飛ばす。
俺はインベントリからとあるものを取り出し、構えた。大型の回転弾倉を持つグレネードランチャーだ。装填してあるのは40mm多目的榴弾が六発。50mmほどの装甲貫徹能力もある一品である。
「なんだそr」
「ぶっ飛べ」
ぽしゅっ、ぽしゅっ、ぽしゅっ、とちょっと気の抜けたような発砲音が連続で響き、グレネードランチャーから飛び出した多目的榴弾が空中に弧を描いて飛翔する。
「んごぉっ!?」
飛翔した多目的榴弾は一発も外れること無く兄ドラゴンAの顔面や首に着弾し、爆発を起こした。流石にこれはたまらなかったのか、兄ドラゴンAの首が大きく仰け反る。
「てめぇもだ」
再びの発砲、三連射。流石に兄ドラゴンBはこれを回避しようとしたが、今度の狙いはデカい胴体だ。あの図体で避けられる筈もなく、三発の多目的榴弾を胴体に食らった兄ドラゴンBがたたらを踏んで後退する。
「いててててっ!?」
「ちょ、コースケ、妾にもなんか破片がっ」
「それはすまん」
リロードアクションをしながら文句を言うグランデに素直に謝っておく。ぶっちゃけ俺にはあいつらを素手で殴ってどうにかする腕力はないので、こういうものに頼るしかないんだ。すまんな。
「いてぇだろうがこのヒューマン! その喧嘩買って――」
ぽしゅん、ぽしゅん、ぽしゅん、ぽしゅん、ぽしゅん、ぽしゅん。
「痛っ! 痛いっ! や、やめっ! 痛いからっ! やめて!」
無言で兄ドラゴンAに六連射を食らわしてやると、流石に多目的榴弾は効くのか兄ドラゴンAに泣きが入り始めた。着弾地点から血が流れ出ているので、50mm程度の装甲貫徹能力でもドラゴンにはそこそこ効くらしい。これはガチガチの対戦車ロケットランチャーとかならドラゴンを仕留められるかもしれんね。
「こうさんしますからゆるして」
兄ドラゴンBは三発食らった上に六連射を食らった兄ドラゴンAの惨状を見てあっさりと降伏した。仰向けにころんと転がって完全に服従のポーズである。
俺は無言でリロードアクションを行い、再度兄ドラゴンAに六連装グレネードランチャーの銃口を向ける。
「ぼくもこうさんしますごめんなさいゆるしてぽしゅぽしゅやめて」
「……二人ともグランデに謝れ。そうしたら許してやる」
「グランデごめん。ふんだのゆるして」
「踏んづけてごめん、妹よ」
「う、うむ。許すぞ」
「よし、そのまま動くな」
念の為石材ブロックで埋めるようにして兄ドラゴン二頭を拘束し、傷口から流れ出る鮮血を500mlのガラス容器にたっぷり八本分ほど回収してから二人の傷を治療してやった。
シルフィは俺が行う一連の作業を何故かニヤニヤしながら眺めていた。なんだろうか?
「傷は治した。見てたとは思うが、お前たちの生き血を迷惑料としていくらかもらった。良いな?」
「「はい」」
俺の施した拘束から開放され、並んで座らされた兄ドラゴンズが素直に頷く。
「で、食い物と酒だったな」
「……」
「昨日はグランデにいつも世話になってるから、故郷に帰ってきて再会した家族への挨拶という意味で食い物と酒を振る舞ったわけだ。グランデには普段から酒と食い物を提供してるが、それは一方的なものじゃない。俺とグランデは対等な関係だからな。何かしら働いてもらって、その対価として俺は食い物と酒を提供している」
「「はたらく?」」
兄ドラゴンズが同時に首を傾げる。くっ、ちょっと可愛い。面構えは凶悪だけど。
「そうだ。中型、大型の魔物を狩って持ってきてもらったり、血や鱗を提供してもらったりな」
「「なるほど」」
「今日のところは仲直りの証ってことで食い物と酒を出す」
「「!!」」
「明日以降も飲み食いしたければ、黒き森の奥の方に生息してる中型、大型の魔物を狩って持ってきてくれれば食い物と酒を出そう。つっても、あんまりでかすぎてもなんだから、ワイバーンくらいのサイズのやつで頼むぞ」
「「わかった!」」
「あと、俺がいる間だけの話だ。俺は一週間もしないうちにもっとずっと北にある人族達の住んでいる街に戻るからな」
「「そうか……」」
兄ドラゴンズがシュンとする。なんとかしてやりたいが、エルフの里の生産力でドラゴン二頭の胃袋を支えるのは無理だろうし、どうしようもないな。俺もグランデだけならともかく、兄ドラゴンズまで養うのはしんどいし。まぁ、一応長老衆に相談はしてみるか。
「さぁ、話は終わりだ。仲直りしようぜ」
「おう!」
「仲直りだ!」
がおーっ、と兄ドラゴンズが吼える。うるさいうるさい。
石材ブロックを設置して兄ドラゴンズ用の食事台を作り、特大チーズバーガーと蜜酒の大樽をだしてやる。
「うまー! なんだこれ! きのうのよりうまい!」
「チーズバーガーだ。ハンバーガーにチーズというものを追加した特別なやつだぞ」
「ちーずばーがー! うめー!」
「酒……酒……」
兄ドラゴンAがはしゃぎながら特大チーズバーガーにかぶりつき、兄ドラゴンBは蜜酒の大樽に頭を突っ込む。AはともかくBは大丈夫なのかこれ。アル中ドラゴンなのかな?
「グランデも食うか?」
「う、うむ……」
なんか歯切れの悪い様子を見せるグランデにも特大チーズバーガーを振る舞ってやる。この後俺とシルフィを乗せて飛んでもらうので、酒の提供はなしだ。飲酒飛行は怖いからな。
「なんだよ、歯切れの悪い感じだな」
「べ、べつになんでもないのじゃ」
グランデが俺から視線を逸らしながら特大チーズバーガーをチマチマと食べ始める。いつもは大口開いてガブリとやるのに、なんだか上品な感じで食べてるな。どうしたんだこいつは。目を逸らしてるのにチラチラと見てくるし。尻尾がベシベシと地面を叩いているから機嫌が悪いわけじゃないみたいだが。
「万事うまくいったようだな」
事態が上手く収まったと判断したのか、後ろから近づいてきたシルフィが声をかけてきた。
「見ての通りだ。ま、なんとか仲直りできて良かったな。本気でかかってこられなくて良かったよ」
兄ドラゴンズがこっちを最初からぶっ殺すつもりで突撃してきていたら危なかったかもしれない。まぁ、その時は石ブロックで防壁を作ってチマチマ攻撃するつもりだったけどな。武器も六連装グレネードランチャーじゃなくて対戦車ロケット砲か対戦車無反動砲にしてたね。
「ふふ……コースケは強いな。ドラゴン二頭を手玉に取るとは。伝説に聞く勇者も真っ青だぞ?」
「武器が強いだけだから。俺自身は弱っちいクソ雑魚ナメクジだから。この世界の戦士と比べるとめちゃくちゃひ弱だぞ、俺」
「コースケは自分を過小評価しすぎだ。距離を空けた状態から戦えば、私だって勝てるかどうか」
「一瞬で負けると思うが」
目視できない速度で接近されて近接戦を仕掛けられたらあっさり死ぬぞ、俺。そりゃグランデみたいなでかい相手には強いかもしれないけどな。この世界のトンデモ人族と対人戦は無理ゲーやで。
「ふふ、本当か? 今度試してみるか?」
「やめてくれよ……シルフィと戦うなんて絶対やだよ」
後ろから抱きついて耳元で囁くのはやめてください。刺激が強いので。というか、折角シルフィが抱きついてくれているのに革鎧のせいで幸せな感触が殆ど伝わってこない。がっでむ。
「……」
シルフィとイチャついていると、グランデがチーズバーガーを食うことも忘れて何故か俺達をガン見していた。俺と視線が合うと慌てるかのように視線を逸らしてまたちょびちょびと特大チーズバーガーを啄むように食べ始める。なんかグランデの様子がおかしいなぁ。
ちなみに対戦車ロケット砲の威力だと当たりどころが悪ければ一撃で死んだり四肢が吹っ飛びかねない。
40mm多目的榴弾の威力は人間で例えると刃先を1cmくらい出したカッターでブスブス突かれるくらい。
なかなか致命傷にはならないけど超痛い。そして本来傷つくことなんてまずないドラゴンはとっても痛がりさん_(:3」∠)_




