第132話~竜と心を通わせる者~
実際には餌付けしただけ_(:3」∠)_
グランデママに顎を砕かれて涙目になっているグランデパパの治療をしてやっているとエルフの兵を引き連れたシルフィがやってきた。グランデママがくるる、と鳴いて警戒したのが伝わったのか、シルフィが兵達を止めて自分ひとりだけで近づいてくる。
「念のために戦力を整えてきたが、問題無さそうだな。どうしたんだ、その竜は」
「食べ物を粗末にしてグランデのママドラゴンに制裁されたパパドラゴンだ。ちなみにそっちのドラゴンがグランデのママドラゴン、あっちでハンバーガーを貪ってるのがグランの兄ドラゴンA、酒樽に頭を突っ込んで動かないのがグランデの兄ドラゴンBだ」
「AとBって……まぁ良い。このドラゴン達はエルフの里を焼き払いに来たとかそういうことではないんだな?」
「ああ、それはない。グランデパパが過保護っぷりを発揮して俺に文句を言いに来ただけだ。グランデママは多分グランデパパがやりすぎないようにお目付け役でついてきたんだと思う。兄ABは見ての通りグランデが話したハンバーガーと酒に釣られてついてきたんだと思うぞ」
「そうか、ではそう伝えてくる」
シルフィが踵を返してエルフの兵達の方向へと戻っていく。その後姿を見てグランデママがくるるる、と鳴いた。
「あれがあなたのつがい?」
「そうだ。美人だろ?」
「人族の美醜は私にはわからないわ。でも、強そうな雌ね」
「強いし美人だし最高だぞ、シルフィは」
「グランデちゃんは?」
「ん?」
「グランデちゃんは?」
グランデママが同じことを二回言って俺をじっと見下ろしてくる。なんだこれは。一体どうすればよいのだ。
「グランデは可愛いよね」
「そうね、グランデちゃんは可愛いわね。それで?」
「どうしろと? 身体の大きさも種族も違いすぎてどうにもできないだろう」
比較的ストライクゾーン広めな俺でも流石に無理である。俺が女でグランデが雄だったらもしかしたらワンチャンあったかも……? そうだとしてもぼこぉ、ひぎぃみたいなのはノーセンキューなんですが。
「気合でどうにかならない?」
「どうにもならんわそんなもん」
無理を言わないで欲しい。
「仕方ないわねぇ……」
ぶしゅー、と鼻で溜息を吐いてグランデママが諦めてくれる。鼻息で吹き飛ぶかと思ったわ。
グランデはそういうのじゃないから。癒やしのペット枠だから。いつまでもそういう存在でいてほしい。
「なんかその……すまんの、コースケ」
グランデママから解放された俺にグランデがそっと話しかけてくる。
「気にするな……グランデの帰省で舞い上がってるだけだろう」
「うむ……人とドラゴンがそんな関係になるなど、伝説でしか聞いたことがないからの」
「むしろそういう関係になる伝説があることが驚きなんだが……」
「人間の娘に恋をした竜の雄が人間に姿を変えてその娘と添い遂げた、なんて伝説は聞いたことがあるぞ」
おー、なんかよくありそうな話だな。日本昔話とかでそういうのなかったっけ? 鶴の恩返しの水龍バージョンみたいな。
「竜って人間に変身できるのか?」
「妾は伝説以外では聞いたことがないの」
「そうか」
つまりグランデの竜娘化フラグなんてなかったってことだな。頭に角、背中に翼、太い尻尾に手足は鱗とごっつい爪、でも顔は美少女! って感じなら大歓迎なんだけどな。
流石にいくら正確と仕草が可愛くてもディアブ○ス相手では無理があるよ。うん。
「だが待てよ……? 人間の大きさになれればもっと腹いっぱいはんばーがーやほっとけーきを食えるのでは……?」
食欲に忠実なグランデがくだらない理由で人間化を目論み始めた。いや、人間みたいな大きさになったら胃袋も一緒に小さくなるだろうから相応の量しか食えないと思うよ。
「ドラゴンの姿のままでもたんと食わせてやるから。変な気を回すな」
「そうか……?」
グランデがあまり納得のいっていない様子で首を傾げる。
いいか、そもそも俺のキャパシティはシルフィとアイラとハーピィ達でもういっぱいいっぱいだったんだ。そこにメルティが加わって割とピンチなのに、そこに竜娘と化したグランデが加わるとか完全にオーバーキルだよ。これからエレンだって加わる予定だっていうのに。
治療の終わったグランデパパにも改めて食い物を提供し、酒も追加して歓待した後、ドラゴン達には帰ってもらった。グランデママが美味しい食事のお礼だと言って夫と息子達の鱗を置いていってくれたので、収支的にはプラスなんだろうな、これは。
え? どうやって鱗を置いていったのかって? なんかこう、前足の爪でゴリゴリと毛繕いならぬ鱗繕いをして、剥がれ落ちたのを進呈していってくれたよ。なんか鱗繕いされたオスドラゴンズが涙目になってた気がするけど、きっと気のせいだと思う。
里を騒がせたお詫びにエルフの里にも何枚か進呈したらエルフの鍛冶屋と細工師達が目をギラギラさせていた。やはり竜の鱗はどこでも喉から手が出るほど欲しがられる貴重品であるらしい。
そして、シルフィの家への帰り道でのことなのだが……何故かエルフ達の俺に対する扱いが良くなったように思う。
今まではシルフィと一緒に歩いていても基本的にシルフィ相手にして皆声をかけてこなかったんだが、俺にも普通に声をかけてくるようになった。それに、なんというか接し方が丁寧な感じだ。一目置かれているとでも言えば良いのだろうか。
そんな気がしたのでシルフィに聞いてみた。
「五頭もの竜を相手に物怖じもせずに接して、興奮した竜を宥め、怪我をした竜を自分の手で癒やした上に、別に叩きのめしたわけでもないのに竜が自ら鱗を捧げていく。そんな様をエルフの里の全員がその目で見たんだぞ。それを見ればいかに頑固なエルフでもお前に一目置かずにはいられんよ」
エルフ達の反応を目にしたシルフィはとっても上機嫌である。どうやらエルフ達の間で竜の乗り手として、そして竜と心を通わせられる者として俺が一目置かれるようになったのがとても嬉しいらしい。
いつもの籐製の長椅子に座り、蜜酒の入った木製のカップを片手にニマニマとした笑みを浮かべ続けている。
「シルフィも見直したか?」
「私は見直す必要なんて無いくらいコースケを評価しているよ。コースケは私の最高の伴侶だからな。だが、惚れ直したよ」
「面と向かってそう言われると照れるな」
「それだけのことをしたということだ。コースケは私の自慢の伴侶だな」
ドラゴン達に飯を食わせてちょっと話しただけでシルフィに褒められるとは思わなかったな。
でも考えようによっては危険な状態ではあったのか。グランデパパはかなり興奮してたし。
もし万が一いきなり襲ってきたとしても、とりあえず一撃凌ぐだけの準備はしてたんだけどな。石材ブロックのまとめ置きは常にスタンバってたからね!
噛み付きにしろ、尻尾攻撃にしろ、ブレス攻撃にしろ頭突きにしろ、基本は真正面か横からの攻撃だろうとあたりはつけていた。 一撃凌げば逃げるなり更に守りを固めるなりはなんとでもなる。がっちり守りを固めたら反撃だってできるだろう。
つまり生き残りさえすればなんとかなるってことだ。生き残るための能力に関しては俺はシルフィやメルティとだって張り合えると思っているんだ。怒ったグランデパパくらいなんとでもするさ。
「今日はもうゆっくりするとして、明日はどうしようかね?」
「そうだな……家でごろごろするのも良いが、グランデに黒き森の奥地を案内してもらうというのはどうだ?」
「お、それは面白そうだな。ちょっとした冒険になりそうだ」
「黒き森の奥地は人跡未踏の秘境だ。きっと珍しい動植物や魔物、自然の絶景なんかも見られるのではないかな」
「いいね。そうなると明日の準備をしておかないとな」
「準備なんているのか? 全部インベントリの中だろう?」
「それもそうだな。革鎧も持ってきてあるし、武器の用意も問題ないわ」
メリネスブルグの地下で作った革鎧と鉄の兜は大事にインベントリにしまってある。あれを装備すれば探索用の装備としては一応の格好がつくだろう。武器に関してもアサルトライフルの弾薬はアーリヒブルグに戻ってからコツコツと補充しておいたし、その他の試作武器の類も回収してある。いくつか研究用にバラされてたけど……まったく研究開発部の連中は貪欲な奴らだぜ。
「じゃ、明日はグランデによる黒き森の秘境探検ツアーだな」
「グランデが日の高いうちに来てくれればな」
「あー、そうだな。こんなことなら明日は早いうちに来てもらうように言っておければ良かったなぁ。グランデ用のゴーレム通信機を作るか……?」
グランデは意外に手先が器用だからな。腕時計みたいにベルトで前脚に巻きつけるような感じにして、グランデの手でも操作ができるように構造してやれば良いかもしれない。
「ん?」
グランデ用のゴーレム通信機の構想を練っていると、服の裾をちょんと引っ張られた。当然ながら、この場でそんなことをするのはシルフィ以外にありえない。
顔を向けてみると、シルフィが少しむくれたような顔をしていた。
「折角二人きりなんだ、その……」
「イチャイチャする?」
「そういう……その、うん」
俺のストレートな物言いに顔を真赤にしてボソボソと呟くシルフィは殺人的に可愛かった。
ご主人様が望むならそういたしましょう。何せ私はご主人様を敬愛する忠実な下僕ですから。




