第011話~ワークベンチとアチーブメント~
さて、作業台の作成である。というわけで作業台の作成に必要な素材を再度確認する。
・初歩的な作業台――素材:木材×10 釘×40 万力×1 初歩的な工具箱×1
木材と釘は良い。すぐに作れる、というか既に用意済みだ。問題は万力と初歩的な工具箱だ。
・万力――素材:鉄×20 機械部品×10
うん、これはなんとかなる。クラフト時間がすっげぇ長いけど。機械部品はノミとタガネとヤスリ辺りの品を作ったら作れるようになった。万力にしろ機械部品にしろ、構造がわからなくても材料と道具と時間さえあれば作成できちゃう辺り、クラフト能力ってやべーよな。これは必要なだけクラフト予約を入れておく。
それにしても機械部品って滅茶苦茶アバウトな表記だよな? 気になったから実際に一個作ってインベントリから出してみた。そうすると出てきたのはボルトとかナットとか歯車とかバネとかなんかよくわからん金属の細い棒とか金属の輪っかとかそういうものの詰め合わせみたいなものだった。
なるほど、こりゃ時間かかるわけだ。加工機械なしに手作業でこれらのものを作るとなると、とんでもない時間がかかりそうだもんな。この機械部品、今作ると一個あたり三十秒以上かかるんだぜ?
とりあえず、機械部品をクラフトしながら工具箱について調べておくか。
・初歩的な工具箱――素材:頑丈な木箱×1 金属製工具×8 機械部品×2
こっちはノコギリやハンマー、タガネ、ノミ、ヤスリ、キリ、カンナなど別々の金属製工具が合計八種類あれば良いらしい。頑丈な木箱は木材と釘で作れるから問題なし。ナイフが工具判定になっていたのに少し意外性を感じた。でも、考えてみれば必要な品ではあるよな。というか、機械部品二個追加じゃないかこのやろう。まぁいいけどさ。
少々時間がかかったが万力も初歩的な工具箱も完成したので、ついに作業台を作成する。思えばここまで長かっ……いや、そうでもないか? シルフィのお蔭でさっさと鉄づくりに入れたし、割と順調といえば順調だったか。リザーフとガチンコバトルしたり、シルフィにボコられたり、暴徒にボコられかけたりしたけど。
「うむ、完成だな」
早速設置してみる。渓流の河原に作業台を設置するというのもちょっと妙な感じだけど。
「うーん、いかにも作業台」
頑丈そうな机に万力が取り付けられており、工具の収められている棚が設置されている。いかにも作業台ですって感じの作業台だな。
「ほう……ほうほう」
作業台にアクセスしてみると、クラフト品一覧がズラッと表示される。基本的に今まで手動で作ることができた品も表示されているのだが、軒並みクラフト時間が減少しているようである。更に、いくつか今まで見たことのないアイテムもクラフトできるようだ。
「きたきた、来ましたよコレ」
・初歩的なクロスボウ――素材:しなる枝×2 木材×2 機械部品×1 繊維×20
・クロスボウ――素材:しなる枝×2 動物の骨×2 木材×2 機械部品×2 繊維×20
・改良型クロスボウ――素材:鋼の板バネ×1 木材×2 機械部品×3 強靭な弦×1
鎧を容易に貫通する騎士殺しとしても、対ゾンビ武器としても名高いクロスボウさんである。ゲーム的には弓に比べて扱いが容易で、威力が高く、射撃速度は劣るという感じの武器であることが多いのだが、この世界ではどうだろうか?
「初歩的なのと普通のはすぐにでも作れそうだな」
鋼の板バネは現状の簡易炉では作れないようだ。もっと高位の炉とか鍛冶設備が要るんだろうな。強靭な弦も動物の腱か、大量の繊維と接着剤が必要なようだ。俺が自由に使える動物の腱は品切れだし、繊維はともかく接着剤なんてものはクラフトメニューのどこにも見当たらない。恐らく、薬剤やなんかを作る設備が別に必要なんだと思う。
他に、クロスボウのボルトも作成できるようである。こちらは材料が鉄の鏃と木材だな。矢羽となる鳥の羽は要らんのだろうか……?
試しに一本作ってみたが、何故かちゃんと矢羽がついていた。どういうことやねん。木の水筒に入った生水からペットボトルに入った飲料水ができるんだから今更か。
あまり深く考えないでおこう。うん。都合が良い分には構わないからね。
しかし、より高度な炉か……やっぱ耐火レンガとかを使った大型の炉が必要なのかね。風を送って燃焼を促進する鞴もより高度なものが必要かもしれん。
そういうわけで、作業台のクラフトメニューから新しいふいごが無いかを探してみる。
「ねぇな」
ということは、ふいごに関してはわざわざ小型のものと大型のもので差別化していないのかもしれない。ただ、作業台のメニューをよく見てみるとアップグレードという項目があった。
・作業台アップグレード――:機械部品×10 鋼の板バネ×5 革紐×2
ふむ……やはり鋼の板バネがネックだな。次に目指すべきはより高度な製鉄設備か。簡易炉から通常の炉へのアップグレードが必要だな。そう思って稼働中の簡易炉を確認する。
「うん?」
今まで無かった筈のアップグレードメニューが増えている。
・簡易炉アップグレード――:動物の皮革×5 レンガ×50 砥石×3 機械部品×10
「んんん……?」
確かにさっきまでこんなものは無かったはずだ。何故いきなりこんなものが増えたんだ? もしかして、レベルアップ的な要素があったりするのか? それとも、一定条件を満たすと機能がアンロックされたりするのか? おいおいおい、そうだとしたら通知の一つくらい寄越せよ。というか、指標くらいわかるように――いや、待てよ?
俺はTabキーを意識してインベントリを開き、メニュー内を凝視する。
「なんか項目増えてんぞ……」
今までインベントリとクラフトメニューしか無かったのに、ステータスとスキル、アチーブメントの項目が増えている。アチーブメントってなんじゃらほい? と思ったらいわゆる『実績』機能だった。
「こういうのは最初からアンロックしとけよオイ……」
各項目を眺めながら思わず呻く。
まずステータスだが、これは単純な機能だった。現在の体調がある程度明文化……というか視覚化されて確認できるだけである。残念ながらRPGみたいにSTRとかAGIとかといった数値化されたステータスが表示されるわけではないようだ。空腹度や乾き度、体力、スタミナ、疲労度、ステータス異常の有無などがわかるだけだ。特筆すべきは『経験値』の確認ができるところだろうか。
何を条件として経験値が溜まるのかはわからないが、一応レベルの概念があるらしい。今の俺のレベルは6だった。レベルが上ったら何か良いことがあるのだろうか?
そして、次にスキルだが……。
「うーん……これは悩む」
どうやらレベルの概念はここで役立つらしい。スキル欄にはいくつものスキルが並んでおり、スキルポイントを消費することによって各種スキルを取得することができるようだ。取得できるスキルは大別すると生産系と身体強化系に分けられそうである。今表示されている生産系のスキル全部で五つ。
・熟練工――:クラフト時間が20%短縮される。
・大量生産者――:同一アイテムを十個以上作成する際、必要素材数を10%減少。
・伐採者――:植物系素材の取得量が20%増加。
・採掘者――:鉱物系素材の取得量が20%増加。
・解体人――:生体系素材の取得量が20%増加。
んんー、悩ましい。一見大量生産者が良さそうに見えるが、一度に十個以上のアイテムを作らないとボーナスが乗らないというのは正直ちょっと微妙に思える。それなら素材の取得量を増やしたほうが汎用性が高いんじゃないだろうか。熟練工に関しては今の所は必要性を感じないが、今後クラフト時間が一個あたり十分以上とか一時間以上とかのアイテムが出てきた場合、かなり恩恵が大きいように思える。元から十秒とかしかかからないアイテムだと大した効果はないと思うけどな。
で、身体強化系のスキルだが。
・強靭な心肺機能――:スタミナの回復速度が20%上昇。
・俊足――:移動スピードが10%上昇。
・豪腕――:近接武器による攻撃力が20%上昇。
・優秀な射手――:射撃武器による攻撃力が20%上昇。
・鉄の皮膚――:被ダメージを20%減少。
・生存者――:体力が10%上昇、体力の回復速度が20%上昇。
・爬虫類の胃袋――:空腹度の減少速度が20%減少。
・ラクダのこぶ――:乾き度の減少速度が20%減少。
以上、八つが現時点で取得できるスキルである。
この中だと俺としては強靭な心肺機能、俊足、優秀な射手、鉄の皮膚、生存者は即取得でもいいんじゃないかと思う。スタミナ回復速度の上昇は採掘にも戦闘にも役立つだろうし、俊足と合わせれば逃げ足の増加に繋がる。武器を扱う技術のない俺は基本的に遠距離から攻撃するだろうから優秀な射手が適しているだろうし、万一攻撃を受けた際にダメージを軽減できる鉄の皮膚と、体力の上限と回復速度を上げる生存者は正しく生存力の上昇に直結する。
逆に空腹度と乾き度の減少は十分な食料と水を確保するように心がければ大丈夫だろうから要らないと思う。いや、オミット大荒野みたいな補給の望めない土地を旅する際には有用か……?
ううむ、悩ましい。全てのスキルが取得できるなら悩む必要など無いのだが、俺が今所持しているスキルポイントはレベルと同じ6ポイントである。取り直しができるかどうかわからないから、軽々しく取るわけにもいかない。
「とりあえず今はスルー、スルーだ」
今すぐ取らなきゃならないものでもないからな。うん。それよりもアチーブメントを確認しよう。
「……はてなはてなはてな、な表示ばっかじゃねぇか」
・初めてのクラフト――:初めてアイテムをクラフトする。※スキルをアンロック。
・???――:隠されたアチーブメントです。
・初めての採取――:初めて採取を行う。※スキルをアンロック。
・初めての採掘――:初めて採掘を行う。※スキルをアンロック。
・初めての獲物――:初めて生体素材を獲得する。※スキルをアンロック。
・???――:隠されたアチーブメントです。
・???――:隠されたアチーブメントです。
こんな感じで『???』で隠されたのが多すぎて全く役に立たねぇ。なんだこれクソゲーかよ。
・初めての作業台――:初めて作業台をクラフトする。※各種作業台やアイテムのアップグレードが可能になり、メニューにステータス、スキル、アチーブメントの項目が追加される。
おおっと、疑問を解決する情報が出てきたぞ。やっぱり作業台の作成がアップグレード解禁やメニュー項目追加の条件だったのか。他にはないかな?
・初めての合体――:異性と初めて合体する。あんたも好きね。※体力とスタミナが10ポイント上昇。
あんたも好きねじゃねぇよぶっ飛ばすぞ。あと、初めてじゃ――って、そうか。この世界にきてからってことか。なるほどね。そして10ポイントっていったいどれくらいなんだよそれ。ステータスが数値化してねぇからわかんねぇよ。
・テクニシャン――:合体中に相手を満足させる。やるじゃない。※異性への攻撃力が10%上昇。
やるじゃないじゃねぇよ何様だよお前余計なお世話だよ。微妙に効果が高いボーナスも素直に喜べねぇよ。
「何を百面相しているのだ、お前は」
「ほあぁぁっ!?」
急に声をかけられて変な声が出た。いつの間にかシルフィが戻ってきていたらしい。
「この川には水を飲みに魔物がやってくることがあると言っただろう。私が魔物なら今ごろお前は死んでいるぞ」
「お、おお、そうだな。ちょっと油断が過ぎたな。すまん」
動悸する胸をおさえながら素直に謝っておく。確かにちょっと迂闊過ぎたかもしれん。素早い魔物が来たりしてたら危なかったな。
「で、これはなんだ?」
「作業台だ。これがあると色々と捗るんだよ」
「ふむ。まぁ充実した時間を過ごせたようで何よりだな。そろそろ帰るが、もう採取は良いのか?」
「ああっと、すまん。もう少し待ってくれ。急いで必要なものを掻き集める」
スキル欄から採掘者のスキルだけ取得してそこらの岩をつるはしで割り、土を掘りまくる。確かに岩を割った時に出る資源の量が増えているような気がするな。あと、鋼鉄のシャベルは石のシャベルに比べると遥かにサクサク掘れていいな。
小一時間ほど使って十分な量の鉱物資源や粘土を手に入れることができたので、俺達は渓流を後にすることにした。資材も十分に手に入ったし、シルフィの家に帰ったら裏庭に作業小屋を作らせてもらえないか聞いてみるとしよう。ついに建築か……胸が熱くなるな!