第118話~新型作業台~
部材を集めた俺達は早速開発を始めることにした。
「一定の速度でこの部分を回し続けられれば良いということだよな?」
「そういうことだな。今はこの踏み板の上下運動をクランクを介して回転運動にしている感じだ」
改良型作業台を眺めていた鍛冶職人が構造を精査して頷く。
「なら、方法は二つだな。この踏み板の上下運動をゴーレム式にして制御するか、こっちの直接的な動力をなっている車輪のような部分をゴーレム式にするかだ」
「ゴーレムの制御という意味で言うなら踏み板の上下運動を制御するほうが楽。要はゴーレム式バリスタと同じ要領だから」
「ああ、つまり腕なり足なりをここにつければいいんだものな。連続稼働時間とかメンテナンス性、燃費なんかが問題だと思うが」
「単に上下運動させるだけなら燃費も部品の劣化も問題にならないと思う。どれくらいの強さにするかにもよるけど」
「ゴーレムアームで上下運動をさせるなら踏み板は要らないですね。直接ゴーレムアームでクランクを上下させれば良いですし」
「部品点数を少なくしたほうが故障も少なくなるな。ゴーレムアームを使うことを前提としてそもそもの設計を見直すか」
皆で意見を交換しあいながら新しい作業台の仕様を考えていく。その段階で参考にするために改良型作業台が分解される。まぁ、一つくらいなら良いだろう。作ろうと思えば割と簡単に作れるわけだし。
「長時間稼働させるとなると、魔力の供給がキモだよな。俺には魔力なんて無いわけだし」
「ん、確かにコースケが使う上では問題がある。そこでこれが役に立つ」
そう言ってアイラがテーブルの上に置いたのは不揃いな形の透明な水晶のようなものだった。
「なんだ? それ」
「これは魔力結晶。後方拠点の脈穴から無尽蔵に湧き出る魔力を精製して結晶化したもの。ついに生産が安定化して先週送られてきた」
「おお、あれか。そういえば前にそんなことをしてるって話してたよな」
確か他にも魔法金属の量産とか、魔法銃の作成なんかもしてるって言ってたっけ。そっちはどうなったんだろうな?
「魔鉄とか魔鋼の量産とか、魔法銃の開発ってどうなったんだ?」
「魔法金属の量産化はまだ上手く行っていない」
「試作品ってのを見せてもらったがよ、まぁ良くはねぇな。確かに魔鉄、魔鋼にゃなってんだが同じ一つのインゴットの中にムラがありやがる。叩いて伸ばして均質化すりゃ使えるが、手間だな」
とても量産には向かねぇ、と言って鍛冶職人が首を横に振った。
「脈欠から汲み上げた魔力を均質化、安定化させてから金属に照射する必要があることがわかった。今はその実験中」
「なるほど。魔力や魔法はサッパリだが、そういうものなんだな」
「ん、そう。でも魔力結晶を作れるようになったから、実用化はすぐだと思う。魔力結晶を作るためには魔力を精製する必要がある。その技術が流用できるはず」
「なるほど。それで、魔力結晶っていうからにはこいつは高純度の魔力が結晶化したとかそういう感じのものってことだよな」
「そう。これを動力源として組み込めば良い」
「じゃあ新型のゴーレム作業台では空になった魔力結晶を交換できるように設計しなきゃな」
完全に機構の中に組み込んであって交換できないとかだと困る。俺が。
今までの作業台と違って稼働時間が限られることになるが、上位のクラフト台になると動力やそれを動かす燃料なんかが必要になるのもクラフトゲーではよくあることだ。妥当なところだと思う。
「直接魔力供給もできるようにしておけばコースケさん以外の人が使う場合には便利ですね」
「確かに。そうしておけば魔力結晶が無い時でも、魔力のある人が助けることによってコースケが作業台を使える。その機構も組み込む」
そういうわけで、新型のゴーレム作業台の仕様が決まった。
・動力源は魔力。魔力の供給は魔力結晶か、魔力がある者による直接供給。
・ゴーレムアームでクランクシャフトを動かして動力を得る。部品点数は可能な限り減らす。
・回転数をある程度切り替えられるようにする。
・切削加工に用いる刃物は耐久性などを考慮して魔鋼かミスリルを使う。
「こんなところか」
「回転数を切り替えるとなると歯車も必要になるよな」
「部品の強度も必要になりますね」
「機構や部品の強度が保たないならそちらを単純化して丈夫にすればいい。ゴーレムの方を強化したり、制御を工夫したりした方が簡単に済む」
「それは確かに。色々と試してみるとするか」
皆でああだこうだと議論をしながら設計図を引き始める。図があれば細かい部品を作るのは俺がすぐにできる。そう、アイテムクリエイションならね!
バラした改良型作業台を組み直し、設計図通りの細かい部品を俺が作って鍛冶職人や木工職人が組み上げる。そして錬金術師や魔道士達がバリスタ用のゴーレムアームとそのコアを改造して動力となるゴーレム機構をでっちあげる。その横で彫金師と錬金術師が魔法結晶を使ってゴーレムアームに魔力を供給する機構を作り上げていく。
途中で俺がインベントリから取り出したハンバーガーやホットドッグで昼食を済ませ、ワイワイガヤガヤとやりながら試作品を作り続けること半日。
「できた」
「試作品だけどな。要求は満たせているんじゃねぇか?」
「そうだな……そうだが、これはどうすれば良いんだろうか?」
確かに要求通りのゴーレム作業台は作ることが出来た。しかし、今まで俺が使ってきた改良型作業台は俺がクラフトした作業台のメニューを開いてアップグレードしたものだ。自分でイチから作ったものではない。
クラフト能力で作ったものだからか簡単にアクセスしてクラフトメニューを開くことが出来たのだが、目の前の試作型ゴーレム作業台にはアクセスしようとしてもアクセスすることができないのだ。
「コースケの能力でどうにかならない?」
「そうは言うがな……いや、待てよ?」
ふと思いついたことがあり、倉庫に放置していた方の改良型作業台で作っておいた付与作業台を持ってくる。
「これが魔力を付与した素材で作った付与作業台なんだが、こいつでゴーレムの動力機構を作って作業台をアップグレードすればいけるんじゃないだろうか」
「作れるの?」
「わからん。初めて使うし」
というわけで研究開発部の作業場の片隅に付与作業台を設置する。ぽん、と。
「おお、それっぽい」
設置されたのはいかにも魔法っぽい雰囲気のある作業台だった。複雑な文様と魔法陣のようなものが彫り込まれた台と、何やら光る水晶玉。そして台のあちこちに埋め込まれた色とりどりの宝石。
あー、これはあれだ。主人公が叫んで人を吹っ飛ばしたり街中を疾走したりする某大作RPGの付呪作業台に似た雰囲気だ。
そんな益体もないことを考えながらアイラの方を振り返ると、久々に瞳から光が消えていた。ええ? なんで?
「コースケ、なに、これ」
「え? 付与作業台だけど……何か変なのか?」
「魔力が湧いてる」
「ほほう、それは便利だな。魔力が全く無い俺の弱点を補ってくれると良いんだが」
この作業台自体から魔力が湧くということは、この作業台そのものを魔力供給の動力源として使えたりはしないんだろうか? いや、わざわざそんなことをしなくてもこの作業台で無尽蔵に魔力を供給する動力炉なんかが作れたりするかもしれない。夢が広がるな!
「さーて、何が作れるのかなー、っと」
俺と付与作業台を遠巻きにしてヒソヒソと何か話している錬金術師や魔道士の皆さんと、試作型ゴーレム作業台を使って何かしている職人の皆さんを放置して早速付与作業台にアクセスしてみる。
「んー?」
どうやらアイテムクラフトの他にエンチャントという作業もできるようだ。まずはアイテムクラフトを試してみるか。
・魔力付与された石材――素材:石材×3
・魔力付与された木材――素材:木材×3
・魔力付与された粘土――素材:粘土×3
・魔鉄――素材:鉄×3
・魔鋼――素材:魔鉄×2
・ミスリル――素材:銀×5
・魔晶石――素材:魔石類×3
・魔煌石――素材:宝石類×3 魔結晶類×5
「ふむ……?」
地味だ。いや、俺には価値がわかりにくいから地味に見えるだけで、アイラにこの内容を伝えたら卒倒モノの可能性は十分にある。銀でミスリルが作れるのはヤバそうな雰囲気があるな。
「どんな感じ?」
「石材や木材、粘土などを材料に魔力付与された素材を作れるみたいだ。あと、鉄三個から魔鉄を一個、魔鉄を二個から魔鋼を一個作れるみたいだな」
「そう」
アイラは驚かなかった。アイラの反応を見てそんなに変換効率は良くないのかな? と思っていたのだが、後ろでヒソヒソと話していた錬金術師さんや魔道士さん達が凄い顔になっていた。
「それってどれくらいの時間でできるんです……?」
青肌黒白目な感じのいかにも『魔族』っぽい魔道士さんが恐る恐るという感じで聞いてくる。そうだな、作ってみるか。
「ええと……石材三個から魔力付与された石材を作るのにかかる時間が一個あたり八秒だな」
本来十秒なんだろうけど、熟練工スキルのおかげでクラフト時間が二割減ってるからね。
出来上がった魔力付与された石材を取り出して……重っ!?
「ぐおお、こ、これくらい……」
「え……? 今作ったんですか? それ」
「ふぅ……うん、今作った」
なんとか魔力付与された石材を床に置き、一息吐く。ふと顔を上げて見ると、今話していた魔族の魔道士さんが白目を……いや黒目を剥いていた。ちょっと怖い。
「え? その量の魔化石材が八秒で……?」
「理不尽だ……なんでアイラさんは平然としているんですか」
「コースケのやることだから。なんとなく予想はついていた」
アイラが人間の錬金術師さんに聞かれてドヤ顔をする。
かつて理不尽コールを連発し、時によっては放心したりしていたアイラは俺と一緒に長く時間を過ごすことによってどうやら成長していたらしい。この程度では動じないようだ。
「あと、銀五個でミスリルが作れるらしい」
「「「……」」」
俺の言葉に全員が沈黙する。少し離れたところで試作型ゴーレム作業台をいじっていた職人の皆さんも俺の方に顔を向けて目を剥いている。
「銀ごごご」
念のためもう一度言おうとしたら物凄い勢いでアイラに組み付かれ、錬金術師さんや魔道士さん達に口を塞がれた。
「コースケ、それ以上いけない。みんな、これは他言無用」
「はい」
「銀からミスリルを作れるとかちょっと何言ってるかわからないですね……本当なんですよね?」
口を塞がれていて声を出せないのでコクコクと頷いておく。
「コースケ、ミスリルの価値は同じ重さの銀に比べると約一五〇〇倍」
「せんごひゃくばい」
「コースケさんを手元に置くだけで人生左団扇ですね……」
「私も養ってもらおうかな……」
俺を取り押さえたり口を塞いだりしている人間の錬金術師さん(女性)や青肌黒白目魔族の魔道士さん(こちらも女性)が怪しい視線を向けてくる。金どころかミスリルの卵を生むニワトリだものね、俺。
「申し訳ないけどこれ以上は無理。身体がもたない」
今だってシルフィにアイラ、ハーピィさん二十名弱にメルティだぞ。ハーピィさん達は元から一人の男性を中心にハーレムを作る性質があるからか色々と弁えてくれているから意外と負担は少ないんだけど、メルティがヤバいんだよ。アイラは身体も小さいし体力もそれなりだから大丈夫なんだけどね。
シルフィ? シルフィは別枠です。
「今作れるのはこれだけだけど、アイテムクリエイションで作れるものは増えると思う……けどこれはアレだな。ゴーレムの動力機構を作れそうな感じではないな」
本当に素材に魔力を付与して変質させる用途の作業台みたいだ。
ゴーレムの動力機構に関しては材料を揃えれば普通に改良型作業台で作れるのかもしれないな。魔力付与作業台で色々と素材を作ってからアイテムクリエイションを試してみるのが良いか。
「あと、エンチャントって項目もあるんだ」
俺の言葉にアイラ達が身構える。いやいや、そんなに警戒するなって。そんなに酷いことにはならないと思うよ。多分。
青肌黒白目っていいよね……_(:3」∠)_