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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
ドラゴンと黒き森でサバイバル!
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第117話~アップグレードの算段~

「つまり、暇だから構って欲しい?」

「そうとも言う」


 翌日、俺はアイラのもとを訪れていた。と言っても二人きりというわけではなく、ここはアイラの職場。つまり研究開発部のアーリヒブルグ支部である。

 ちなみに、猿人族のサイクスはここにはいない。かつて最前線拠点と言われていた拠点――今は中央拠点と呼ばれている――で研究開発本部の本部長に就任しているからだ。あっちで嫁さん達と一緒に日夜励んでいるらしい。色々と。今度スタミナ持続回復薬をダース単位で送ってやろう。

 当初の予定からかなり前倒しで旧メリネスト王国の領地に侵攻したから、オミット大荒野に築いた拠点がかなり後方になっちゃったんだよな。

 アーリヒブルグが最前線になるわけだが、アーリヒブルグからオミット大荒野までは徒歩で一〇日以上、馬車でも三日から四日はかかる。更にそこから中央拠点までは徒歩五日、更に後方の本拠点――今では後方拠点と呼ばれている――までも徒歩二日だ。

 しかも、オミット大荒野に入ると馬車は本来の速度を出せないので、徒歩とさして変わらないスピードになってしまう。なので、普通にアーリヒブルグから後方拠点まで移動すると早くとも片道十日。往復だと二十日以上だ。なかなかに遠い。情報だけはゴーレム通信機のおかげで割とすぐに届くようになっているんだけどな。

 まぁ、今はそれはどうでもいい。重要なことだけど今の俺に必要な情報ではない。今の俺の重要な問題とは、即ち俺にやることがないということなのだ。


「何から何までコースケに頼り切りになるような状態は健全ではない。勿論、まだまだコースケの力に頼りたい場面はこれからも沢山出てくるだろうけれど、それは今じゃない。何もせずにのんびりとするのも大事」

「でも何かしてないと落ち着かないんだよなぁ」

「コースケは勤労意欲が高すぎる」

「俺の住んでいた世界だと毎日朝から晩まで働くのが当たり前なんだよ。そりゃ一週間に一度や二度は休みがあるけどさ」

「まるで奴隷労働」

「言い得て妙だな」


 毎日朝から晩まで働き、休日は泥のように眠る。生きるために働くというよりは、働くために生きているというような状態が常態化する。そりゃ休み時間や帰宅してから寝る前に少しは趣味の時間は取れるのかもしれないが……いや、考えるのはやめよう。心が痛くなる。


「でも、やることがないなら提案できることはある」

「ほう、それは?」

「こっち」


 アイラが椅子から降りてテクテクと歩き始める。そう、彼女は小柄なので椅子に座ると足が床に着いていないのである。かわいい。

 それはそれとしてアイラの後についていく。興味があるのか、他の研究開発部の面々も俺達の後にぞろぞろとついてくる。ちなみに、アーリヒブルグの研究開発部の面々はアイラを含めて亜人十三名、人間三名の十六名だ。内訳としては魔道士四名、錬金術師四名、薬師二名、鍛冶師三名、彫金師一名、木工師二名となっている。


「ここは倉庫か?」

「ん、そう。ここには色々と研究に使う素材が置いてある。当然、魔化された素材もある」

「魔化された素材……おお、付与作業台か!」

「ん、私も気になってたから」

「そうだな、是非試してみよう」


 改めて付与作業台のレシピをチェックする。


・付与作業台――素材:ミスリル×5 宝石類×12 魔力付与された石材×20 魔力付与された木材×10 魔力付与された粘土×10 ※素材がありません!


「ミスリル五個、宝石類十二個、魔力付与された石材を二〇個、木材を一〇個、粘土も一〇個だな」

「ん、ミスリルと宝石は金庫から出す。石材はあっち、木材はそこ、粘土はあそこの隅にある」

「わかった」


 アイラが金庫を開けに行っている間に指示された場所にある石材や木材、粘土などをインベントリに収納していく。


「おお、消えたぞ」

「本当に魔力の流れがないんですね」

「やっぱりアイラさんの言う通り魔法ではなく奇跡の類、それに連なる現象ですか」

「不思議だ」


 その光景を見ていた研究開発部の新メンバー達が驚きの声を上げる。ははは、この手の反応は何度聞いてもなんだか気分が高揚するな。


「持ってきた」

「おう、ありがとう。しかし、大丈夫なのか? これだけで結構な金額だと思うが」

「元々コースケの採掘したものだから」

「ああ、なるほど」


 キュービに拉致られる前に放出していった素材の備蓄分か。多分、魔力付与された素材は俺が帰ってきた時に備えて手配しておいてくれたんだな。


「ありがとう、アイラ」

「ん」


 アイラが薄く頬を染めて笑みを浮かべる。俺はその頭をなでなでした。可愛い。


「もう、撫でるのは良いから早く試す」


 子供のように扱われるのが少し嫌だったのか、アイラが頬を赤くしたままプンプンと怒る。

 アイラが可愛くて生きるのが辛いが、アイラの好奇心を満たすためにも付与作業台をさっさと作るとしよう。

 インベントリから改良型作業台を取り出してこの場に設置し、付与作業台のクラフトを開始する。作業にかかる時間は……二時間ッ!


「二時間かかるわ」

「がーん……出鼻を挫かれた」


 アイラが大きな目を見開いてから残念そうな表情をする。うん、俺も残念だ。


「俺からもちょっと聞いてもらいたいことがあるんだが、良いか? アイラだけでなく、皆にも意見を聞かせてもらいたいんだけど」

「ん、勿論」

「ええ、良いですよ」

「お役に立てるなら」


 皆さんも同意してくれたので、改良型作業台はここに放置してもう一度研究開発部の開発室へと移動する。

 開発室はかなり広い部屋だ。作業台があちこちに置かれ、中央には話し合いをするための大きなテーブルが置いてある。このテーブルでもちょっとした作業ができるようになっているようだ。

 皆が席に着いたのを確認し、俺は口を開いた。


「実はな、能力的に伸び悩んでいるんだ」

「伸び悩んでいる……?」

「うん。アイテムクリエイションという能力で色々と新しいものは作り出せるんだが、結局の所俺の能力のキモは作業台なんだよ。作業台を改良することによって加工できる材料が増えたり、より精密な物が作れるようになったり、同じものをより短時間で作れるようになったりするんだ」

「なるほど。つまり、基礎技術の向上が必要ということ」

「それも本人の腕、ということではなく機材面でのということですね」

「なるほど。でも、それはなかなか難しいのではないですか? 加工技術の躍進というのは一朝一夕でできるものではないでしょう」


 アイラや職人さん達が議論を交わし始める。うんうん、理解が早くて助かるなぁ。


「なんとなくだが、指針はあるんだよ。恐らく、強力な外部動力が必要なんじゃないかと思うんだ」

「外部動力?」


 アイラが首を傾げる。研究開発部の職人達も今ひとつピンとこないようだ。


「まずはこいつを見て欲しい。これは初期の作業台だ」


 そう言って俺はインベントリからアップグレードする前の普通の作業台を取り出し、設置してみせた。基本的には木製の作業台に道具箱や、加工品を固定するための万力などが取り付けられているだけのシンプルなものだ。


「そしてこっちが改良型作業台。言うなればレベル2の作業台だな」


 そうして次に俺が取り出したのは作業台が持っていた要素に加えて足踏み式の旋盤がついた改良型の作業台だ。改良型作業台を作ることによって各種中間素材やアイテムの加工時間が飛躍的に短くなり、俺のクラフト能力は大幅に強化されたのだ。


「見ての通り、作業台と改良型作業台の大きな違いは旋盤だ。これは鍛冶職人とか木工職人なら扱ったことがあるか?」

「いいえ、無いですね。これはどういったものなので?」

「あー、俺もそんなに詳しくはないんだけどな。自分の使っているものなのにって感じなんだが」


 軽くだが、旋盤でできることを解説する。つまりこれは回転する台に材料を固定し、それに刃物を押し付けることによって材料を切削加工するためのものなのだ。硬い金属なんかを切削加工してネジや筒を作ったり、穴を空けたりすることが出来ると思ってくれれば良い。

 改良型作業台ではボルトアクションライフルなんかも作れてしまっているので、実のところ改良型作業台は旋盤だけでなくフライス盤とかその他の加工機械の要素も内包しているのかもしれないけど。


「ふーむ、なるほど。同じものを大量に作るのに向いているのですね」

「剣や槍を作るのには向かないが、魔道具の細かい部品なんかを作るのには重宝しそうだ」

「使い方次第では宝石の研磨にも使えそうですね」


 鍛冶職人達は旋盤そのものにかなり興味を惹かれたようである。それと彫金師さんは宝石職人も兼務しているようで、鍛冶職人と同じく興味津々のようだった。


「作業台の違いはわかった。それで、外部動力というのはどういうこと?」

「おお、話が逸れたな。見ての通り、今のこいつの動力は人力だ。これを人力じゃなく、魔法の力でどうにか出来ないかっていうのが俺の相談なんだよ」

「わざわざ魔法の力でやるの?」


 アイラが首を傾げる。うん、人力でも出来るんだからわざわざ魔法動力にする意味が見いだせないんだな? その疑問ももっともだ。でも、ちゃんと理由はあるんだ。


「人力だとどうしてもムラが出るだろ? 強く、速く踏みすぎたりする。すると回転にムラが出る。つまり品質にばらつきが出る。そこで魔法の力を使って一定の出力で加工機械を回せるようになれば?」

「……同じ品質のものがたくさん作れる?」

「そういうことだ。更に出力を可変式にすれば色々な加工がしやすくなるし、なんなら材料を切削用の刃に押し付ける力やタイミングも一定に出来ればなお良い」

「つまり、ゴーレムコアで出力を制御して、ゴーレムアームで加工する?」


 アイラが首を傾げながら呟く。流石はアイラだ、理解が早い。


「そう、それだ。最終形は入力したデータに従って一から十までモノを作ってくれるようになれば最高だな」

「おいおい、それじゃ俺達職人の出番が無くなっちまうよ」


 鍛冶職人が微妙な表情をする。うん、そうだよな。


「実際のところ、俺の発想はそういうものなんだ。俺のいた世界ではそういう機械が朝から晩まで自動で動いて大量のモノを作っていたんだ。勿論、そんな俺の世界にも職人って呼ばれるような凄腕の人達は活躍してたけどな」


 どんなに機械化が進んでも高品質の一点物を作る職人はいたからな。ごく少数だけど。


「逆に言えば凄腕じゃねぇと生き残れねぇってことか……こいつは恐ろしいな」

「だよな。俺の力は正直言ってこの世界の職人さんに真正面から喧嘩売ってる力だから。でも、だからこそ力の振るい方には気をつけるつもりだ」


 俺は別にこの世界の職人さん達を路頭に迷わせて駆逐したいわけじゃないからな。


「研究開発部で作り出したものの一部が厳重に管理されて持ち出し厳禁なのは、コースケが絡んでいるものがいろいろな意味で危険だから。それと、旋盤は後方拠点で既に魔法動力や水力動力のものが実用化されてる。そっちの研究成果を取り寄せればゴーレム技術と合わせて可変出力型の魔法動力を作ることは簡単にできると思う」

「そうか、じゃあ作って貰っても良いか? 俺も協力するから」

「任せて」


 アイラがコクリと頷く。よし、これでうまくいけば作業台がアップグレードできるな。後は付与作業台の出来上がりを待って……鍛冶施設もアップグレードできないかな? ゴーレム技術を使えばそっちもいけそうな気がするな……これもまた別にアイラに相談してみよう。

誤字報告は嬉しい!

嬉しいけど流石に一日で一気に500件近くとかは処理しきれないので、最新3話くらいまでに留めてくれると嬉しいです_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告はアプリの機能にあるから都度送ってると思いますよ
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