第115話~別に干されてないし……(震え声)~
早く暖かくなりませんかね_(:3」∠)_
さて、方針も決まったということで俺も皆と連動して解放軍のために動き出す。やはり俺がいないと色々と始まらないよな!
「コースケはしばらくグランデの世話と、彼女を養うための作業をしてくれ」
「あるぇー?」
俺に対聖王国軍関係の仕事は回ってこなかった。まぁうん、それもそうだよな。今後は切った張った吹き飛ばしたの話ではなく、政治の話になるわけだから。エレンとの繋ぎをするために会談の際には同行するように予め言われたが、その前の予備交渉に関してはゴーレム通信機とライム達を利用した通信ラインが確保されているわけで、俺の手助けは要らない。
クロスボウやそのボルトに関しては既に解放軍の職人達による生産が軌道に乗っており、俺が作らなければならないのはハーピィ用の航空爆弾と銃士隊用の弾薬、歩兵用の手榴弾くらいのものである。
そして、俺が攫われて以降本格的な戦闘は発生していないらしいので、それらの武器弾薬もさして消費していない。魔物退治のために多少消費されたようだが、その程度である。
「要は、仕事を干されたわけじゃな」
「干されてなんかないやい! 俺はあれだよ、ほら、真打ちとかそういうのなんだよ」
必死に抗弁する俺をグランデが優しい瞳で見つめてくる。何笑ってんだアイラ呼ぶぞ。
ちなみに、一度攫われたせいか俺には常に護衛がつくことになった。とは言っても流石にグランデに近づくのは怖いのか、ちょっと離れたところに待機してるけど。今日の護衛はピンク羽ハーピィのブロンと橙羽ハーピィのフィッチだ。
「とにかく、お前もずっと野ざらしでいるのは嫌だろう。頑丈で快適な竜小屋を作ってやるぞ」
「いや、別に要らぬが」
「なんですと?」
「妾はグランドドラゴンじゃぞ? 寝床なんぞ地面を掘ればすぐじゃ、すぐ」
そう言ってグランデは少し勢いをつけて水に飛び込むかのように地面に飛び込んだ。頭から。
するとどうしたことか、まるで地面が水面のようにどぷりと波打ち、何の抵抗もなくグランデを飲み込んでいくではないか。グランデが地面に沈み込んだ後しばらく地面が鳴動していたが、それもやがて終わってグランデが地面に穴を空けながら這い出してきた。
「ほら、こんなもんじゃ」
「なぁにこれぇ」
地面にぽっかりと開いた穴は底が深く、まるで底を見通せない。
「グランドドラゴンはな、こうやって地面に穴を掘って巣穴にするのじゃ。夏は涼しく、冬は温かい。湧き出す水なんかは土をしっかり固めて対策してあるぞ」
くっ、さすがはディ○ブロス。穴掘りはお手の物かよ。
「……これだと雨が入ってくるだろう? 屋根をつけてやるよ」
「おお、それは助かるの」
地面に空いた巨大な穴の四方に石材で太い柱を立て、雨が入らないように屋根を作る。ははは、ブロックのまとめ置きが出来るようになっているからな、これくらい楽勝だぜ。
石材の屋根の四方にレンガブロックを組み合わせて「ぐらんで」と名前を入れておいてやろう。はははは。
「ご苦労じゃの」
「終わってしまった」
グランデのせいで課せられた仕事が一時間で終わってしまった。クソッ、バカでかい犬小屋みたいなものを作ってやろうと思ってたのにまさか自分で巣穴を作るとは。この海のリハクの目をもってしても……! いや、よく考えれば当たり前か。
というかドラゴンだものな。竜小屋も何も考えてみれば野ざらしで寝ててもなんの違和感もなかったわ。むしろ律儀に巣穴を作ることのほうが驚きだったわ。
「食事場も作るか」
「おお、それは良いの。雨風の吹き込む場所で濡れたはんばーがーを食べるのは嫌じゃからの」
「お前が出入りしやすくて雨風の吹き込まないようにする、なおかつ俺も出入りしやすいようにするってなかなか難題だな?」
「そう言われればそうじゃの。そういえば、ここに巣穴を作って大丈夫だったのか? 人族というのは住処を徐々に広げるのじゃろ?」
「あー、それもそうか。ちょっと一旦撤去してお伺いを立てるとしよう」
そう言うわけで、俺とグランデは掘った巣穴を埋め戻し、巨大な屋根を撤去してメルティに相談することにした。
「あの魔神種のメスは怖いんじゃが……」
「でも変なところに作って後で怒られるのはもっと怖くね?」
「それは怖いの。では、任せたぞ」
「ですよね」
グランデはデカい。俺と一緒にアーリヒブルグに入るわけにもいかないので、メルティのところに行くのは俺一人だけということになる。いや、ハーピィのブロンとフィッチも居るから三人か。
「私は後ろで待機していますね」
「右に同じく」
にっこりと笑みを浮かべ、メルティとの話し合いに参加することを拒むブロンとそれに追従するフィッチ。そうだよね、君たちには関係ない話だものね。わかってるよ。
二人を引き連れて活気あふれる街中を歩いていると、途中途中で解放軍や住人の皆さんに声をかけられる。
「おっ、今日は調子良さそうだな。相手が多いのも大変だなオイ」
「アンタ探すの大変だったんだから、もう攫われるんじゃニャいわよ」
「お、ドラゴンテイマーだ。ドラゴンに食わせてた奴、今度食わせてくれよー」
皆結構気安く声をかけてきてくれる。かしこまられるよりは百倍マシだな。皆に適当に言葉を返しながら辿り着いたのはお役所だ。そう、メルティ達元内政官や元役人などの国家組織運営に携わっていた人々の牙城である。
旧メリナード王国領の解放が進み、奴隷として使役されていた人材が徐々にアーリヒブルグに集まりつつある。長いブランクを抱えている老人などもいるが、それはそれ。やる気のある若者をそう言った人物の部下にして目下人材育成に力を入れているところであるらしい。
「ちーす、三河屋でーす」
「おや、勇者殿」
「……勇者?」
役所の受付にいた山羊獣人の男性が俺の顔を見るなり意味不明なことを言ってくる。勇者? 俺が? こいつは何を言っているんだ?
「姫殿下にアイラ殿、ハーピィの皆様方、挙げ句にあのメルティ殿までまとめて相手にする貴方が勇者でなくてなんだというのか。しかも生きている」
「生きてて驚愕されるってのは新しいな。でもまぁ、俺じゃなかったら死んでいる可能性は無きにしもあらず」
実際、俺の特異な体質と生存者のスキルがなかったら自動回復が間に合わなくて腹上死していた可能性はあるかもしれない。
「それで、性なる勇者殿は一体何のご用事で?」
「性なる勇者はやめろ。グランデ――俺が連れてきたドラゴンの巣と食事場を街の外に作りたいんだが、どこに作れば良いかと思ってな。街の拡張とかを考えると適当に作るわけにもいかないだろう?」
「なるほど、そういうことでしたか。では、メルティ殿をお呼びいたしますので少々お待ちを」
山羊獣人の役人が役所の奥へと引っ込んでいく。何気なく活気のある役所内を見回してみると、何かの手続きに来ている住人が結構いるな。商人風の人、子連れの母親、若い男女、老人、様々だが人間も亜人も別け隔てなく生活しているようだ。少なくとも表面上は。
解放軍がアーリヒブルグを制圧し、旧メリナード王国領南部を実効支配してからまだ日が浅い。人間と亜人の対立が問題化してくるのには十分な時間だと思うが、思ったよりも穏便に事が進んでいるようだ。
それがシルフィやメルティ達がうまく舵取りをしている結果なのか、それとも聖王国に支配されていた旧メリナード王国民がかつての姿に戻っただけなのか、それは俺にはなんとも判断するのが難しいところだな。
ただまぁ、他国を侵略して属国化したとしてもその土地に元々住んでいた人々を追放なり虐殺なりして自国民を住まわせるというわけではないだろう。二十年という月日は決して短くはないが、世代が完全に交代するほど長い時間でもない。元からここに住んでいた人間の旧メリナード王国民も多いはずだし、こんなものと思えばこんなものなのかもしれないな。
「コースケさん、呼ばれてきましたよ」
ブロンとフィッチに挟まれて壁際に設置されていた長椅子に座り、両脇から羽でモフモフされながら待っていると山羊獣人に連れられたメルティがやってきた。キャスケットのような帽子を被って頭を隠している辺りに少し胸が痛む。
メルティの角を元に戻す再生薬に関しては目下アイラが材料を掻き集めて錬金術で下処理をしているところである。それも数日で終わるらしいので、あとはグランデから血を貰えればなんとかなるらしい。
アイラ曰く。
『ドラゴンの新鮮な生き血は錬金術師にとって垂涎の逸品。錬金術の秘奥に辿り着くための鍵になる』
とのことだ。さすがは竜の血だな。俺もクラフト素材として非常に興味があります。グランデよ、お前の身体を材料的な意味で狙っているのはアイラだけではない。俺もその一人なのだよ、ふふふ。
「コースケさん?」
「おお、すまない。話は聞いているかもしれないが、グランデの住処の件なんだ」
「はい、場所ですよね。大きさはどれくらいになりそうなんですか?」
「そうだなぁ……余裕を見て50m×50m分くらいは敷地が欲しいな。街の外で構わんから」
「なるほど、そこそこの広さは必要ですよね。まぁ、街中ならともかく街の外であれば特に問題ないと思います。今後の拡張のことを考えると北西方向にしてもらいたいですね。そっち方面には今後も街を伸ばす余地があまりないですし」
メルティが簡単な地図を取り出し、街の北西方向の辺りを指差す。アーリヒブルグの城門は北東と南西にあるので、北西に作るとなると通うのにははちょっと遠いなぁ。
「もう少し門から近いところにまかりませんか」
「まかりません。城壁一枚隔てたところにドラゴンがいると思うだけでも怖がる人が多いのに、門の傍とか街道の横にいたりしたら西側から人も荷も来なくなりますよ」
正論すぎてぐうの音も出ない。グランデが食っちゃ寝して日々のんべんだらりと過ごすだけの安全な駄竜だと知れれば度胸試しスポットとか観光スポットにそのうちなるかもしれないし、そうなれば多少は扱いも良くなったりするだろう。それまでの我慢だな。
「わかった」
まぁ、ショートカットするということであれば城壁を登って飛び降りる着地地点に藁ブロックでも置いておけばいいだろう。帰りは普通に歩いて帰るしかないけど。
「はい、聞き分けが良くて結構です。ところでコースケさん、今晩なんですが」
「はい」
「ちょっと仕事が忙しいので晩御飯はこちらで取ります。私の分は用意はいりませんので」
「了解。良かったら何か置いていこうか? 冷めても美味しいものもあるぞ」
「あ、本当ですか? なら是非」
嬉しそうな顔をするメルティにチーズやハム、生野菜などを挟んであるサンドイッチの詰め合わせを渡して役所を後にする。帰りに屋台で何か買ってグランデに食わせてやるか。護衛についてくれているブロンとフィッチと一緒に食べ歩きでもしながら行くとしよう。
ストックに余裕があるので新作の方も更新していきます!
まだ読んでいない方は是非読んでみてくだされ!_(:3」∠)_
新作『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい。』
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