第109話~魔神種~
ただいま!
大変おまたせしました! 隔日更新を再開しますよ!_(:3」∠)_
何故か毒を食らっていた時のように体力とスタミナの上限が下がっていた気がするけど、しっかりと朝ご飯を食べたら回復したのできっと何かの見間違いだろう。どんなに疲労困憊していてもしっかりと飯を食えば回復してしまう疑惑が浮上したが、きっと気のせいだ。そういうことにしておこう。絶対にバレてはいけない気がするし。
「もう体調が良くなったのです?」
「気合と根性でな」
「あれだけ吸われたのに凄いわね」
「ぜつりんー?」
「コースケさんは色々と規格外ですよね」
規格外だというのは認めるけど、吸われたってのは何を? いややっぱ怖いから言わなくていい。触らぬ神になんとやら……今朝起きてから見なかったことにしようとか思い出さないようにしようとかそういうのが多い気がするな。
スライム娘達とメルティは混ぜるな危険。コースケおぼえた。
「それじゃあ行くとするか……一応作業台とかは回収して行くよ。使うかもしれないし」
「仕方ないのです」
「少し寂しいわね」
「つうしんきあるからー、だいじょうぶー?」
「おう、大丈夫だ。通常サイズのものは持っていくから、夜にでも通信するよ」
いくら全力で移動したとしても今日中に通常のゴーレム通信機の通信圏外までは移動できないだろう。多分。送受信の感度を上げる外部アンテナも目立たないように設置したしな。
「よし、大丈夫かな?」
「準備は良さそうです」
メルティとお互いに装備を確認しあって頷きあう。
俺の装いは革鎧、腰に剣、背中に背嚢と円盾、手に短槍という一般的な傭兵スタイル。
メルティの装いは少し肌の露出が高めの服と背嚢、その上に身体を隠すフードつきのローブ。あと割としっかりとした作りの短剣。露出高めの服以外は一般的な旅装の女性って感じだな。
「服はもう少ししっかりとしたのが良いんじゃないかな?」
「亜人の性奴隷がしっかりとした服を着込んでいる方が不自然ですよ」
「そういうものか?」
俺が問いかけにメルティが頷く。うーん、現地人がそういうのならそうなんだろう。しかし大丈夫かね? 変なやつに絡まれなきゃいいけど……ローブをしっかりと身に着けている限りは大丈夫か。
「それじゃあ……行くか」
「はい、お供します。ご主人様」
にっこりと笑い、メルティが身を寄せてくる。んんっ、ご主人様……なんて良い響きなんだ。これがご主人様と呼ばれる感覚か。なんだかこそばゆいぞ。いけない遊びでもしている気分だ。
「ライム、ベス、ポイゾ、本当に世話になった。この恩は忘れない。また会おう」
「うん、またねー?」
「コースケとの生活、楽しかったわよ」
「またなのです。身体には気をつけるのですよ?」
スライム娘達とそれぞれ抱擁を交わして別れを惜しむ。ライムはふわふわぷにぷに、ベスは程よい弾力のスベスベ、ポイゾは……ぷにぷにってことにしておこう。うん。ちょっと緩いからね、ポイゾの身体は。
「私も短い間ですけどお世話になりました。この借りはいずれ」
「うん、かしひとつー」
「容赦なく取り立てるからそのつもりでね」
「当然返してもらうのです」
さも当然という雰囲気で三人が言い放つ。抱擁もない。
「私とコースケさんで反応が違いすぎませんか?」
「きのせいー?」
「気のせいよ」
「気のせいなのです」
なんという温度差か。あの心優しいライムまでも塩対応とはどういうことだ。メルティとスライム娘達は仲が悪いのか……? いや、そういう感じじゃなさそうだけど。どちらかというと遠慮のない関係なんだろうな。
ともあれ、今回メルティがライム達の世話になったのは俺の責任が大きい。そのツケをメルティに払わせるのは筋が通らないだろう。
「メルティは俺のために来てくれたわけだからさ、その借りは俺にツケといてくれ」
「よろこんでー?」
「コースケがそう言うのなら否やはないわね」
「それは楽しみなのです」
俺の申し出にスライム娘達が満面の笑みを浮かべた。メルティも喜んで――微妙な表情をしてるな。なるほど、俺に押し付けたようであまり素直に喜べないとかかな。
「メルティが気になるなら、その分俺に何かしてくれたら良いから」
「……なるほど。それは良い考えです」
「あ、うん。お手柔らかにお願いします」
ニコォ……とメルティが深い笑みを浮かべる。あれ? 何か間違えた気がするぞ。五秒前に戻りたい。セーブ&ロードの実装はまだですかね?
サバイバル系のゲームにそんなものはない? ですよねー!
「それじゃあ行きましょうか。シルフィが耳を長くして待ってますよ」
「ああ。それじゃあ、またな!」
今度こそスライム娘達に別れを告げ、下水道を後にする。
それにしても、エルフを待たせると首じゃなくて耳を長くするのか……異世界の言い回しは面白いな。
☆★☆
下水道から出た俺達は早速街道に向かって走り出した。追い縋ってくるゴブリンその他の魔物達を振り切って一気に森を駆け抜ける。
とはいえ、街道まで奴らを引っ張っていくわけにもいかない。実はモンスターのトレイン事故はこの世界では立派な犯罪である。
「森を出る前にここまで追ってきた奴らだけ始末しましょう」
森の出口にほど近い場所で足を止め、メルティは静かにそう言った。結構な距離を走ったのに息も乱れていないし、汗一つかいていない。見た目は美人系のお姉さんだけど、やはり一対一でならスライム娘達に勝てると言うだけのことはあるのだろう。
「わかった」
俺も立ち止まり、ゴーツフットクロスボウを取り出す。
槍? 接近されたら使うよ。接近されたらね。近接系のスキルを取っているわけでもなし。敢えて接近戦を行う必要なんてこれっぽっちもないわけでな。
「メルティ、俺がやるからここは――」
「いいえ、ここは私にお任せください」
ザリ、と音を立ててメルティは俺を庇うかのように一歩踏み出した。それと同時に奥の茂みからゴブリンが三匹飛び出してくる。
『GYAGYAGYAGYA!』
『GUGGEGEGEGE!』
『KYEEEEE!』
飛び出してきたゴブリン達は前に立つメルティを観察し、ニタリと醜い笑みを浮かべた。女だから弱そうだ、とでも思ったのだろうか。それとももっと別な意味の笑みなんだろうか。
そういえば、この世界のゴブリンってどういう生態なんだろう。他種族の女子供を巣に連れ去って18禁展開なアレをやる奴らなんだろうか? 今度誰かに聞いてみよう。女性以外に。
「三匹だけですか」
「アレくらいなら俺が――」
瞬間、血の花が三つ咲いた。
いかなる術理が働いたのか、三匹いたゴブリンが何かの得体の知れない攻撃によって血煙と化したのだ。メルティはその場から一歩も動いていない。ただ、いつの間にか三匹のゴブリンがいた方向に掌を突き出していただけである。
え、なにそれは。剛○波? ○掌波なの?
俺の視線に気付いたのか、振り返ったメルティが笑みを浮かべる。
「行きましょうか。早く帰りましょう」
「はい」
俺は素直に頷いた。
無音、不可視の致命的な一撃。しかも範囲攻撃。そんな一撃をこともなげに放つメルティさんに逆らえるわけがない。もう、メルティ一人で聖王国軍とかなんとでもなるんじゃないかな?
「なぁ、メルティ」
「はい?」
森を抜け、街道に向かって歩きながらメルティに声を掛けると、俺の横を歩きながらローブの前をしっかりと留めていたメルティが俺の顔を見上げてきた。
「実際のところ、メルティってどれくらい強いんだ? シルフィとかレオナール卿とかザミル女史とかと比べると」
「そうですね……本気を出したシルフィとなら互角か、僅かに私が上でしょうか。単純に武器や肉体だけを使った戦闘ならレオナール卿やザミル女史の方が上だと思いますけど、魔力を使うと二人がかりでも私は倒せないと思いますよ。あと、単に魔力や魔法だけを使って戦うなら技術やできることの幅の差でアイラが勝つと思います」
「……メルティめっちゃ強くない」
「強いですよ。魔神種ですから」
あっけらかんとそんなことを言うメルティに対し、俺は首を傾げる。
「そんなに強いのに、なんで内政官なんて役職に就いていたんだ? というか、魔神種ってなんだ?」
「そうですね……理由は色々と複雑です。コースケさんは取り換え子というものをご存知ですか?」
「取り換え子≪チェンジリング≫? 人間の両親の間からエルフが生まれるみたいな?」
俺の知っているチェンジリングというのはファンタジー世界でのチェンジリングについてだ。現実世界にも伝承があったみたいだけど、そっちのはよく知らない。
俺の出した事例で言えば、両親のどちらか、或いは両方の血筋にハーフエルフやエルフの血が入っていたために起こる隔世遺伝、って印象がある。
「ええ、そうです。私の両親はごく普通の羊獣人でした。身体能力も、魔力も人並みです。人並み、というのは羊獣人の中で標準的という意味ですけど」
「なるほど」
「でも、私は普通ではありませんでした。走れば猫獣人や狼獣人をぶっちぎり、熊獣人や象獣人の大人がやっと持ち上げるような荷物を片手で持ち上げる。魔法を使えば単眼族や天魔族にも劣らない。私が魔神種であるということはすぐに周囲に知られ、当然メリナード王国にも知られました」
「それは目立つだろうな」
そんな傑物が居ればさぞ目立つことだろう。魔神種という存在が広く知られているのであれば、国がその存在を察知する仕組みがあってもおかしくはない。
「王国に引き取られた私は教育を受け、密かに王族の警護任務に就くことになりました。見た目は普通の羊獣人ですから、警戒もされにくいですしね」
「なるほど」
話を聞く限り、普通の羊獣人は剛掌○なんて使えないんだろうな。使えたら怖いけど。
だから、身辺警護にはもってこいってわけだ。内政官や侍女と偽って要人の傍に置いておけば威圧感も不信感も与えることなく対象を警護できるわけだし。
「戦争の時には私も暴れようと思ったんですけどね。王様に言われたんです。今は潜伏してシルフィの下までなんとか辿り着き、側にいてやってくれと。ただ、オミット大荒野を単独で縦断するのは流石に難しいですから。チャンスを狙って潜伏しているうちに何年も過ぎて、反乱が起きて、ダナンさん達に合流してなんとかオミット大荒野を縦断し、シルフィと再会して今に至るというわけです」
「縦断難しいか?」
十分に物資を揃えれば可能そうだけど。水やシェルターは魔法でも作れそうだし。
「難しいですよ。ギズマなんてなんとでもなりますが、一人で持てる食料や水の量なんて高が知れていますし、一人では休むこともできません。休むことが出来なければ魔力もそのうち尽きます。そして、寝ている間にギズマに襲われたら死にますからね。十日間、あの荒野を単独で行くのは不可能です」
「そうか……そうだな」
無尽蔵に物資を持ち歩くことができ、その上好きな場所に安全なシェルターを作ることが出来る俺だからこそ簡単に思えるんだな。確かに能力なしで単独行は無理ゲーだわ。
「うん? そうするとメルティってなんさ――」
ヒュゴッ、と音がしてメルティが俺の目の前に移動していた。顔はニッコリと笑っているけど、威圧感が凄い。
「コースケさん、女性に歳を聞くのはデリカシーの無い行為だとは思いませんか?」
「一般的にはそうだと思わないでもないけど、メルティに対しては思わないなぁ。だって、何歳でも綺麗で美人なことには変わりないし。エルフみたいな長命種もいるんだから、気にする必要なんて無いんじゃないか? 俺が気になったのは魔神種だと普通の羊獣人よりも寿命が長いのかどうかってことだし。確か獣人って人間とさほど寿命が変わらないんだよな?」
俺は威圧感に負けず持論を展開した。威圧感は怖いし、言うことはもっともだと思うけど知的好奇心は抑えられないんだ、俺は。
メルティはそんな俺を暫くジト目で見つめた後、目を瞑って溜息を吐いた。
「シルフィよりはちょっと年上です。レオナール卿よりはずっと年下ですよ。あと、魔神種は寿命も長いです。通常種の大体五倍くらいは生きるそうです」
「なるほど、そりゃ凄いな。隔世遺伝というよりは突然変異なのかね」
突然変異すると寿命が伸びるってのも変な話に思えるけど。なんとなく短命なイメージがあるし。
実際には隔世遺伝とか突然変異なんて現象じゃなく、もっと別の現象なのかもしれないな。
そんなメルティの身の上話を聞いている間に街道に出た。人通りはまばらで、森の方から出てきた俺達に訝しげな視線を向ける者もいたが、関わり合いになろうとは思わなかったのか、すぐに興味を失ったかのように視線を逸らして自分の目的地に向けて歩を進めていった。
「街道に出ましたね。どうしますか?」
「このままノソノソと街道を普通に歩いていったらどれくらいかかるんだ?」
「……一ヶ月くらいかかるんじゃないですかね?」
「それはしんどいな……街道を外れてダッシュで帰ったほうが良さそうだ」
「メリナード王国の地図は頭に入っていますから、案内はできますよ。方向感覚にも自信がありますし」
メルティがすぐ隣から俺の顔を見上げてくる。方向感覚に自信がある、ねぇ……羊って滅茶苦茶方向音痴ないきものじゃなかったっけ? 魔神種だから違うのか……? でも、実際にメリネスブルグまで辿り着いているわけだし、実績はあるのか。
「じゃあ、案内を頼むよ。最適なルートで誘導してくれ。街に辿り着けなくてもシェルターで安全に休めるから」
「わかりました、付いてきてください」
そう言うとメルティは街道を横断し、今出てきた森から街道を挟んで反対側の森へと向かって歩き出した。
よし、待っていてくれシルフィ。俺は何が立ち塞がろうとも前に進んでみせるぞ!




