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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
メリナード王国領でサバイバル!
107/435

第106話~誰得~

(投稿が遅れたのは)許してください! コースケを酷い目に遭わせますから!_(:3」∠)_(そのうちに

Side:シルフィ


 コースケが居なくなって、もう一週間。

 コースケの現在地そのものは早い段階で把握することができた。アイラが触媒を使った探索用の儀式魔法を使って早々に見つけ出したのだ。幸い、コースケを探すための触媒は『新鮮』なものがあったので、精度にも信用が置けた。

 問題は、その場所であった。


『メリネスブルグ……』

『やはりか……』


 悪い方向に予感が当たったと言うべきだろう。一体どうやってこの短時間でメリネスブルグまでの距離を移動したのかは定かではなかったが、やはり転移のアーティファクトの類を使ったのであろう。そうでなければたかが半日程度でアーリヒブルグからメリネスブルグまで移動することなど出来るはずもない。


『どうやって助け出すか……』


 問題はまさにそれであった。メリネスブルグはメリナード王国領における政治の中心地だ。それはつまり、敵の中枢であるとも言い直すことが出来る。距離的には馬車で五日ほど、徒歩ならその二倍から三倍。メリネスブルグまでの道程には聖王国軍の駐屯地や砦なども存在し、とてもではないが軍を送り込んで作戦行動を行うなどということはできそうにもない。

 アーリヒブルグを占領した私達に対して聖王国軍は神経を尖らせている筈であり、監視の目はかなりきつくなっている。アーリヒブルグ周辺に斥候を放ってきているからな、奴らは。

 とはいえ、コースケを助け出さないという手はない。解放軍としても兵站の要であるコースケを失う訳にはいかないし、私個人的としてもコースケを見捨てることなどできるわけがない。

 部隊を送り込めないとなると少数精鋭を送り込むしか方法が無いわけだが……。


「私が行く」

「ダメです」

「無理」

「ダメですね」

「論外でありますな」


 メルティ、アイラ、ダナン、レオナールに寄って集って否定された。


「何故だ!?」

「シルフィが単独で潜入なんて許せるはずがないでしょう? 貴方の立場を考えなさい」

「耳が目立つ。隠しようがない」

「メルティと同じ意見です」

「吾輩もでありますな。指導者が危険な単独潜入を行うなどありえないのである」

「ぐぬぬ……」


 ぐうの音も出ない正論だった。


「私が行く」

「それこそ無理だろう。私の耳より隠せないだろう、その目は」


 私の耳は最悪切り詰めればなんとかなるかもしれないが、アイラの目は隠しようがないだろう。


「そもそもアイラは身体が小さすぎて子供に見られるでしょう? 子供の単独行は目立ちますよ」

「私が言うべきことは言われたな」

「右に同じである」

「子供じゃない……」


 メルティの言葉が効いたのか、アイラがしょぼくれる。確かに子供ではないのだが、体格の小ささばかりはなぁ。


「吾輩もまぁ、無理であるな」

「その鬣と顔は潜入には向きませんよね」

「では、私が」

「ダナンは顔を覚えられているだろう。未だに手配書が貼られているというぞ」

「そもそも角がありますから、難しいでしょう。だから、私が行きます」


 メルティが変なことを言い始める。角があるのはメルティも同じだろうに。


「メルティにも角がある」

「ええ、切り落としてしまえばいいでしょう」


 ケロリととんでもないことを言う。角持ちの亜人が角を落とすということの意味をメルティが知らないはずがない。


「コースケさんの作った薬があれば危険はないでしょう。感染症の恐れもないでしょうし」

「いや、だからといって――」

「角を落としてしまえば人間に紛れることは難しくありません。私一人ならいざとなればどうとでも逃げられますし」


 確かに、メルティならば単独でもなんとかなるかもしれないが……角を切り落とすというのは……。


「それくらいの覚悟を持って臨むということです。それに、最悪私が死んだとしても解放軍に与える影響は少ないでしょう、この面子の中では」

「それはそうであるな」

「レオナール!」

「姫殿下、事実は事実なのである。こう言ってはなんであるが、メルティの立場はいち内政官なのであるな。我々の指導者である姫殿下は勿論のこと、魔道士部隊のまとめ役で研究開発部の長でもあるアイラや三年前の反乱で指導者的立場であったダナンや我輩とはもしもの時の影響力が違うのであるな」

「そういうこと。私の実力については知っているでしょう?」

「それは……」


 勿論知っているが、だからといって角を切り落とすというのは……。


「人間の解放軍兵士に潜入してもらうのが一番ではあるんでしょうけどね。実力的にも信用的にも任せられる人、居ないでしょう?」

「であるな。実際、キュービが連れてきた人間が裏切っているのである」


 会議室に沈黙が訪れる。実際、これは大きな問題なのだ。コースケが攫われたという事態が発覚し、これを大体的に調査して真相が判明した――のはいいのだが、それによって亜人と人間の避難民との間に相互不信というか、溝のようなものができてしまったのだ。

 今はなんとか表立った対立は沈静化しているのだが、いつまた騒ぎが起こるかわかったものではない。この問題の解決にも頭を悩ませているのだ。


「キュービめ……次に会ったら全身の毛を剃って晒し物にしてやる」

「尻尾の毛も」

「当然だ」


 奴が解放軍に与えた損害は計り知れない。正直、聖王国軍から受けた損害よりも奴一人が解放軍に齎した混乱と相互不信の方が被害が大きい気がする。


「斬るのはレオナール卿にお任せしますね。痛くないようにしてください」

「最大限努力するのである」


 この後、レオナール卿の手によってメルティの両角が切り落とされ、たった一日の療養の後に彼女は旅立っていった。

 それから約二週間が経ち、私の苛立ちが頂点に達した頃、その時は訪れた。


 ☆★☆


「これがゴーレム通信機?」

「ああ、据え置き型の強力なタイプのやつだな」


 出来上がったゴーレム通信機を前に俺は胸を張ってみせる。この据え置き型ゴーレム通信機の通信可能範囲は従来型の五倍以上になっている。一応、仕様上はそうなっているはずである。アイテムクリエイションで作ったものだから細かいスペックまでは正直わからんけど。

 見た目は机サイズの四角い箱に、周波数を変更するためのダイヤルや通話をするためのマイクやスピーカーのついたもので、デザイン性の欠片もない無骨な一品だ。すまんな、俺にデザイン性なんて求めないでくれ。そういうのは鍛冶ラミアさんあたりの領分なんだ。


「コースケさん」

「うん?」

「これ、送話は出来ても受話できないんじゃないですか?」

「え? いや、そんなこと無いはずだろ。通信範囲は従来の五倍だぞ? 距離的には十分……」

「いえ、ですからこの通信機から発信する魔力波が向こうに届いても、あちらからの魔力波はこちらに届かないのでは?」

「……しまった!?」


 そう言えばそうだ。受信感度を上げたとしてもそもそも向こうの発信する魔力波の出力が足りなくて、こちらに届く前に減衰しきってしまってはどうしようもない。これは失敗しただろうか?


「こちらからの一方的な送信だとしても、無事を報せることは出来るでしょうから、無駄にはならないと思いますけどね」

「はい……」


 送受信の機能を強化する外部アンテナの作成も視野に入れるとしよう……増幅器付きの中継局とかがあればベストなんだろうけど、アイテムクリエイションで作れるかな……? 難しそうな気がするな。

 俺がクラフトできるゴーレムコアはゴーレム通信機用のものだけだから、中継局を作るなら中継局用のゴーレムコアを研究開発部に作って貰う必要がありそうな気がする。

 いや、でもアイテムクリエイションならワンチャンあるか……? 後で試してみよう。


「とりあえず、メッセージを送信してみるか」

「そうですね。できるだけ多くの周波数で試しましょう」

「オーライ。魔力の供給を頼む」

「はーい」

「わかったわ」

「了解なのです」


 スライム娘達が大型ゴーレム通信機の魔力供給スロットに触れて魔力を供給し始める。俺には魔力なんてものは感じられないのだが、備蓄魔力を示すインジケーターがぐんぐん上昇しているので、問題なく魔力が供給されているのだろうということは見ればわかる。文明の利器ってすげー。


「魔力の充填は終わったみたいですね」

「よし、始めるぞ……こちらコースケ、こちらコースケ。現在メリネスブルグ地下の下水道に潜伏中。俺もメルティも無事、またメリナード王国の王族も大半が王城で存命。連れ去られた者は無し」


 同時に、今は試作型の大型ゴーレム通信機で通信していること、おそらくそちらからの通信は届かないと思われること、これから連絡に使う周波数なども含めて同じ内容の通信を解放軍で使われている複数の周波数で送信する。


「喉が枯れそう」

「えい」

「がぼぉ!?」


 ライムが突然身体の一部を触手状にして俺の口に突っ込んできた。

 の、喉まできてる! おえってなるから! というか息が!? と慌てていたら解放された。

「げほっ! げほっ! げふっ! おぇっ……」

「なおったー?」

「な、何を……おお、喉がガラガラしない」


 枯れかけていた喉の状態が回復していた。いや、それは素晴らしいんだけど絵面が良くない。絵面が。誰得なんだよ。


「急にやられるとびっくりするから。今後いきなりやらないように」

「んー?」


 こてん、とライムが首を傾げる。そんなあざといリアクションをしてもダメです。主に絵面が。

 ライムの味? 無味無臭……いや、僅かに爽やかな香りだけは漂っていたかな。美味しくはないです。


「これで向こうには届いたんでしょうか?」

「多分、おそらく、きっと。確認する術が無いけど」


 もし向こうに通信が届いたなら、アイラ辺りが遠からずこちらに通信が届く魔力波強度をなんとか実現して通信を飛ばしてきそうだ。出力だけの問題なら多分なんとかするだろう。こちらも送受信を確実に行うために外部アンテナの設置を検討……いや、とっとと一旦帰ったほうが良いかな?

 ちょっとその辺りはメルティやライム達と相談することにしよう。うん。

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