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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
メリナード王国領でサバイバル!
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第105話~お互いにこいつ普通じゃないと思っている人達~

ちょっとながめ_(:3」∠)_(おくれたのはゆるして

「とにかく落ち着いて話をできる場所に行きたいが……残念ながらそういう都合の良い場所は知らないんだよなぁ」

「私も今の王都の案内はできそうにないですね。外に出ます?」


 目深に被ったフードの奥から金色の瞳が向けられる。うーん? メルティってこんな目立つ瞳の色してたっけか……? というか、なんだか雰囲気が色々と違っている気がする。

 まぁ、今は良いか。あとで色々と聞けばいい。

「出るなら別々に出たほうが良いな。俺、滞在期間をオーバーしてるから門番に絡まれるかもしれん」

「私が先に出ましょうか。でも、その前に……」


 急にメルティが正面から俺に抱きついてきた。彼女の豊満なおっぱいが俺の胸板に当たるが、残念ながら革鎧のせいでほとんど感触が感じられない。実に残念。


「良かった……コースケさんが無事で。どのような形にせよ、コースケさんが無事で本当に良かったです」

「ああ……うん。俺も正直メルティに会えてホッとしてる。まさか誰かがここまで来るようなリスクを冒すとは思ってなかったから」


 俺からもメルティを軽く抱きしめ、その背中をポンポンと叩く。そうすると彼女は満足したのか、俺から身を離した。少し顔を赤くして見上げてくるその瞳の色は灰色に……え? ナンデ?


「メルティ、瞳の色が……?」

「え? ああ、金色になってました? ちょっと興奮……いえ、感情が昂ぶると私、瞳の色が変わるんですよね」

「……不思議な体質だな?」


 攻撃色かな? メルティはやはり怒らせないようにしたほうが良さそうだ。


「ええ、ミステリアスでしょう?」


 メルティがにっこりと穏やかに微笑む。そこに先程までの威圧感というか緊迫感はない。先程までは俺に疑念を抱いていたようなのだが、何故かそれも随分と和らいだようだ。


「というか、メルティ。角は……?」


 メルティの頭には立派な巻き角が生えていたはずなのだが、フードを被った頭にはその形跡が見られない。まさか取り外し可能とか? それとも格納可能とか?


「ああ、切ってきました」

「切っ……!?」

「コースケさんを探すためならこれくらいやりますよ。シルフィが来ると言い張っていたんですが、あの子の特徴は隠しようが無いですし。アイラやハーピィ達も騒いでいましたけど、シルフィ以上に論外ですしね。私は角さえ落としてしまえば人間とほとんど見た目が変わりませんし、角の跡も髪の毛や帽子、フードで隠せますから」

「いや、でもお前……角は大事なものなんじゃ」

「勿論です。私が生まれたときからずっと付き合ってきたものですから」

「もしかしてまた生えてきたりするのか……?」

「いいえ? 鹿系獣人は毎年生え変わりますけど、それ以外は基本的に生え変わりませんね」


 ケロッとした表情でそんなことを言う。


「つまり、それは一生モノの傷なのでは……?」

「そうですね。角を持つ種族にとって角を落とすというのは最上級の刑罰にあたります。血も神経も通っていますから切断時には激痛と出血を伴いますし、場合によってはそれだけで死に至ることもあります。生き残ったとしてもその傷から感染症に罹るとほぼ間違いなく死にますし、同族や同じく角を持つ種族からは一生後ろ指を指されますね」

「んなっ!?」


 メルティがなんでもないことにように話した内容に思わず目を見開く。完全に一生モノの傷である。俺を探すためだけにそんなことをしてきたっていうのか。


「な、なんでそんな……」

「色々な条件を考えると私が適任でしたから。それに、コースケさんは解放軍になくてはならない存在ですし、コースケさんの帰りを待つ人が沢山います。あと……」

「あと?」

「コースケさんに恩を着せようかなって」


 メルティがにっこりと笑みを浮かべる。あ、これアカンやつや。


「私が勝手にやったことですけど……コースケさんは自分のためにここまでした私を捨てたりしませんよね?」

「まぁ……そうですね。責任は感じますね、痛烈に」

「でしょう? だからそういう打算も込みです」

「メルティはヤンデレ属性かぁ……」

「ヤンデレ?」


 聞き慣れない俺の言葉にメルティが首を傾げた。


「愛情や恋慕が行き過ぎて自傷を伴う過激な行動を取ったり、積極的に自身以外のライバルを攻撃したりする性質……ちょっと違うな?」

「私、別に他の子を攻撃したりしませんよ? 自傷を伴うって言っても、必要だからやっただけですし」

「そうだな。違うな。どちらかと言うと犠牲を厭わない漢らしい行動力があり、かつ計算高いって感じだよな。ヤンデレではないな」

「計算高いって……別にそれだけでこういうことをしてコースケさんを探しに来たわけじゃないんですけど」

「勿論わかってるとも。危険も犠牲も顧みずに単身で俺を助けに来てくれたことには感謝を通り越して尊敬とか畏敬の念すら感じるし、正直もう今すぐにでも抱いてって感じだぞ。俺が女で、メルティが男だったらキュン死してると思う」

「男の子でもキュン死してもいいんですよ?」

「残念ながら俺がキュン死する相手はシルフィだけだから」

「ごちそうさまです」

「どういたしまして」

「ついでに私も召し上がってくれてもいいんですよ?」

「限り無く前向きに検討させていただきます」

「やりました」


 メルティがにっこりと笑みを浮かべながら両手をぐっと握りしめてガッツポーズをする。うーん、なんか軽いなぁ。


「シルフィ達とは?」

「話はつけておきましたよ」

「流石にそのへんの手回しは完璧だな」

「勿論ですとも。それで、そろそろ移動しません?」

「そうだな」


 メルティが先行し、俺はその後ろを付かず離れずの距離で追っていく。やがてすぐに城門へと辿り着き、先に歩いていたメルティは簡単なチェックだけ受けて先に外に出たようだった。

 俺の方は少し揉めるかと思ったのだが、エレンが俺を大聖堂に留まらせる際に門番に手を回してくれていたらしく、特にお咎めも受けることなくスムーズにメリネスブルグの城門を潜ることに成功した。

 先に門を出て待っていたメルティと合流し、街道を外れて地下道の入口へと向かう。


「どこに向かっているんです?」

「城の地下に脱出用の地下道があるのは?」

「存在は耳にしたことがありますが、詳しくは知りませんね。噂程度です」

「なるほど。向かってるのはその地下道なんだ。地下道というか、下水に棲んでるスライムの情報は知ってるか?」

「ライムさん達ですか? 生きてるんで……まぁ、あの方達は死にそうにないですね、考えてみれば」

「無敵だよな、ライム達は」

「そうですね。一対一ならともかく、三対一だとちょっと勝ち目がないと思います」

「えっ……一対一なら勝てるの?」

「ええ、勝てますよ?」

「そ、そうか……」


 うっそだろ? あのどうやっても倒せそうにないライム達に勝てるの? メルティ? 絶対に怒らせないようにしよう。

 というか、マジ? およそ通常の生命体が太刀打ちできる相手じゃないと思うんだけど……あれだってもう殆どスライムっていうよりテケリ・リとか鳴くやべーやつみたいなものじゃん。知能から考えるとそれのロード級のやつじゃん。

 内心戦慄しながら森の中を突っ切り、目的の地点へと移動する。迷うのではないかと思ったのだが、幸いなことに入り口を隠している岩が特徴的だったためなんとか入り口を見つけ出すことが出来た。


「ここですか?」

「うん、ここだぞ」


 インベントリからたいまつを取り出し、薄暗い洞窟を奥に進む。


「そろそろライム達のテリトリーに入っ――」


 た、と言葉が出なかった。頭上から降ってきた柔らかい何かに押し潰され、包み込まれて丸呑みにされたからだ。こんなことをするようなやつは三人くらいしか知らない。


「コースケ! しんぱいしてた!」

「お、おう……それはわかったから離してくれまいか?」

「やだ!!」

「そっすか……」


 全力で拒否られた。その間もライムは俺の身体に纏わりつき、鎧の下どころか服の下まで入り込んで全身をくまなく撫で擦っていらっしゃる。というか、まるで洗濯機に入れられた衣服の如く、頭だけライムの身体から出た状態でぐるぐる回されている。


「随分懐かれているんですね……」

「とーぜん。コースケはわたしたちの……わたしたちの?」

「何なんですか?」

「なんだろー?」


 俺を包み込んでいる本体(?)から上半身を生やしたライムが首を傾げてみせる。俺を見られても俺にもよくわからん。


「とにかくだいじなそんざい」

「なるほど……美味しかったですか?」

「コースケはおいしいよ?」

「私もご相伴に預かりたいんですけど」

「いいよー。ライムたちのおうちにかえろう!」

「あの、自分で歩けるから離してくれませんかね?」

「やだ!!」

「はい……」


 ライムに取り込まれたまま連行されること数分。懐かしのライム達のおうちに到着した。


「これは確かにコースケさんの拠点ですね」


 設置されたままの改良型作業台や鍛冶施設を見ながらメルティが頷く。そして、俺はと言うと。


「溺れるから! 窒息しちゃうから顔はやめて!」

「連絡もしないで! 本当に心配したんだからね!」


 ベスに抱きしめられていた。それはいいんだけど、程よい弾力のスライムを俺の顔に押し付けるのはやめて欲しい。ピッチリと隙間なく顔を覆うからマジで窒息しかける。


「次は私なのです」

「ライムもー」

「ライムは先に堪能したんだから私の後なのです」

「私も混ぜて欲しいんですけど」

「じゃあアレのあとなのです」

「むー……」


 そんな感じでライム達……何故かアレ扱いされたメルティも込みでもみくちゃにされ、解放される頃にはクタクタになってしまった。


「あー……どこから話すか」

「最初から話して欲しいですね。ライムさん達とどうやって接触したのかも気になりますし」

「りょーかい」


 もみくちゃされた俺はソファ状に変形したライムに腰掛けながら事情の説明を始めた。

 キュービに不意打ちされて誘拐されたこと、城の地下にある独房に入れられたこと、独房にあったものを利用して石斧を作り、石床を破って地下道に逃れたこと、そしてライム達と出会い、ゴーレム通信機を作るためにメリネスブルグに潜入する準備を進めたこと。


「それでどうしてアドル教の連中とよろしくすることになったんです?」

「それには複雑怪奇な運命があってですね……」


 偽造した帝国通貨を換金しに行った両替商でミスリル製品を手に入れるのは難しいと聞いたこと、ならリスクはあっても確実に手に入るであろうアドル教の大聖堂で寄付をしてミスリルのロザリオを手に入れようと思ったことを話す。


「たった一人の両替商の言葉でリスクを取るのはどうなんですか……?」

「俺が姿を消してもう一ヶ月近く経ってたんだぞ。一刻も早く連絡をつけないと解放軍、というかシルフィ達が無茶な行動を起こしかねないと考えたんだよ。つまり、リスクよりも時間を取ったわけだな。実際、無茶をやらかしてここまでメルティが来ているんだから俺の判断は間違ってなかったと思う」

「うっ……それは確かに」

「だがまぁ、そこで不測の事態が起きたわけだ」


 ミスリルのロザリオを得るために大聖堂に行ったら、その日が丁度聖女が説法をする日で教会騎士がわんさかと居た。

 それを見て踵を返したら怪しいやつだと目をつけられそうだったから仕方なくそのまま礼拝に参加し、最後に聖女様から祝福を賜るというところで自分の後ろにいた奴が突如聖女様に毒の短剣で襲いかかり、咄嗟に助けてしまって刺された、と。


「何で庇うんですか……そこは見逃して刺させておけば良いじゃないですか」

「せいじょ、びじんー?」

「コースケは女に甘そうだものね」

「なのです」

「なるほど……」

「違うから。そういう理由じゃないから。後ろのやつが奇声を上げて俺を押し退けたからつい咄嗟に肘を打ち込んじゃっただけだから」

「そういうことにしておくのです。それで、何の毒だったのです? 私の渡した解毒剤なら大抵の毒は……」

「バジリスクの毒だって言ってたぞ。しかも都合の悪いことに肝臓を刺されてな」


 メルティが噴き出した。ライム達は思考停止でもしたのかポカーンとした顔をしている。なんだよ?


「何で生きてるのです? 即死しないとおかしいのですよ?」

「コースケつよい」

「私達ならともかく、およそ人間の生命力じゃないわね」

「ほ、本当によく生きてましたね……?」

「君達、その珍獣でも見るような目はやめてくれないかね? まぁ、聖女様にもそう言われたけども。油虫並みの生命力ですねとかなんとか」

「油虫でもバジリスクの毒には勝てないのですよ」

「それ以上とでも言いたいのか? ん?」

「そ、それはともかく。それからどうなったんです?」

「ぬぅ……まぁ続きを話すか」


 暫く大聖堂で寝込んでいたこと。アドル教の聖女とシスターに手厚い看護をしてもらったこと。そして聖女に稀人であることを見抜かれたことを話す。


「バレたんですか!?」

「ひと目でバレました。なんか光輝? とかいうのが聖女様の目には見えるそうでな。神の祝福めいたものが光として見えるんだと。もう大聖堂で説法をしてた時からあいつ普通じゃねーってのはバレてた感じだったな」

「それは厄介な……それで、どうなったんです?」

「それがな」


 俺はエレンがこの地に来る前に受けていたという神託の内容と、彼女とのやり取りを覚えている限り詳細に話した。そうすると、最初は緊迫した様子だったメルティやスライム娘達の顔がどんどんと冷めていき、最後にはライム以外の三人の目が女の敵でも見るかのような目つきになっていた。


「コースケさん……またですか?」

「俺は悪くねぇ! あんな神託を出した神とやらが悪いんだ! 俺は悪くねぇ!」

「コースケ、モテモテー?」

「見境というものが無さすぎじゃない?」

「大変なスケコマシなのです」

「コマしてない。コマしてないから」

「本当ですかぁ?」


 メルティがジト目で俺を睨んでくる。彼女としては面白くないだろう。わかる。


「と、とにかくですね? 聖王国というかアドル教も一枚岩じゃないってことがわかったのと、その中でも親亜人派とも言えるかも知れない人達とのパイプが作れたというのが要点でな?」

「……まぁ、それは確かに有用そうな人脈ではありますね」

「どうやって連絡を取るつもり? まさかコースケがいちいち会いに行くわけじゃないわよね?」

「うん、それなんだがな。ライム達に協力してもらいたい」

「協力なのです?」

「うん。これから作る予定の大出力ゴーレム通信機をここに置いていくから、そいつを経由してエレン……聖女エレオノーラと連絡の仲立ちをして欲しいんだ」

「エレン、ねぇ……まぁそれは良いけど、具体的にはどうやって?」

「王族のいる区画があるだろう? あそこにエレンがどうにか単身で乗り込むから、そこで落ち合って欲しいんだよ」


 俺の提案にスライム娘達は顔を見合わせた。


「できればあの場所には近づいて欲しくないのです」

「勿論だ。最初の一回だけでいい。その後の接触場所や方法についてはその時にエレンと話し合って決めてくれ」

「それならー?」

「一回だけなら良いわ」

「助かる」


 スライム娘達が了承してくれてよかった。絶対にダメ、となったらもう一度エレンと会うためにメリネスブルグに行かなきゃいけないところだったからな。


「コースケさん、一体どうするつもりなんです?」

「具体的にはまだ考えてないけど、どちらにせよメリナード王国内のアドル教徒を皆殺しにするまで戦うわけにはいかないだろう? どこかしらの時点で講和は結ばなきゃならないわけだし、その窓口としてエレンとエレンの所属する教派は最適のはずだ」

「それは確かにそうですね」

「あと、エレンの所属している教派はアドル教の主流派である反亜人派――亜人弾圧派と言っても良いな。奴らとは仲の悪い教派であるらしい。エレン達の教派が力を持つことは解放軍にとって有利に働くはずだ」

「そうかもしれませんね」

「それと、どうも現在の反亜人的なアドル教は、何百年か前にエルフに滅ぼされたオミット王国の生き残りが元々のアドル教の教えを歪めた疑いがあってな……」

「本来のアドル教ですか」

「その辺りの調査をするためにオミット王国の跡地であるオミット大荒野を調査したいという思惑があっちにはありそうな感じだな。場合によってはアドル教を、ひいては聖王国をひっくり返せるかもしれん」

「なるほど……」


 俺の説明にメルティは頷き、考え込んだ。こういう謀とか政治に関しては俺なんかよりもメルティの方がよほど上手くやってくれそうなので、正直丸投げしてしまいたい。


「俺から説明できることはこれくらいかな……さて、早速ゴーレム通信機を作るぞ」

「そうですね。コースケさんの無事をシルフィエルに早く伝えてあげたいですから、頑張ってください」

「任せてくれ」


 まずはミスリルのロザリオと銅を合金化するところからだな。俺も早くシルフィの声が聞きたい。急ぐとしよう。

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