【第三章】の始まり
今は道徳の時間。『オオカミ少女』の授業である。その内容をダイジェストしてみよう。
『うそばかりつく少女百合。でもそれがなぜか次々と現実化して、みんなが信用するようになってしまった。次第に百合は予言者と言われてマスコミに取り上げられて、たびたびメディアに出るようになった。やがて百合は「大神少女」と呼ばれ、称賛され、タレント顔負けの人気者となった。実は百合は言霊能力者で、予言はそのチカラの現われだったのである。百合のギャラはウナギ登りで、莫大な収入を得て、いつの間にか大金持ちになった。その財力を活用して、百合は政治家となり、ついに王にまで上り詰めた。国民からは王とは呼ばせず、「大神少女」を称号として、独裁政治を展開した。
百合はすごい美少女でもあったので、男たちにどんどんモテて、アイドルとなったが、ファンになった少年たちが続々と失踪する事件が発生した。事件はすべて迷宮入り。だれにもその謎はわからなかった。
その後も失踪事件は後を絶たず、いつしかこの世から男子はいなくなり、人類は絶滅の危機に陥った。残された女性たちが大神少女に助けてほしいと懇願した。「わかった」と百合。
百合は、女性同士の交配をみとめると詔(言霊)を出した。男女でないとだめだと思われていた秘め事を礼賛する本やゲームを多数出して、意識改革。洗脳ともいうが。
こうして百合族が生まれて人類は危機を乗り越えたということである。』
「どうして名前がゆりなのよ!」
怒る由梨。
由梨のことはとりあえずスルーして、オレは違う反応を示した。『神』に関する話なので、美緒に話しかけてみる。
『童話で聞いていた『オオカミ少年』」の話とはちょっと違うな。』
『まったく違う。神たちもかつて人間であったから、その話は知っている。これは言霊信仰のひとつなんだ。こうして、言霊がいかに世の中に貢献しているかを訴えるというものなんだぞ。』
『そ、そうなんだ。出版社やゲーム会社の策略のような気がするけど。』
『これはファンタジーなんだぞ。そんな現実を直視するような見方をするもんじゃないぞ。』
『はあ。』
『それに、恋愛は男女間だけでない。同性同士でもあり得るという大変貴重な意見を提起したという問題作なんだぞ。』
『はははあ。』
こじつけのような話に十分な理解ができない都であった。




