変わり身
一方、手にしたお面はゴムのように上下に長く延びたかと思うと、薙刀に変形した。頭には赤いハチマキを締めている。正面には黒い字で『戦』と書いてある。お面の紐がハチマキになったようだ。美緒は薙刀を斜めに持ち上げている。
「そちらの準備もいいようだな。では俺からいくぞ。」
政宗ははゆっくりと美緒に近づく。美緒は二三歩後ずさりする。そこで両者は動きを止めた。お互いに間合いを見計らっているようだ。ふたりは3メートルは離れている。
「なかなかスキのないヤツ。政宗、お主かなりできるな。さすが、ジバクとはいえ、信長たち、そうそうたる武将の頭についているのもうなずける。久しぶりにガチンコのケンカが楽しめそうだ。神冥利に尽きるな。ワハハハ。」
「そんな余裕こいているヒマがあるのかな。やああああ。」
政宗は興奮した猪のように突進し、その勢いに乗じた風とともに太刀を美緒に振りかざす。『ビューン』鋭い音が空気を斬る。美緒と共に、四次元空間を裂いたか?
「なかなかやるなお主。0.001秒遅れたら刀の錆になっておったわ。神に錆はにわわないがな。『寂より侘』だ。ワハハハ。」
政宗のひと太刀を刹那、回避した美緒。まさに神技。
「美緒神。侘・寂は同義語だけど。」
一応オレがツッコンだ。
『そうだな。さすが現役女子高生、いや男子高校生か。ってか、戦闘中に余計なツッコミを入れるな。』
ここでもコミュニケーションはやはり糸電話。いちいち面倒である。
「スキあり!」
政宗は美緒の後方から斬りつけた。
「ぐあああああああ~。」
『ブバババ~』背中から大量の血液が迸る。火事と間違えて発せられたスプリンクラーのように放血されている。
『バタン』。美緒は、上手に食べきれずに崩れるショートケーキのようにその場に倒れた。仰向けになっている。
『美緒神!』
慌てて美緒に駆け寄るオレ。糸電話の糸が絡みそうだ。
『あれっ?これなに?ゴミ?』
額には『信』の一文字。白目を剥いているのは信長。だらしなく開いた口からは白い泡が垂れている。実に見苦しい。
「変わり身の術とはなかなかやるな。貴様、できるな。褒めて使わすぞ。」




