単に来たかっただけ
「おい、頭の上にある白い輪はいったい何だ。」
「これ?死んだことを証明するものよ。よくアニメとかで見るでしょう。」
「あれのこと?でも、そんなのをつけたままじゃ、回りに不審がられるだろう。ていうか、死人であることを標榜しているようなものじゃないか。てか、美少女カウンター、いやユーホーキャッチャーだったか、の方が存在感は大きいがな。」
「大丈夫。輪の方はフツーの人間には見えないわ。」
「なんと。じゃあ、オレが特別だということ。」
「そう。だからヘンタイ。」
「そういうことっすか。」
十分に納得したオレ。そんなわけない!女装から本物の女の子になったのだから、生物学的には『変態』したことは事実。だからオレは『変態』なのであって、決して『ヘンタイ』なのではない。
そもそもオレが女装している理由。シュミと言ってしまえばそれまでだが、それだけでもない。オレの家では女がもてるのだ。
父親はオレより、母親つまり、妻を愛する日々が続いた。妹が生まれてからもそれは変わらず。また、両親は妹を愛して、都は男子なので放置され、そのことがオレの女装への興味を駆りたてることになった。
オレは両親に気に入られるべく、女装をするようになり、その方がかわいいわよと母親から言われることが嬉しかった。そのまま高校生までなってしまったということ。ちゃんちゃん。本当はもっと奥深く長い話なのだが、今はここまでにしておこう。
「姿が他の生徒や先生には見えるのはどういうわけだ?」
「『8時ルール』というのがあるの。朝8時から夜の8時までは一定の場所で姿を具現化することが可能なの。それ以後は単なる霊体になるってわけ。これは閻魔女王のチカラによるものね。だからそれ以外の時間は普通の人間には姿は見えないわ。」
さっぱり理解できない。そのうち慣れてくるのだろうか。
休憩時間には予想通り、クラスメイトからの質問の嵐に遭った由梨だったが、美少女カウンターについては、眼鏡の一種で、セレブ専用の特別なモノクルとの説明で通したようだ。それにしても、由梨のいう『セレブ』とはいったい。
オレは未回答の、素朴かつ最も追及すべき再質問をした。
「どうして学校に来たんだ?」
「た、単に来たかっただけよ。」
「そうか。」
会話終了。この日のコミュニケーションはこれにて完了。
ただし、コトは夜になって始まった。由梨=死者というフレーズからは当然か。
下校はオレひとり。家にはリアル女の子のからだで過ごしたが、これはオレの日常であるので、なんら違和感はなく受容された。
あとはベッドに桃羅が入ってきた時にどんな展開になるかが気になるところだが、今から考えても仕方ないので、その時を待つしかないという結論に至った。家出するわけにはいかないからな。
部屋に戻り、夜8時になった。再び大林幸子、もとい、閻魔女王が現われた。
「学校へ行け。」
命令はシンプル。理由説明もない。しかし相手は女王、こちらはしがない候補者見習い。その立場からは命令を受けるしかない。サラリーマン社会の縮図である。将来が思いやられる。上司に絶対服従のサラリーマンなんかにはならないぞ。ならば閻魔大王にでもなった方が楽かな。動機が不純になってきた。呪いを解くのが本来の目的だ。
校門に来た。当然鍵がかかっているので、中には入れない。
「このセレブを待たせるなんて、100万年早いわね。」
由梨がいた。黄色の水着姿。左目カウンターが装着されてるのは言うまでもない。
「かわいい。」
思わず口走ってしまった。昨日よりもしっかりと目視してしまった。