腹痛
(この胸の暖かさは何だ?このような感覚を受けたことはないぞ。奇妙だ。天変地異の前触れか?この手紙に邪悪なものが込められているのか?)
多分そんな大層なものじゃないだろう。それに絶対に邪悪なものではない。『アイス』と書いただけだぞ。
(いや待て。これは願いだ。そう、我に対する懇願なのであろう。こやつはおそらく羞恥心が強いのであろう。そうだ。我は神である。慈愛も必要だ。万物の願いを受け止める義務もある。少し、様子を見るか。うきうき。)
神も『うきうき』とかするんだ。初めて聞いた。でもよく考えればオレと年の近い元女子高生だ。ある意味当然かも。
「これを読んでくれ。」
唐突に美緒はオレに頼みごと。
「アイス。」
素直に応えた途端、花瓶に入っていた水が溢れだした。
「美緒、花瓶が何だか変だよ。」
水はらせん状に巻きながら、室内をグルグル回ると、そのまま元に戻った。
『キュイーン』という音と共に、カードが出来上がった。『スペードの4、ウオーターのカード』。
次の瞬間、神のからだが一瞬黄金に輝いて、金衣が消え去った。眩しくて中身が見えないまま、カードは水着へと変化した。
「美緒、何だか顔赤いよ。どうかしたの?」
「うわああああ。肌を男に晒すとは。神としてはあるまじきこと!」
美緒はひざまづいて、両手で胸を隠してしまった。
「美緒のからだ、すごくきれいだし。でも男に見せるのはもったいないや。」
「天の岩戸へ行くぞ。」
「わかったよお。ばいばいどっきゅーん。」
『天の岩戸』ってどこだ。とにかくふたりは消えた。オレの腹痛もなぜか消えた。




