糸電話
お面がなければ完全に目尻が下がっているのを確認できるはず。男なら鼻を伸ばしているという表現が妥当だろう。『ぺロッ』、舐められた。
「ぐわッ!」
思わず声を出してしまった。
「これこれ、女の子なら、『きゃあ』だろうが。」
「オレは男だぞ。」「ぎいやああああ!」
オレが言ったと同時に悲鳴があがった。美緒の絶叫だ。美緒は電光石火で黄金椅子に駆け戻った。まさに神速だ。
「ふうふうふう。こ、こやつ、男じゃないか。」
「だからけだものだって、まっほが言ったよお。」
「そ、そうか。神が悪かった。あとで、お詫びのなでなでをつかわそう。」
「ホント?楽しみだあ。わくわく。」
万步はひとり盛り上がっている。
「あれを持て。」
「いつものヤツだね。了解だよお。」
万步は保健室に戻ると何かを手に持ってきた。
「これを使うのは久しぶりだ。」
美緒は何かを顔に装着した。
「これを使って話をするんだよお。」
万步がオレに渡したものは美緒が口に付けたものと同じ。
『もしもし、聞こえますか。』
『もしもし、聞えます。』
『ならばこれでよし。』
『そのようだな。』
以上は美緒とオレの会話。ふたりは『糸電話』でコミュニケーションを取ることとなったのである。小学生の工作か。




