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セレブの16歳

「お兄ちゃんおはよう。今日は早く起きてたんだね。桃は朝食の準備してくるね。」


 目を擦りながら、桃羅は都の部屋を出ていった。


「桃羅は閻魔女王と由梨には気付かなかったようだが。」


 オレは大いなる疑問を閻魔女王にぶつけた。


「をねゐさんや霊界の死者は普通の人間には見えないんだよ。」


 解説は5秒で終了。たしかに、いわゆるユーレイは人間には見えない。だからこそ、オカルト扱いとされているんだからな。たまに心霊写真がテレビなんかに出ると大騒ぎになる。これは普段見えないものが、見えてしまうからこそ起きるパニック現象のようなものである。


「とりあえず、頭の整理をしてくる。」


 そう言って、オレは部屋を出て、顔を洗ってきた。もしかしたら、これまで見たものはすべて夢かもしれない。閻魔女王が言うように、しばらくして部屋に戻ったら、何も見えなくなるかもしれない。


 仮にオレの部屋にまだいたとしても、見えなければ何も存在しないのと同じだから。そこにいるのに見えないというのはある種不気味であるには違いないが、ずっと見えないのであれば、『ユーレイ不在説』を信奉する物理学者のようなリアリストと同じ。そのうち慣れるだろう。


 1階の食堂で、桃羅が作った朝食を済ませたオレは自己暗示をかけた。『オレの部屋には閻魔女王はいない。霊界の使者・死者は存在しない』。お経のようにこれを唱えながら階段を上った。『さっき見たものは夢、いやそうではあるまい。』という付加疑問文を追加しながら。


 自分の部屋についた。オレの部屋だからノックなどはしない。『不存在の証明』と念じつつドアを開ける。


 そこには誰もいなかった。時計の針は8時を回っていた。


 女の子になってしまった。これまでは見た目重視で胸にパットをいれていたのだが、これからは不要となりそうだ。でも心は男。それは変わらない。本質的に喜んでいるわけではない。元に戻る必要性は絶対的に存在する。


「ヘイ、エブリバディ。今日はプリティガールな転校生をイントロデュースするよ。アーユーレディ?」


 担任はピンクのスーツに身を包む眼鏡女教師だ。英語担当でもあり、奇妙な日本語を使う。もっとフツーに喋ってくれ。


『トコトコトコ』。ゆっくり登壇してきた女子。黄色のツインテール。


「かわいい」「めっちゃ美少女じゃん」「ツインテールお似合いだあ」「黄色が眩しい」「めっちゃキュート」「ほんとプリティ!」


 クラスメイトは総じてルックスを褒めているようだ。


「田井中由梨です。セレブの16歳です。よろしくです。」


 自己紹介にしてはひとこと余計だが。言葉よりももっと不必要なものを装着している。


『ピピピ』。


「美少女誘萌力、120、115、209、50、大したことないわね。アタシと比べるとゴミ同然ね。」


 由梨は『ユーホーキャッチャー』をつけたままである。どこから見ても奇妙である。クラスメイトの視線はそこに集中している。休憩時間にはさぞ質問責めに遭うことだろう。


 しかし、オレはもうひとつ別のところにスポットを当てた。


「ミス田井中の席はミス日乃本のライトサイドだね。ビコーズ、そこしかエンプティシートはナッシングだからさ。」


 わかりにくい言葉を受けて、由梨はオレの隣に腰かけた。即座に質問をしたオレ。周囲に聞えないように小声。


「おい、どうして学校に来たんだ?」


「別にあんたに答える義務はないわ。話しかけないでよ。目障りだわ。このヘンタイ。」


「どうしてヘンタイだとわかる?」


「そんなの答えるにも値しないわ。」


「まさか、今朝、水着姿を見られたのが恥ずかしいとか。」


「べ、別にそんなことは大したことじゃないけど。あんたに見せるには早すぎると思っただけよ。ギャラを払いなさいよ。」


 明後日の方向を見る由梨。いや見ていない。目は閉じられている。顔が赤いのはなぜか。窓際で日光が当たっているからか。


 オレが質問をしたかったのはこんなことじゃない。


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