ししゃ?
「何よ、このセレブに対する口のきき方がずいぶんね。軽~く殺っちゃおうかしら。」
由梨は顔のカウンターを外した。すると先がギザギザでいかにも凶器っぽい剣に変化した。幅は20センチ、長さが1メートル以上あり、本人とどっこいどっこいで、どちらが武器なのかわからない。
「何、変なナレーション付けてるのよ。これであんたなんか、ばっさり真っ二つなんだからねっ。」
そう言った瞬間、由梨はオレに斬りつけてきた。びゅんびゅん剣を振る。サラサラと数本の髪が切れて落ちる。まさに髪一重で避けたオレ。
「あぶねえ。こんな狭い部屋で刃物を振り回すんじゃねえ。」
思わず叫んだオレ。すると由梨は動きを止めた。
「あれっ?剣が動かないわ。」
由梨は自分の意思で剣を止めたわけではないらしい。
「都ちゃん、これがあなたの能力。『コトダマ』だよ。」
閻魔女王の瞳がここぞとばかりに輝きだした。
「『コトダマ』だと?古来日本に伝わる『言霊』のことか。あの、言ったことがそのまま現実になってしまうという、アレのことか?」
「そういうことだよ。都ちゃんの言葉の中から、一定のものが選ばれて、『コトダマ』として、自在に使えるものとなるの。今のがそれ。『コトダマ』は発せられた言葉そのものではなく、言葉の意味・内容が具現化するのよ。今回は『刃物=金属』という言葉に反応したらしいね。」
閻魔女王は一枚のカードを手にしている。
「トランプみたいだが。」
「これは『トリガーカード』というの。これを使えるのは都ちゃん自身と、そのパートナーたる者だけだよ。パートナーには相性があって、誰でもなれるわけではないわ。今のカードは由梨が持つことになるの。これは『ダイヤの9、メタル』のカードだね。金属系の防御が可能となるわね。閻魔大王になるにはこのトリガーカードを集めることが重要だよ。」
カードは自然に由梨のところに飛んでいった。
「キャアー!!」
突然、由梨は悲鳴を上げた。顔を顰めて、両手で薄い胸元を覆っている。オレはしっかりその点は確認した。オレは胸に関してはちょっとだけだが、強い関心がある?
「何見てんのよ。あっち向きなさいよ。」
「はあ。残念。」
オレは一旦由梨の指示に従った。
「どうして、アタシ、こうなってしまったの。女王様。」
由梨はいつの間にか、水着姿。それも露出度の高い超三角ビキニ。色は黄色。
「トリガーカードは水着に変わるの。水着として常に使用者と共にあることになるよ。」
「ということは、アタシはこいつのパートナーになったということ。嫌だわ。」
「それは仕方ないね。ガマンするしかない。そもそも霊界から釣られたこと自体、由梨は都と繋がりが深いということなんだよ。」
閻魔女王は高名な僧侶のように由梨を教え諭した。
「ううう。悔しいわ。このセレブがこんなヘンタイオトコと一緒に・・・。」
由梨は泣きだした。
「ちょっと、待ってくれ。オレの立場はスルーかよ。第一、その由梨っておこちゃまはいったい誰なんだ。」
「霊界からの使者、いや死者でもあるよ。」
「使者、死者だと?」
「そう。何らかの理由でこの世で死んでしまい、霊界にやってきた。でも、由梨にはひとつの願いがある。それを叶えるために、ここにやってきたんだよ。」
「その願いとは。」
「女の子同士の秘密だよ。どうしてもって言うなら由梨に訊いてよね。」
ひとりは確実に『女の子』ではないハズ。そんなやりとりをしているうちに、この部屋にいるもう一人の人間が目覚めた。