美少女誘萌力とは?
翌朝。いつもの通り、桃羅はオレの横で寝息を立てていた。
昨日『旦那より早起きはいけない』云々言ってた通りだ。これがオレの左隣。そして、右側には。
『ボヨヨヨヨヨヨ~ン。ボヨヨヨヨヨヨ~ン。』
昨日と同じ強い弾力性のある感触だ。桃羅のソレも小さいわけではないが、これはレベルが違う。
『バシッ!』
「痛え!」
突然左側からチョップが飛んできた。
『ZZZZZZ・・・』
桃羅はまだ睡眠中。無意識にオレを攻撃してきたらしい。女のプライドを傷つけられたからだろうか。
そんなことより、問題は右だ。今日は明確な存在感があった。
「う~ん。おはよう。元気かな。」
「だ、誰だ、お前はっ!」
オレの隣に横たわっているのは、紫のネグリジェ、それもシースルーの美女。
オレよりはかなり年上に見える。長い髪は紫、からだは桃羅よりは大きいようだ。切れ長の目にはやはり紫のアイシャドウが妖艶さを際立たせ、シャープな鼻筋、きりっとしつつも淫靡な唇が長い夜を想起させる。ちょっとオレには早いけど。
「そんなことないよ。なんならをねゐさんと今から一発いっとく?あらいきなり過激発言禁止よ。」
「それは自分の発言だろ。いったいなんなんだ。どこの誰だ。どうやってここに入った?」
「そんなに矢継ぎ早に質問しないでよ。夜はまだこれからだよ。ウフフ。」
「何を言ってる。もう朝だ。」
「そうなの。残念だね。じゃあ次回までお預けとするね。」
「何をお預けにするんだ。」
「焦らないでよ。どれどれ。ここから出て話をするかな。」
紫の女はベッドから出るとオレの椅子にゆっくりと腰掛けて、机に肘をつけた。強烈な光、いや衣装が目に入ってきた。大晦日恒例歌番組のあの歌手のようだ。
「大林幸子?いやどこのオバサン?」
「オバサンとは失敬ね。をねゐさんは閻魔大王よ。今後継者を探しているの。その候補者があなた、日乃本都なのよ。」
いきなり、とんでもない、わけのわからないことを言い出した。
「さっぱり、意味がわからない。閻魔大王?閻魔って男じゃないのか?後継者候補?お前、頭おかしいんじゃないか。早くここから出てってくれ。でないと、警察を呼ぶぞ。」
「そう邪険にしないでよ。をねゐさんは事実を述べているだけよ。閻魔大王と呼びたくなければ、閻魔女王と呼んでもいいよ。私の近習たちは女王様と呼んでるけどね。はあああ~。」
閻魔女王と名乗る女は大きく欠伸をした。緊張感の欠片もない。
「ねえ、寝起きのコーヒーを淹れてよ。」
すっかりくつろいだ姿勢でオレに向かっているようだ。
「オレはインスタントしかできないぞ。って、そんな場合じゃない。全然事実が確認できないぞ。」
「そうなの?じゃあこれを見てよ。をねゐさんの力が少しは理解できると思うよ。」
閻魔女王は右手を上げて、軽く宙に円を描いた。すると、そこに、大きな白い輪ができて、それは輝きながら下に降りてきた。輪の中にはきらきらと光沢が揺らめいている。よく見るとそれは水のようだ。ただ、輪の下には水はなく、今まで通りの空間が残っている。
「ほらね。これで、釣りをしてみてよ。」
閻魔女王はオレに1メートルくらいの短い釣竿を渡した。
「『わけがわからん』と言いたいんでしょうけど、とりあえずやってみなさいよ。」
「どうしてオレのセリフを盗むんだあ?」
「そんな抗議をしてるヒマがあったら、釣をしてね。都ちゃん。」
「仕方ないな。ブツブツ。」
オレは釣り糸を垂らした。
「3分間待つのよ。」
「はあ?」
言われるままにじっと待つ。時計の針は午前7時を回っている。こういう時の3分とは意外に長いものである。
『グググッ』。ヒットした重量感が両手にのしかかる。これはかなりの大物だ。
「さあ、そのまま一気に引き上げてみなさい。」
閻魔女王の指示に従うのは癪だが、釣りの醍醐味には勝てないのか、狩猟本能のまま、力任せに獲物を引っ張り上げた。釣果は・・・。
「何よ、ここ。ずいぶん狭くて貧相な部屋ね。セレブのアタシにはまったく似つかわしくないわ。」
金色のツインテール。小柄な少女だ。微妙に吊り気味の黄色の瞳。ふんわりしたスカートのワンピース。白を基調として、水玉模様が愛らしい。腰のところには大きなリボン。ツインテールの髪にも白いリボン。清純派を強調したものか。そんなお嬢様風に見える少女であるが・・・。
『ピピピ』。ツインテール美少女が付けた片目の眼鏡レンズのようなものが画面に何かを投影させている。スロットマシンのようにグルグルと数字が回転している。視線の先には眠っている桃羅。
「なに、この小娘。美少女誘萌力は1155だわ。アタシより200倍かわいくないわね。」
『美少女誘萌力』?わけのわからないことを言い出した。それとそのレンズ?ゴーグル?はいったいなんだろう。