ブラックホール
昼休みとなり、オレは音楽教室に向かった。由梨はなぜかついて来なかった。
中に入ると、昼間なのに真っ暗。黒いカーテンで閉めっきっていた。人の気配はない。
((来てくれはったんどすな。うれしうおます。))
人形の声だけが聞える。
「お前はどこにいるんだ。」
((うちはここにいるどす。))
教室の奥にグランドピアノがあり、その椅子に何者かが座っているのが、暗がりの中でようやくわかる。幽霊のような人影である。
「どうしてオレをここに呼んだ?で、お前はいったい何者だ?白い輪があることから幽霊であることはわかっているぞ。他のクラスメイトには見えないだろうがな。」
((やはり、見えてはりましたな。そう。うちは霊界から来ました。ゆえあって都はんに会いに参ったんどす。))
「ゆえだと?わざわざやってくるということは当然目的があってのことだろうがな。」
((お察しのよいことで。ほほほ。))
穏やかに笑っているように感じるが、喋ってるのは人形。表情はないだろう。
本体の顔は暗くて見えないが、瞼を伏せたままで、顔の筋肉は微動だにしていないように思えた。
「さあ、オレの質問に答えろ。」
((その前に、簡単なテストを受けておくれやす。))
「何だ、テストとは?」
((こういうことどす。))
「う、うわ~!何だこれはっ!」
目の前の空間が渦巻き状に歪んでいるように見えた、それも教室一杯の大きさ。
オレはブラックホールに吸い寄せられる星屑のように、からだごと中心部に飲み込まれていった。




