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直感

「うちのクラスにあんな女子いたっけ。」「そうね。何だか知らない人っぽい。」


 ちらほらとそんな声が聞えてきた。そこにオレの頭に別の声が話かけてきた。


(知ってるふりをして。お願い。)


「前からいるじゃないか。なあ紅葉院絵里華こうよういんえりか。」


 名前もオレの頭に流れ込んできた。その通りに口裏を合わせたオレ。


((そうどす。))


 彼女は言葉を発してはいない。『そうどす。』と喋ったのは、絵里華の膝の上にあるモノ、つまり人形だった。人形は髪は黒く、おかっぱのように整えられている。


 いわゆる和人形である。赤い着物がよく似合っている。目はやや吊り気味で、気持ちが強そうである。


「そういえばいたよな。」「そうね。」「うん。その通り。」「昨日も一緒に体育やったと思う。」「きっと大人しいから気付かなかっただけよ。」


 こんな具合に次々と言葉がでてきて、それで収束した。オレの記憶では間違いなく、初めて見る生徒だが、こんな風になると誰も疑いを持たない。魔法で記憶を書き換えたわけではない。


 クラスメイトに対する思いとは実に軽いものである。友達であればこういうことはないだろうが、単にクラスメイトというだけの存在の淡さ、危うさを痛感させられた。


 逆に考えれば忘れ去られるのもほんの一瞬かもしれない。去る者は日々に疎しというが、その通りだとすると何とも恐ろしい気分になる。


 しかし、こういう突如のクラスメイト出現に大きな違和感を持たれない理由がもうひとつある。それは、急死する生徒も後を絶たないからである。


 交通事故であったり、病死であったり、たまに自殺だったりもする。同級生の突然の訃報。必ずしもめったにないというものでもないのである。


「これでいいのか。」


((おおきに。昼休みに、音楽教室に来ておくれやす。))


 他には聞こえないような小さな声で絵里華人形はオレに話かけてきた。こんなやりとりをしている間、オレの左、つまり由梨はブツブツとひとりごとを言っていた。


 内容は聞えなかった。聞えない方がいいとの直感が働いていたからだ。


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