表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/137

【第四章】の始まり

「全員、位置について。よ~い。」



『ピー!』『バシャーン!』

「おお、いいぞ。みんないいスタートだ。その勢いで記録更新だ。」

 真っ赤なジャージと首にホイッスルをぶら下げた男性体育教師。体操服の上からでも胸板の厚さが十分見て取れる。白い帽子に太陽光がわずかに反射している。

 夏空には少し遠い、薄いブルー。まだ初夏で水に入るにはまだ肌寒い中、学校では水泳の授業が始まっている。25メートルプールの回りにはスクール水着の男女が体育座りをしては隣の生徒と小さな声で談笑している。授業という緊張感には欠けているようにしか見えない。一定の間隔を置きながら、生徒たちはプールに飛び込んでいく。



「ぶくぶく!た、助けて~!」「ぐぁ!ぶはぁ!く、苦しい~!」

 泳いでいた男女の生徒が水面から手をあげている。明らかに溺れかけている。



「待ってろ~!これに掴まれ~っ!」

 体育教師は救命用の黒い浮き輪を波立つプールに投げ込む。『ザバン、ザバン』。ふたつ投げ込み、もうひとつは色黒の屈強そうな男子生徒がロープを握りこんでいる。水泳部員だろう。プールでもがいていた男女の生徒はいずれも浮輪に抱きついて、事なきを得た。そのままプールサイドに上がると、特に何事もなかったように、座り込んだ。水を飲んだ様子もない。



「大丈夫です。」

ふたりとも教師の問いかけにはそう回答した。教師が念のため保健室に行くよう指示をしようとした時、授業終了のチャイムがプールにも聞えた。そのままふたりは更衣室へ移動した。



「「「「「「「「キャー、キャー、キャー、キャー、キャー、キャー!!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「ぐはッ、ぐはッ、ぐはッ、ぐはッ、ぐはッ、ぐはッ!!!!」」」」」」」」

 突如、男女それぞれの更衣室から悲鳴と絶叫が気狂いのように交差する。



「どうしたんだ?」

 体育教師が女子更衣室のドアをぶち壊さんばかりの勢いで、開いて中を除く。



「「「「「「「「キャー、キャー、キャー、キャー、キャー、キャー!!!!」」」」」」」」

 さらに混乱を招いた。無論体育教師は覗きのために侵入したわけではない。生徒の安全確保のためだ。こういう場合、男子より女子を優先するのが、教師としては当然である。決して役得などではない。たぶん。



「「「「「「「「先生、覗かないで~。」」」」」」」」

 こんな声が沸き起こる中でも、生徒のためだと冷静になっている教師。



「いったいどうしたんだ。」

 大半の女子が水着のままで、興奮している中で、ひとり眼鏡をかけた生徒が落ち着いた口調で教師に向かう。



「先生、あれを見てください。あの男子生徒が何気に女子更衣室で着替えているんです。」

 そこにはすでに水着を脱いで、女子の下着を手にしている男子生徒。どう見ても変態・痴漢行為にしか見えない。



 さきほど溺れた男子生徒である。



「おい、ちょっと、こっちへ来い!」

 男子生徒は教員室へ引っ張って行かれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ