ゾンビのように
「じゃあ、万歩が行くね。にこにこぷ~ん。」
万歩はいつもの明るさを取り戻しているように見える。じっと隼人を見つめている。慈母観音像のような頬笑みを浮かべている。美緒を差し置いて、神々しい。万?はずいずいと隼人に近づいていく。そして隼人の目の前に到達した。
「すーっ。すーっ。はーっ。」
妊婦のように深呼吸をする万歩。ヤル気まんまんなのだろう。
「万歩、別に頑張らなくていいからね。キスは塩焼きがおいしいの♪水泡に帰す♪最善を期す♪答えを記す、でも零点だわ♪」
由梨は壊れた。
「ようし。行くよ~!」
万歩は膝まづいて、クラウチングスタイル。ダッシュをかけるのか?
「ウオオオオ~!」
すごい気合いをかけたかと思うと、いきなり走りだした。あさっての方向に。
「やはりだめだったか。都が見ているからかなあ?」
美緒がポツリと一言。
「こうなったら、アレしかないな。」
美緒が視線を送った先には、10メートル先で、ポツンとつっ立っている都。
『距離は離れているが、状況はわかっているか、都。』
『はあ。一応理解はしてる。』
糸電話による命令伝達。
オレはかったるそうに、ゆるゆると歩いて来る。これ以上ないくらい、テンションは低そうだ。とりあえず隼人の前に到達。
『よし。そのままぶちゅう、いや、ゴホン。あ~、せ、せ、せ、接吻を食べて』
美緒は言語障害に陥ったらしい。ほぼ由梨状態。
『あの男にキスすればいいだよな。』
『そ、そうだ。』
『男同士だから楽勝だ。』
『都。まさか、経験があるのか?』
『企業秘密だ!』
『ううう。気になる。』
『そんなことより、職務遂行するぞ、いいな。』
『どうぞ。お願いします。生徒会長。』
急にへりくだった美緒。都合の悪い時の生徒会長?なんかおかしいが、放置プレイ。
オレは両手を前に垂れて、ゾンビのように絵里華の方に進んでいき、辿りついた。『フーッ』ひとつ溜息をついた。気持ちを落ち着けたようだ。いよいよやるのか。




