死んでいた
「目が見えないの。」
ようやく聞き取れる程度のか細い声。
「君は目が見えなくて、絵が描けなくて、ここに取り残されてしまったのか。」
「そうなの。」
「ジバクだわ。」
突如、由梨が絡んできた。
「ジバクとは地縛霊のことか?」
「そう。よくわかったわね。」
「このシチュだ。それくらい察しがつく。時間がない。どうすればいい。」
「話を聞いてやりなさいよ。」
「わかった。君は絵が描きたかったんだな。」
「そう。でもどうしようもなかった。ここでずっと過ごしているうちにこうなってしまったの。」
「つまり、死んだということか。」
「あたし、死んでるんだ。知らなかった。ううう。」
「よし。オレが一緒にやってやろう。ちょっと待っててくれ。」
オレは美術室にあった絵の具、パレット、イーゼル、画用紙などを一気に揃えた。そして、彼女の手を取った。
「え、え、え?」
彼女は驚いていたが、構わず、オレはその手を取り、いきなり、絵の具をつけた筆を動かした。その姿を見て、由梨は拳をギリギリ言わせていたが、じっと耐えていたことは気付かなかった。
「よし、行くぞ。油絵を描くぞ。」
思うがままに白い画用紙とバトルする。最初はオレがリードしていたが、次第にオレは何も考える必要がなくなった。彼女が自分で描き始めたのだ。目は瞑っているが、心の眼は開いているようだ。数分後動きが停止した。
「できたわ。」
「これは力作だ。百点を与えよう。」
「ホント?う、うれしい。これがあたしの絵。今は見える気がする。できたんだ。ああ、生きてて良かった!」
あなた、死んでるんですけど。とは、言わなかった。KY非難回避。
すると、少女の頭上に、白い輪が現われた。
「今よ!アレをこの剣で斬るのよ!」
由梨に言われるや否や、電光石火で、その輪を斬る。『シュウウウウ』。少女は消えた。
消えただと?原因はわからない。
「きゃあ!」
由梨の水着の上が取れていた。代わりにトリガーカードが宙に浮いていた。
二枚目ゲット。ダイヤの3、『オイル=油』のカードだ。『油絵』という言葉がキーになったようだ。カードは再び水着のブラに変化して、由梨の下に戻っていた。ブラには『ダイヤの3と9』が表示されている。
カードが増えるとブラにカードの絵が描かれることになっているらしい。そんなことより、由梨の生胸を直視?してしまったオレ。
『ぐはっ!』
自分がすでに女の子のからだを所有しているにも拘わらず、こういうものには弱いオレ。うぶ。うふふ。
「何、ニヤついてるのよ。ぶつわよ。」
言うまでもなく、オレの頬をはたいた後での発言である。
「よし、じゃあ帰るか。」
「そうね。どっこいしょ。」
由梨は何かを持ち上げたわけではない。オレの背中に乗り込んだのである。
「ちょっと、さすがに疲れてるんだけど。」
「そう。アタシすごく疲れたの。」
会話は成立しなかった。仕方なく、おんぶズマンとなって、帰路に着く。




