その前に解明すべきこと
「変な名前だな。偽善と真実か。正反対を並べたものだな。」
「いちいちうるさいわね。ためよし・まみなんだから。関係ないでしょ。」
「そうだな。特に苗字は自分でつけるわけではないしな。」
「そうよ。わかればいいわ。じゃあ、アタシはこれで。」
「ちょっと待て。話はまだ終わっていないぞ。お前はなぜここにいる?」
「なぜって、やりたいことをやっているだけよ。」
「やりたいこととはなんだ。」
「この世の中は嘘だらけ。アタシもそんな嘘の中で生きてきた。嘘こそ、人を幸せにするの。それを広めようとしているだけよ。」
「たしかにそれは一理ある。人間世界の多くは嘘でできている。政治からそうであるのは間違いない。嘘があるからこそうまくいっている部分が数多くあるのは事実だ。それを否定するつもりはない。」
「そうでしょう。だから嘘をつかせて、幸せにしてやってるのよ。」
「ちょっと待て。やっぱり、このところの事件はお前が原因なんだな?」
「お前じゃない。真美と呼んでよ。」
「わかった。真美はいったい何をやってるんだ。」
「人に乗り移って、適当な嘘をつかせているだけよ。でも、嘘でもないんだよ。」
「どういう意味だ。」
「乗り移って、本人の潜在意識に働きかけてるだけよ。本当に思っていることを言わせてるだけよ。」
「それだけなら、意識を失うことはあるまい。あれは魂を奪われた姿であろう。」
「その通り。あなた、なかなかできるわね。名前は?」
「神代美緒という。神と呼ぶがよい。」
「ははは。自分で神とはね。苗字から取ったのではなさそうね。相当な自信家だわね。でも負けないわよ。」
真美は軽く舌を出して、腕まくりをした。
「別に勝負に来たわけではない。」
「そうでしょうね。神、眠っている絵里華を元に戻したいと言ってたわね。でもその前に解明すべきことがあるわ。」




