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北条トメ

「変わりまして、『オエオエ詐欺』のニュースです。昨日、東京都あきれた野市のコンビニで発生した事件の続報です。同店で救急車を依頼した少女が付近の河原で発見されました。生命に別状はないのですが、ひたすら眠っており、警察の呼びかけにもなんら反応をしません。他のケースとまったく同じ症状です。意識不明状態になった他の『当事者』と同一です。コンビニなど店舗にとっての加害者なのか、倒れているので被害者すべきなのか警察も断定できないので、いまのところ、『当事者』という表現で統一しております。」



「それでは第3回さわやかファンタジックアイドルオーディションを開催致しますう~!」



 赤いバラを黒いスーツの胸ポケットに差した男性アナウンサー。マイクに肺活量一杯の二酸化炭素をぶつける。ここはアキバの某ビル。すでにステージには30人位の女の子が思い思いの衣装で待ち遠しそうに並んでいる。暖色系が目につく。この地では、コスプレやオタク向けアイドルを大量生産しているが、そういう風潮に反旗を翻して、どこからともなく、正統派アイドルを発掘しようという運動が発生した。トリッキーなことがいつまでも王座に留まることは難しく、原点回帰という現象につながった。世の中の大多数はオタクではないからである。



 このオーディションの参加条件は15~18歳の女の子。必要以上に低い年齢でないのがいかにも正常に見える。次々とステージの中央に出て、自己アピール。アクロバットをやったり、変顔をしたり、魔法少女の格好をしている者はひとりもいない。懐かしの80年代を感じさせるようなファッションばかり。見ていると安心感が広がる。アイドルとはかくあるべしと痛感させられる。



「エントリーナンバー27番足利ヨシミ、16歳です!」

 登場したアイドル志望生は年齢詐称。ツンツン髪を左右に立てている。身長は130センチに満たない。濃いピンクのワンピース。スカート部分は膝上30センチでかなり短い。膨らみが確認できない胸には『あしかがよしみ』という名札。どうみても10歳位なのに、16歳?



ステージ下にいる審査員たちがざわつき始める。ほとんどが眉を顰めている。しかし中には回りを気にしながらも、涎を拭いている者もいる。髪は長いが、ブラッシングが不十分で、解れている。喜びを隠しきれないようだ。隠れロリだ。

足利ヨシミは自己紹介をしたあと、そそくさと袖に消えた。



「それでは次の候補者どうぞ。」

 アナウンサーは会場の喧騒をよそに、マイクパフォーマンスを継続する。



「登録番号二十八、北条トメ、18歳じゃ。」

 そこに登場したツインテール。髪を銀に染めている。いやこれは白髪だ。しかもツインテール。どう見ても60歳にしか見えない。一言醜悪。



「帰れ。ニセモノ!」「くそババア!」「ここは老人ホームじゃねえ!」「介護は俺にやられせてくれ。」

 いろんな意見がある。北条トメはそそくさとステージを去る。何しに来たのか。



 最終審査の発表が行われたが、足利ヨシミと北条トメはすでに会場にはいなかった。どうせ合格しないだろうということで、そこから姿を消したのだろうか。



(今回もうまく嘘をつかせたわね。ちょろいものだわ。)

 またも何者かの影がスーッと会場の暗闇に消えいった。



 オーディションの翌日の新聞に、『足利ヨシミと北条トメが会場外で倒れているのが見つかり、病院に搬送された。』との記事が掲載されていた。ふたりとも意識がないとのことであった。



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