勇者様価格でお願いします
「少し値段が高すぎないか」
そう言ったのはかの有名な勇者様でした。
勇者様。女神様の加護を受け、奇跡の復活を遂げる彼は成長著しく、この争いを終わらせる期待を一身に背負う人だ。そんな彼がこんなおんぼろなかろうじて屋根がついているようなお店にいるのは些か場違いな気がする。
が、それも仕方がないのだろう。
こんな最前線一歩手前の場所で商いをやっているのはよほど金に目が眩んだものか、俺のように腹になにか抱えているものしかいないのだから。
それと先ほどの彼の言葉を組合わせればとても納得がいく。
おそらくは金に目が眩んだ方の店に行きあまりのぼったくりな値段にたまげてこちらに来たんだろう。
こっちに来たところでぼったくりも良いところな値段は変わらないけどな。
そう心のなかで思いながら勇者を見上げる。
なるほど、噂通りの美形だ。
どこかの国の姫様を骨抜きにしたなんて変な噂が流れたのも分かる。こりゃあほのじにもなるわなぁ。
同性の俺がそう思うのだからよっぽどだ。
「悪いね、こんなところまで来て商売やってるもんだから色々とコストが嵩んじまうんだ」
まぁ半分本当で、半分嘘だ。
確かにふつうの市街地で売るよりも高い値段でしか売れない。その原因は確かにここに来るまでにかかる必要経費が色々とかかるからだ。
例えば輸送費。
普通ならここに来るまでに別の場所にも荷物を輸送することで少しは減らせるがここは最前線。他の人が居るようなところはうんと遠い。
次に人件費。
最前線で人が少なくそれを見越して盗賊がでたりして治安が悪いのは勿論、時には敵と戦う必要が出てくる。普通の商人は戦えないからここで戦えるような人員を雇う必要が出てくる。まぁ普通の商人ならここまで来ないとは思うが。
まぁそういった理由で残念ながら他の場所よりも多少値段が高くなってしまう。こっちにお金がなければ売りたくても売れなくなってしまうのだから当たり前だ。
でも流石にこんな法外も法外な値段では売っていないだろう。
今彼に見せている値段は普段売っている値段の七倍から八倍だ。
「他の店もこんな感じなんだ、やっぱり経営が苦しいのか」
こちらを心配そうに見てくる勇者様にこっちの心まで苦しくなる。けどそうか皆そうなのかそうだよなぁ。
「そこまで苦しくはない。需要はあるからな」
「そうか、ならよかった。店主これとこれを一つずつ」
「まいど」
そういって品物の代わりに大量の金貨を受け取った。
品物をしまいこみ、店を出ようとする勇者様に一つ声をかける。
「頑張ってくれ」
「あぁ、ありがとう。頑張ってくるよ」
去っていく勇者様を見届けると肩の力がどっと抜けるのを感じた。
「すまないね勇者様」
ぽつりとこぼした声は罪悪感からだった。
値札を元に戻しながらため息をつく。
高いと口に出しながらも結局買っていったのは他の店の方が高くついたからだろう。皆考えるのは一緒、ということだ。
俺が雇われの傭兵業をやめてまでここで店をやっているのは、前線を担う元仲間たちの負担を少しでも減らしたかったからだ。
消耗品をたくさん持ち込むのはそれだけで苦労を伴うし、いずれなくなる。
消耗品の中には命に直結するような大切なものもある。なのに補給線はずっと手前。もし仮に品物がないとかいう下らない理由で命を落とすやつが出てきたらたまったもんじゃない。
勿論足をやられてしまって以前と同じように動けなくなったと言うのもでかいが。
つまり俺がここにいるのは前線で今も命のやり取りをしているやつらのためだ。
そしてどうしても入ってくる品物の数は限られてくる。
だからできるだけ仲間以外のやつらには売りたくない。例えば勇者様、とか。
だって彼は生き返るのだろう?
他の戦っているやつらとは違って。
だったら俺は回復薬なんかの戦うために、生き抜くために必要なものはやつら以外には売りたくない。
ただ、皆も同じことを考えているわけで、国からお達しが来た。
勇者お断りを禁ず、とのことだ。
国に言われてはいそうですかと素直になれるほど俺は純粋じゃない。こっちは命の駆け引きやってんだ。そんな素直に頷いてたまるか。
ただ、最後に勇者様にかけた一言。
あれがもし、魔王退治頑張ってくれ、なのだとしたら。
言ってることとやってることの矛盾も甚だしい、最低なやつだな、とは思う。