好きの反対は
今日も彼は変わらずに微笑む。
世に言う爽やかな、心から面白そうな、しょうがないなとでも言いたげにやわらかな。同じ笑顔でもくるくると変わる。
笑顔だけでなく、急に肩を叩かれ驚いて、少し悔しそうな、すねた顔。
でも、やはり彼の表情で一番綺麗なのは、笑顔だと思う。
漫画とかで言う人気者なんて現実ではなかなか目にすることはないと思う。
実際に、彼がそういう存在だとは贔屓目に見ても言えないし、生まれてこの方そういう人間に会ったことも、噂を聞いたこともない。
まあ、進んで人気者になどなる必要はないのだ。過度な好意は、過度な嫌悪も呼び寄せる。
生きていくのに何事も過度なものは必要ない。
分相応。何にも囚われず上手に流れていく一番の手段だ。
彼は、それが非常に上手かったと思う。
全てに適度に誠実に接し、でもたまに荒波を立てる。多少の悪意も持ち合わせ、それを無難なところで切り離す冷静さを失うことはなかった。
常に周りには適度に人がおり、浅すぎず深すぎず、だからといって全く踏み込まないわけではない。踏み込み、周りを巻き込み、そっと自分だけ元の位置まで引き返す。それを相手に悟らせないような、適度な関係を築いているように思えた。
適度、無難、上手な。
それが彼に抱いた、印象だった。
そういう人間ほど極端なものである。
内に入れた人間は彼なりの最大の誠意を尽くし、包み、愛していた。
一見、周りと変わらない態度で。でも、ふとしたときにそれに気付く。
周りに気取られる必要は全くないのだろう。本人が解っていれば、それがその誠意の形なのだろう。
彼は聖人君子などでは全くない。好きな人は好き。嫌いな人は嫌い。博愛主義など似合わない、普通の人間より少し極度に範囲をつくる、普通の人間なのだと、思う。
少しぼうっとした意識を引き戻す。視線はそのまま、でもその先に彼はいない。少し視線をずらせば、別の人間と向き合い、変わらずに微笑む彼がいた。
ふとした拍子に、こちらを振り向く。別段意識したわけではなく、本当に、ふとした拍子に。
いつもなら逸らす視線を、どうしてだろう、そのまま彼に注ぐ。
目が合った。
彼は、ふわりと。綺麗に微笑む。
その瞳には、何も映してなどいないだろうに。
好きの反対は無関心。
お題:圏外
(視界に入りたくても入れない人間の話)
(彼の視界の外の話)