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異世界女子会(やばい)

「ていうかさ、私たちそろそろ結婚しないとやばくない?」

 口火を切ったのは、いつもの通りナナリー・ローリーであった。

 彼女は冒険者ギルドの受付嬢をしている。このグラルの町きってのキャリアウーマンだ。きょうもパリッとしたスーツを着て、一同に問題提起をする。

 薄暗い酒場の一角にて顔を突き合わせているのは、三人の女性。

 金髪の女性がナナリー。その右隣に座っていた青い髪の女性は穏やかに笑った。

「そうねえ、ナナリーももう二十四歳だもんねえ」
「うぐ、ことさら強調しなくていいのよ、イノ」

 二十四歳は現代日本人の感覚で言うと、まだまだこれからといった具合なのだが、ここは異世界。

 ほとんどの人が十代後半までには結婚するこの世界において、ナナリーは十分に『行き遅れ』の称号持ちだ。

 イノは青い液体の入ったグラスを唇に運びながら、頬に手を当てる。

「でも、わたしはまだいいかな。今は生徒たちの面倒を見るのが楽しい時期だから」
「あんたは結婚しない『だけ』だからね……。日常的に純真無垢な男を喰いまくっているんでしょ」
「えー、そんなことないわよー。まだ今週に入ってからふたりぐらいとしか」

 温和な顔でのほほんとひどいことを口走った。イノはグラルの町でたったひとつしかない魔法学校の教師である。若い頃は冒険者だったと聞いたことがあるけれど、詳しい話は誰も知らない。ゆったりとしたローブに身を包んでいる。二十三歳だ。

 ナナリーはチーズをつまみつつ、渋い顔でエールをあおった。

「なんでこんなのが学校の先生をしているのかしら……。うちに仕事を引き受けに来る卒業生の魔法使いがほとんどあんたの手つきかって思うと、すごいおぞましい気持ちになるんだけど」
「ほとんどは言い過ぎよー、三割ぐらいよー」
「あったまおかしいんじゃないの!?」

 うっとりと語るイノに、ナナリーは怒鳴った。

 この淫乱女教師が自分と同じぐらいの給与を得ていることにも、義憤が燃え上がる。魔法学校の教師は当然だが魔法使いでなければ務まらない。イノはレアな資格所持者なのだ。

 その横にちょこんと座っていた褐色の肌を持つ桃色の髪の女性が「はぁ」とため息をついた。

「イノさんは相変わらずすごいよね」
「こんなクソみたいなビッチは反面教師だからね、ランカ」

 ランカはそれなりに大きな酒場『鷺の止まり木亭』の看板娘だ。一同の中ではもっとも若い。まだ十九歳である(行き遅れ気味ではあるが)。

 彼女はキンキンに冷えたエールを手に取り、こくりとノドを鳴らしながら飲み込んだ。

「いいの、あたし。ようやく真実の愛を見つけたの……!」
「はあ?」

 夢見るような視線を天井に浮かべるランカの妄言には、もうふたりとも慣れている。ランカは少し優しくされただけで相手に体を委ねてしまう。超絶チョロい安売り女なのだ。

「やめときなさいよ。どうせろくでもない冒険者でしょ」
「違うもん!」
「そうよー、手を出すならちゃんとした親御さんがいて学校に通うだけのお金がある若い子とかがいいわよー」
「あんたはいつか相手の親に刺されろ」
「今度こそ本当の恋だもん! リックさんは誠実で真面目で将来性も抜群だもん!」

 リック、リック。ナナリーは揚げた魚に特製のソースをかけて食べるこの店の名物料理をつまみながら、その顔を思い浮かべた。

 そうだ、冒険者ランクD級のケチなシーフだ。顔はまあまあでそれなりにいい体もしているが、なによりも稼ぎが悪く教養がない。一晩だけの付き合いだけでも、ナナリーは御免こうむりたかった。だって病気とか持っていそうだし。

「そもそも冒険者に将来性なんてあるわけないでしょ……、あんなのその日暮らしの連中よ。ちゃんと就職している人にしなさいっていつも言っているでしょ……」
「その点、魔法学校の生徒さんなんて将来性抜群よねー」
「あんたはただ若い子が好きなだけでしょうが!」

 怒鳴るも、淫乱女教師は素知らぬ顔でカクテルの代わりを注文していた。こいつは本当に懲りない。

 一方、酒場のチョロ看板娘は拳を握って熱弁した。

「違うの! あたしリックに抱かれたとき、思ったもん! 生まれて初めて女としての幸せを感じたっていうか! あんなに幸せなときは人生で初めてだったんだもん! ああ、あたしはこの人のお嫁さんになるために生まれてきたんだな、って……えーへへへー!」

 自分で言って自分で悶えるチョロ看板娘は、心の底からそう思っているようだった。救いがたい。

 イノが「体の相性って大事よねー」と口走り、チーズをつまむ。むしろあんたはそれだけだろうが、とナナリーは思った。それより今はランカだ。

「いい? 今年で受付嬢五年目になる大ベテランの私が、あんたに冒険者の真実を教えてあげるわ」
「えーやだー、ナナリーさん説教ばっかりするし。どうせあたしが先に結婚しようとしているから嫉妬しているんでしょ! やーい行き遅れー!」
「うっさいバカ! いいから聞け! あのね、冒険者が酒場でモテるのは、金払いがいいからよ。だって仕事を成功させたやつしか酒場にいかないからね! ほとんどの冒険者はやっすいパンとくっさい水を飲んで、馬小屋で寝てんのよ! あんたが見ているのは虚構よ、虚構! リックだってどうせその日の稼ぎを初日で使い切って、それ以降は女を買うお金がないからあんたみたいなチョロいのに手を出したのよ!」
「違うもん! リックはあたしのために門番に就職してくれるって言ってたもん! もう一生浮気なんかしないで、あたしのためだけに生きるって愛を囁いてくれたもん! ホントにホントだもん!」
「ベッドで男が言う言葉なんて信じるな!」

 まったくもう、とナナリーは髪をかき上げる。わめくランカを横目に、ナナリーはイノに問う。

「ねえ、淫乱女教師ビッチ、バカを治す魔法ってないの?」
「そんなのあったら誰も冒険者にならなくなっちゃうわー」

 確かに、納得である。イノはナナリーがこの町で対等に話せる数少ない友人だ。モラルの欠片もない淫乱女教師だが。

 そのとき「おっす」と手を挙げてひとりの女性がやってきた。青い髪を適当に伸ばした彼女は、プリメ。自ら店を構える才気あふれるポーション師だ。二十一歳のほどほどに行き遅れた娘である。

 それぞれ「はいはい」「やっほー」「おっすー」など適当に挨拶をする。

 席に着くなり、プリメがため息をついた。

「きょうさー、ボクの店にすごいバカな客が来てさー。『媚薬を作ってくれね?』とか言うんだよねー」
「なにそれバカじゃないの。どこのファンタジーの話よ。どうせ冒険者でしょ」
「まあ冒険者だったけど」

 プリメは手を挙げて注文をした。とりあえずでエールを三杯注文する。彼女はとんでもないザルである。

「作れないこともないけど材料費がべらぼうに高いよ? って言ったら、『じゃあ感度をあげる軟膏とかないのか?』だって」
「えっ、あるの? あるの?」

 イノが笑顔で食いついた。このアマは。

 プリメはランカの飲みかけのエールに口をつける。ランカが「あっそれあたしの!」と叫ぶが、プリメは気にしない。どうせランカはお酒が弱いし。

「そんなの作って悪用されたら困るからね。とりあえず理由を聞いてみたんだ。そうしたら『いつもお高くとまっているあの受付嬢をヒイヒイ言わせてやりてえ』だってさ」

 ナナリーはエールを噴き出した。

「うわーきたなーい……」とランカが顔をしかめて椅子を動かす。ナナリーはむせながらもポーション師(プリメ)に尋ねる。

「ちょ、ちょっとそれって、まさか私のことじゃないわよね?」
「知らないけどたぶんナナリーのことだと思うよ。ナナリーすっごくお高くとまっているし。まあ塩撒いて追い返したけどね。すっごいキモかった」
「やっぱり冒険者ってゴミだわ」

 暗い目でつぶやくナナリー。イノはうっとりと「そんなに思われるだなんて、ナナリー羨ましいわあ」とつぶやいていた。もうきょうはやけ食いをするしかない。ナナリーは森鹿のローストを追加注文することを決めた。

 プリメのところに大量のエールが運ばれてきたので、一同は改めて乾杯をする。一気にエールを喉に流し込んだプリメは、口元に手を当てて小さく息をつく。

「ま、そんな感じで気をつけたほうがいいよ。ナナリーが死体で発見されたら飲み友がひとり減っちゃうから」
「もっとマシな理由を言いなさいよ」

 ランカも憤慨していた。

「そんなお薬で人の気持ちをどうにかしようだなんて、本当に最低だよね! どうして男の人ってそんな下品な人ばっかりなんだろ! その点、あたしの旦那さまはすごく真面目な人でよかったなあ!」

 もう旦那さま扱いにされている。いつものことなのでプリメも無視スルーした。

「冒険者ランクD級の『リック』っていうクズを煮詰めたような男だから。冒険者ギルドに来たら気をつけてね」

 ナナリーとイノは同時に眉をひそめた。ナナリーは「やばい」とつぶやき、ランカの様子を窺う。彼女はニコニコと笑いながらも固まっていた。

「え?」

 そうつぶやいた直後、ランカは泣いた。泣き崩れた。それもいつものことであった。

「今回は破局まで早かったわねー」
「きょうの支払い、あんたが持ちなさいよプリメ」
「えー……。納得いかないんだけど……」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」

 異世界にて女性たちは、きょうもたくましく生きているのであった。 
 

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