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神降る森  作者: 芦田香織
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第二章

朝。

エドナが目を覚ますと、窓の外にはもうしんしんと雪が降り始めており、吐く息は白く、やがて雪に溶けた。

少し大きめのコートと、町の子供たちがお仕事でつけて!と手編みしてくれた、少し粗さが残るマフラーと手袋、それから必要なものを詰めたカバンを肩にかけて家を出る。


エドナの家は一番森に近い場所に作られている。

職場に家があるようなものだ。


神変祭の次の日のエドナの仕事は神様を探すことから始まる。

サクサクと音を立てながら雪を踏みしめて、森の中へ入る。

稀に雪に埋もれてることもあるので、それに注意して探す。


しかし苦労すると思われた作業は以外にも早く終わりを告げる。

森に入って10分も歩かないうちに視界にちょこん、と雪の上に座り込んだ少年が見えた。


少しだけその少年の姿に驚く。

ここ数年は少女しか見かけたことがなかったからだ。

そういえば去年おばばが言っていた。

来年はきっと少年が来るぞ、と。

やはり年長者の言うことは違う、とおばばへ尊敬にも似た感情を寄せる。

ギュギュ、と足の下で鳴る雪の音を聞きながら少年の元へ向かう。


「こんにちは」


びくっと肩を震わせて少年が振り向く。

くるくるとした天然パーマに蒼い目。エドナと同じ色の目をしていた。

毎年こうだ。同じ色の目のものが来る。

神様と同じ瞳、と言うと子供たちが羨ましそうに目をキラキラと輝かせながらこちらを見る。

それがどうもうれしくて優越感に浸る。


「こんにちは!」


先ほど私に驚いて飛び上がっていたからどれほど臆病な子かと思えばもうニコニコと笑っている。

これは面白そうな神様が来たものだ。


「名前を聞いてもいいかな?」


その笑顔につられてエドナの顔にも笑みが浮かぶ。


「シュシュだよ!ね、ここどこ?」


おや可愛らしいお名前だ、と思うと同時に何も知らないのか、ということに驚きを覚える。


「どこって……ほら、クリスティナの森だ。上で聞いてきただろう?」


上、と空を指さすとシュシュは一度空を見上げて、あぁ!と思い出したようにハッとする。


「そういえばそうだった。お母さまに何か聞いたけどあんまり覚えてなくって。僕はここで何をすればいいんだっけ?」


シュシュは思ったより忘れっぽい性格のようだ。

ふぅ、と小さくため息をついて困ったな、と言うように笑う。


「これは育て甲斐がありそうだ」


そうエドナが笑って言うとシュシュは顔にハテナマークを浮かべた。


「なんでもない。じゃあ話しながらゆっくり話そうか。この町と、この森のことを

あぁ、そう、私の名前はエドナ。よろしくお願いする、シュシュ」


そう言ってエドナが手を差し出せば、シュシュもそれに応じて手を握る。


「エドナ!よろしくね!」


この町は雪が降り続けること、シュシュはこの森と町に雪をもたらす神様であること、自分はそれを見守るお世話係であること。

エドナはそういったことを細かく説明したが、シュシュの相槌を見るにきっと明日には忘れているのだろう。

まぁそれでもいい、ゆっくり説明してやれば、成長すれば、きっと意味もすべて理解してくれるだろう。


今まで降りてきた男は、ときにどこで見つけてきたのやらわからない薔薇を私に差し出して、天に帰るその時まで私を口説き落とそうとしたり、またあるいは最初は泣き虫でエドナにしがみついてばかりだったのに秋頃にはエドナの背を越して、まるで父親のようにエドナのことを可愛がる者もいた。

そういえば猟が好きで町民に見つからないように熊を狩っていたやつもいた。


今までのことを思い返すとおかしくて、思わず笑みがこぼれる。

シュシュはどうしたの、と言うようにくるりと私の前に回って首をかしげる。


「あぁ、いや、なんでもないんだ」


ただ君が、どんな風に育つのかが楽しみで。

それだけは口に出さないで、今度はシュシュにこの森に住む動物のことなんかを説明しだした。

シュシュは少年らしく、飛んできた鳥や、ガサガサと音を立てる草むらのなかに飛び込んでいこうとする。

エドナはそのシュシュを苦笑いしながらも追いかけた。


「あの鳥はリティ。あそこの草むらにいたのはたぶんシロキツネだ」


「リティ!」


エドナが丁寧に教えてやると、シュシュはリティを追いかけて駆け出す。


「お、おい、待て」


ここ数年間少女しか来ず、もっとおしとやかな少女の扱いにすっかり慣れてしまったエドナは思わず雪道に足を取られそうになる。

それでもシュシュを見失うわけにもいかず、慌てて追いかける。

シュシュはリティに夢中でまったくそんなことは気づかない。


秋頃に、シュシュが成長すれば小さかった頃の話をネタにしてやろう、と心の中で密かに思いつつ、それでもシュシュがこのまま子供のまま育ってくれてもそれはそれで面白いななんて頭のなかで妄想しながら雪の降る森を走りまわる。


今年はいったいどんな楽しい一年間にしてくれるのか。


「エドナ!早く!」


心躍らせながら無邪気な神様の後をただひたすらに駆けた。



END

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