《第1001話》『未来への期待』
いくらなんでも、強すぎるだろう。暗闇の中で、妾は一人呟いた。
なるほど、アレなら他の者は逆に足手まといになりかねない。夜貴はおそらくそんなつもりで冀羅を付けたのではないのだろうが、あの駄狐からすれば間違いなく余計なお世話だ。
この世界そのものだと言っておきながら、結局のところ夜貴は何もかもが分かっているわけではないのだ。自身の内にある存在のことを、完全に知り尽くしているわけではないのである。
それは、この世界の創造した住人たちが、決してその想像ではないことの証明である。
確かにあいつは意のままに、存在するはずのない消滅した存在を蘇らせて見せた。いや、世界が巻き戻っている以上、前世の記憶を付加して召喚した、再構築し直した、とでも言うべきだろうか。
それらを、妾の前に呼び出し、戦わせた。それは、彼らの意志に関係なく、半ば強制的とも言えただろう。
けれども、その魂は元のままだった。
つまり、最初から答えは出ているのだ。皆は、妾は決して空想ではない一つの意志。わざわざぶつけるのに、その意識までもを再現し召喚する意味は無い。戦闘の技量だけ切り取って戦わせればいい。
にもかかわらず、なぜ夜貴は妾の事を否定しにかかるのか。簡単なことだ。認めるわけにはいかないからだ。
では何故認めるわけにはいかないのか。それは自身を消し去る意味を失うからか? いや、こんな哲学的な答えではなく、最も人間味のある単純明快な解等がある。
滅ぶ口実を失うからだ。
世界は――夜貴は、きっと自らの意志を顕現させ、「樹那佐 夜貴」という人間の生を体感してきて、楽しかったと感じていた。
だが、そんな時間もいつかは終わりを迎える。“飽き”という錆びが、幸せをくすませてしまう。夜貴は、それを恐れて、そうなる前に。全てに絶望する前に、何もかもを終わらせようとしたのだろう。
しかし、そんな先の来ない未来にも、期待が生まれてしまった。けれどもそれと恐怖をシーソーに乗せた時、後者が重く重くのしかかる。希望そのものを、自ら否定する。
アホかと。一発喝を入れてやりたい。
確かに、永劫と言う津波は大きい。あらゆるモノを飲みこむまでに。
だが、闇を恐れていてはその先の光に手を伸ばすことはできないのだ。妾は、それを夜貴へ自覚させに行かねばならない。
しかしそれをするには、あの駄狐が邪魔だ。妾を否定するために。否定しなければならない程追い込んだ果てに送り込んだ、藤原 鳴狐に道を譲ってもらわねばならない。
――妾も、どうやら本気の本気を開放せざるを得ないようだな。




