《第1000話》『終末へ向かう』
鳴狐が瞬間的に隣接し、呉葉の鳩尾に放ったボディブロー。ぶっちゃけて言えばただ殴っただけ。しかし、それだけにもかかわらず、彼女は山から近くの市街地まで吹き飛ばされ、一般家屋を突き崩すに至った。
「ごっ、がはっ、ぐ、ぅ――っ」
「ふっ、早々に降参しても構わぬのじゃぞ?」
「だ、誰が――ッ!」
目の前に降り立った鳴狐へ、仰向け状態から上体を起こした呉葉は火球を投げつけるように放つ。
「フン、こんなモノ」
しかし、鳴狐はそれを軽く片手で払う。火の粉が散り、容易くそれは消えた。
「それはただの囮だッ!」
一瞬の空間転移から、背後を取る呉葉。振り上げた拳には濃密な妖気が燃え盛っており、並みの妖怪なら軽く消し飛ばす威力があるだろう。
だが、
「じゃろうな」
「何!?」
空振り。鳴狐の残像をすかりと抜ける拳。九尾の狐は、俊足によって呉葉の背後を取っていた。
「小賢しい真似を――!」
すかさず振り返り、呉葉は拳を打ち込む。溜めこまれた妖気はそのままに、背後の鳴狐へと力を振るった。
「ふぅ、小賢しいのはどちらじゃ?」
「!?」
が、鳴狐はそんな拳を受け止めていた。またもや軽々、片手で。
「余は幻術の類など一切使っておらぬ。だというのに、何ともちっぽけなものじゃのう狂鬼姫! アッハッハッハッハッハ!」
哄笑と共に、鳴狐のもう一方の手から放たれる爆炎。
呉葉は――紅蓮の炎の中に、飲まれてしまった。




