《第999話》『天地』
「お、おい、駄狐。お前何やって――!?」
流石の妾も、驚く他なかった。今こいつは、世界が妾を否定するための刺客として送り込まれてきている筈。そして、今吹き飛ばされ何処かへと飛んでいった冀羅もまた同じ使命を背負っている。
つまり奴らは互いに味方同士であり、今のは同士討ちに入る行動だ。無論、駄狐が不利になるのは見るまでもなく明らか。
マジでこいつ、何やってるのだ!?
「――よもや狂鬼姫。味方一人居なくなったところで、余が勝てなくなると思っているのではあるまいな?」
「そこまでは言わん。だが、妾と貴様の実力の程は互角だ。これがいつものような喧嘩ならば、頷けもする。だが、」
「狂鬼姫。貴様何か勘違いしておらぬかのう?」
「何? ……――ッ!!?」
突如として、鳴狐の妖気が膨れ上がった。それは今まで何度も殴り合ってきた時とは比較にならない程で。しかし、これは。この、妖気は――っ、
「これ“も”いつもの喧嘩じゃ。ただいつもと違うのは、これがいつも以上に本気を込めて行う喧嘩だと言う事だけじゃ」
「白面金毛九尾の狐――殺生石の、妖力……っ」
いつぞやに、妾は鳴狐へとヤツの母そのものと言ってもいい殺生石を返却していた。邪気は取り除かれ、純粋な妖気の塊になったそれを。
だが、それに関してもここまでの力は秘めていなかった筈だ。しかし妾は今、鳴狐本来の妖力と、大妖狐の妖力が合わさった上でさらに肥大化したそれと対峙していた。
「狂鬼姫」
「っ、」
「知っておるかえ? 狐の種族とは、その尾で妖力を育てることができる、ということを」
ヤツの背後に開いた、九つの黄金の尻尾。それはまるで太陽のよう輝き、もはや神々しささえ宿していた。
「互角などと、冗談も甚だしい」
「!? がっ、ふ――ッ」
いつの間にいたのか。鳴狐は、目と鼻の先に立っていた。
ヤツの拳が、妾の鳩尾にめり込んでいた。
「今の余と貴様では、天と地の差がある」




