《第996話》『読み合い、のち力づく』
『ぐわぁああああ! ――なんてね』
「!!」
呉葉が転移させた弾丸は、ディア先輩の背後から襲い掛かった。だが、まともに当たったはずの彼女は、銃弾の通って来た裂け目を潜り抜けて呉葉の正面に現れる。
「ここまで想定通り、ってヤツだ」
狼山先輩が放った弾は、対魔弾ではなかった。呉葉がそれをディア先輩へと向けて転移させることを読み、ただの鉛弾だったのである。
悪魔の姿である今のディア先輩には、豆鉄砲も同じだ。
『悪いね呉葉ちん。手加減できなくて』
「ぐ、く――ッ!」
転移してきたディア先輩が、近接格闘を仕掛けに行く。鋭い爪や尻尾の先端を、眼にもとまらぬ速さで振り回す。単純なパワーでは呉葉の方が上だが、技巧で彼女は翻弄していく。
加えて、その隙間を縫って正確に放たれる狼山先輩の射撃。反撃の隙はまるで無く、対応しようにもしきれない現状が精一杯。力を溜める事も出来ない。
もはや、勝敗は決したも同然だろう。やはり、彼女は僕の創造物に過ぎ――……、
「……――フッ」
『!』
不敵に笑った呉葉の腹を、ディア先輩の尻尾が貫いた。続けて、爪がさらに彼女の身体にダメージを与える。
『呉葉ちん――?』
「がふっ、流石に痛い、な。だが、お前たち相手ならばこのリスクは当然だろう――!」
「っ、ディア! 逃げろ!」
『無理!』
呉葉は自身に刺さったままの尻尾を両手で掴むと、ディア先輩を滅茶苦茶に振り回した。
『ぅ、がっ、ごふっ』
本来なら、ディア先輩が尻尾を掴ませるような隙を曝すはずがない。だから、そのリスクを他の攻撃で潰すことで回避しようと彼女は考えていた。
だが呉葉は、そんな事お構いなしと、鬼神のタフネスさで攻撃を受け、無理やり掴んだのである。何と言う無茶苦茶か。
「やっぱり、これくらいやってくれなきゃな」
もはや軌跡が予想つかない振り回しに、狼山先輩は弾を放てない。呉葉はそれを理解しながら、ディア先輩を地面に――山に、叩きつける。




