《第993話》『人間代表』
「墜ちた、な」
空間転移で近くの山の頂上に降り立った妾は、無人の街に崩壊しながら落ち行く浮遊大陸ラ・ムーを眺めつつそう呟く。
「夜貴。妾はお前が差し向けた奴らを、片っ端から撃墜してやったぞ。即ちそれは、『お前が妾を倒せると踏んではなった刺客』を越えたことになる。つまり、お前の想像の外の出来事のハズだ」
夜貴は答えない。この場にいるのは妾一人。一陣の風が、草をこすり音を立てる。
「これでもまだ、妾をお前の空想と言い張るつもりか? 空想が、主の思惑を超えてなお、それでも未だ妾自身を個人と認め共に歩む道を、無視を決め込むか?」
そんな中に。足音が入り込むのを、確かに聞いた。
「頑張るね、呉葉ちん」
「その意気で、是非とも頑張ってほしいぜ」
振り向くと――クラウディア・ネロフィと、狼山俊也が並んで立っていた。
「――お前たちがここにいる、と言う事は」
「ああ、そうだよ。次の相手はアタシらだ」
「当然俺達としちゃ、お前に勝ってもらいたい。応援してるんだがな」
「どうにも、コーハイは――世界の意思とやらは、それを許してくれないみたいでね」
「俺達も、お前と全力で戦うことになる。樹那佐の嫁さん」
そう言って、二人は臨戦態勢を取る。ディアは赤い髑髏の悪魔に姿を変え、狼山は……一見無防備に見えて、いつでも射撃体勢に入れることだろう。
「やれやれ、あらゆる意味で荷が重いな」
『ぶっちゃけ、アタシらとしても同じ気持ちだよ』
「伝説の鬼神、か。俺は何で毎回、人外と戦わされてんだよ」
『アンタの動きが人外だからじゃないかい?』
「俺は人間だぞ」
互いに、友人を傷つけねばならない状況。そして、互いに油断のならない強者が相手。
なるほど、夜貴はまだまだ刺客を繰り出してくるつもりらしいな。




