《第992話》『束の間の再会』
呉葉の拳が、ラ・ムーを大きく揺らす。全力で振りかぶった時程ではないが、それでも浮遊大陸の大地に、とてつもない衝撃が走った。
結果、地面は爆発じみた破裂と共に破砕される。それに巻き込まれる、名も無き悪魔やサンジン・ショコウ、独鈷――……、
「多勢に無勢とは思ったが。逆に、集まってくれた方がこちらとしては都合がいいかもしれんなァ!」
大地が大きく抉れたことで、宙に浮く彼ら。その中央で、呉葉は右手を天高く上げる。
妖気が、その先に集う。それをエネルギーとして燃やし、漆黒の炎が巨大な玉となって固まり始める。
「わーおー……。呉葉、そいつはちょっと頑張りすぎではないか?」
「今ここに在るのは、妾の心だけではないからな」
彼女の頭上に出現したのは、巨大な鬼火玉。それも、太陽が近くに現れたのかと見紛うばかりの、巨大な巨大な炎の塊。
黒々としたそれは、お日様と呼ぶには少々闇の気が強くて。けれども、そこには――太陽すらも焼き尽くしかねない程の熱い想いが燃え滾っていた。
「幾多もの経験が、関わりが。妾の夜貴への想いを、より強く確かなものにしている。妾は、ここで屈するわけにはいかないのだ」
「――フッ、そうか。我は安心したぞ呉葉」
「導摩――」
「もう、汝は愛を知らぬ孤独な少女ではないのだな」
「…………」
呉葉が、腕を振り下ろす。それと同時に、超巨大鬼火玉が放たれる――否、落ちてくる。
着弾。高熱が、あらゆるモノを蒸発させ、気化させていく。急速な体積の膨張は、熱を衝撃へと変えてとてつもない破壊力を生んだ。
「――もはや、少女と言う歳ではあるまい」
浮遊大陸ラ・ムーに大穴が空く。かつて天に現れた際、呉葉が殴りつけ穴を開けた時よりも、はるかに甚大な被害がもたらされ、真っ二つにへし折れる。
「さらばだ、導摩」




