《第991話》『千人組手』
「次は我、か! さてさて、今の白鬼相手にどこまで我の力が通じるものか――」
一見ノーガードな導摩へ、妾は妖力を込めて殴りかかる。黒い炎に包まれる拳が、鼻垂れるその瞬間まで、妨害を受けることなくそのまま炸裂する。
「そうは言いつつしっかり防ぐ当たり、相も変わらずムカつくヤツだなお前は!」
だが攻撃は、ヤツが自身の周囲に張った結界に阻まれた。導摩に数ミリ届かぬ、我が拳。
けれども、全て弾かれているわけではないらしい。導摩の歯を食いしばる表情。炸裂した力によってわずかずつ霧散する結界のエネルギー。周囲の式神や独鈷の攻撃にさらされる雨に、このまま押せば、押し切れる、か?
「同胞よ、あの程度で吾が死んだとは思っておらぬよな?」
「!?」
拮抗しているその最中。導摩の背後から飛び出してくる影――いや、銀髪の女が一人。長身で、シルクハットとタキシード姿、手にステッキを握るそいつ。
加えて――……、
「…………」
「はろはろ~、お久しぶりぃ?」
「と言っても、以前会ったことあるんはアンタやなくてもう一人のアンタやけど」
現れた、黒ローブ、デニムパンツ+Tシャツの軽装、ドレス姿の――名も無き悪魔。いや、それだけではない。
「――多勢に無勢にも程がある、ぞ?」
衣装が違うだけで、同じ顔をした銀髪女が、導摩の式神や独鈷の隙間を埋めるように出現している。なんだ、この同時一人ファッションショーは。
「――我としても、このような得体のしれんヤツらと共闘するのは本意ではないが」
「ククッ、まあまあ、仲よくしようではないか。吾ら一同、そのつもりだぞ?」
導摩の結界から離れ、名も無き悪魔の数体の攻撃を回避。うち一体の腕を掴んで引き寄せ、顔面に拳を叩きつけ潰す。
「こうなれば、やることは一つ、か」
空間転移で背中に迫っていた独鈷を回避すると、数本が名も無き悪魔共に突き刺さる。
移動した先にはサンジン・ショコウが三体。こちらの出現に気が付くと、巨大な爪を振り下ろしてくる。
しかし、それらは想定内。妾は、その場所に出現すると同時に、足元へと全力で拳を叩きつけた。
炸裂した力が、浮遊大陸ラ・ムーを震わせる。




