《第990話》『逃げる事はありえぬ』
「っ、ぐ、ぐぅ――ッ」
呉葉へと一斉に襲い掛かる独鈷。その数およそ688。導摩法師はそれら全てを意のままにコントロールし、時にはフェイントを交えるなどして呉葉を牽制する。
そこに加えて襲い掛かるのは獣のように俊敏な邪気の影。そして57体のサンジン・ショコウ。この場のどこへ移動しようとも、呉葉は導摩法師から逃げでもしない限り、延々と絶え間ない攻撃にさらされる事となるだろう。
「妾は、現代でのお前の戦いしか見た事なかったが、平安の時代でもこのように戦って、いたのか――!」
「へ? いや、あの時は我、もう少し大人しかったかなぁ――? いわゆる、現代版と平安版の混合、と言うべきかもしれぬ」
「そのあいまいな態度が腹立つ!」
しかし、呉葉に退却の意志は微塵も感じない。それどころか、自身の周囲に妖力を展開し、鬼火を破裂させて、強引に攻撃の合間を作り出した。
それに晒された独鈷は幾らかが破壊、防護壁を持つサンジン・ショコウすらも弾き飛ばす。
「お前の式神、一匹借りるぞ!」
「ぬ!?」
呉葉は手近なサンジン・ショコウの尻尾を掴み、まるで鎖付き鉄球のように振り回し始める。彼女の手が少し焼けるが、妖力で覆っているためかさほど大きな傷にはならない。
「ギギッ!?」
それは邪気の影の脳天に振り下ろされる。大破するサンジン・ショコウ一体。邪気の影は、その表面に邪気を浄化され苦悶の表情を浮かべる。
「まだまだいくぞォッ!!」
呉葉は自身の左手に鬼火を展開。燃え上がる暗黒色の炎が、長大に、長大に伸びる。
「鬼火式ビームサーベル! みたいなモノだッ!」
果てまで伸びるそれを放出しつつ、一回転、二回転、三回転して振り回す。
対妖怪防護壁を纏う機兵だが、その強度はラ・ムーの機械兵士達には及ばない。
焼き切られぬまでも、高熱と衝撃が彼らを割り砕いて行く。
「そして貴様だァッ!」
振り回した巨大な剣を、今度は一気に邪気の影へと叩きつけた。
「オ、ギ、ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
浮遊大陸の上で、高熱と衝撃による大爆発が巻き起こる。圧倒的な妖気を叩きつけられ、邪気の影は霧散した。
「っ、ふっ、はっはっはっはっは! いやはや、強くなったものだなお前は! いつぞや、現代で戦った時よりも、さらに強くなっていないか?」
「我らを倒せ、と言ったのはお前だぞ。次はお前だ、導摩!」




