《第987話》『付喪神と異邦人』
「次は何が妾の前に――む、」
遠方より響くエキゾーストノートを妾は耳にする。近くで聞けば、まず間違いなく鼓膜が破裂するであろうこの爆音。間違いなく、これは消音機――マフラーが実質取り付けられていないレース仕様の車の音だ。
「――なるほどな。次は貴様か」
空気を震わせる音と共に、国道の彼方から現れた漆黒のボディ。シンプルに整ったヘッドライトを目にして、それが――R32型GT-Rであると理解する。
そして、そんな少しばかり旧い国産スポーツカーが、数10m先で突然跳ね上がる。
「うォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
「……――ッッ!!」
宙に浮いたと思えば、それはいつの間にか人間の姿に変わっていて。そのまま、強烈な飛び蹴りを45度の角度から放ってきた。
妾は、腕を交差させてそれを防ぐ。
「フッ、いつかのリベンジか? 冀羅!」
「その通りだぜ鬼ババァ――ッ!」
黄金の炎のような金髪に、黒のパンクスーツの大男。人の無念により、通常よりも短時間で付喪神化した、名もなきレーシングカーの化身。
「今の俺はァ、何故だか妙にあんたとドッグファイトしたくてたまんねぇのよッ!!」
「いいだろう若造、受けてやる――! ぐっ!?」
「忘れてんじゃねぇぜ! 俺様のアフターファイアに炙られてなッ!」
冀羅が足を引くと同時に、蹴られた場所が燃え上がった。ヤツの特殊能力だ。
そんな突然上がる炎に怯んでいる間に、冀羅は幾度となく蹴りを連打してくる。
「前回は俺の得意分野での戦いだったからな! 今度はあんたの得意分野でやってやるぜ!」
「ハッ! 勢いだけで敵う程、この妾は甘くはないぞ!!」
正面から放たれた蹴りに、妾は拳をかち合わせる。逃げ場を失った衝撃が周囲に拡散し、アスファルトの地面がめくれ上がった。
「!?」
「吹き飛べ!」
お返しとばかりに、自身の小柄な身体をさらに丸め、冀羅の懐に特攻せんとする。
「っ!」
だが、自身へ向けられた気配に妾は危機を感じ、跳び膝蹴りを行わず後ろへ跳躍。すると、突如上空から一筋のビームが照射された。
「今のは――!」
「チッ、邪魔すんじゃねぇよバシャール――!」
妾と冀羅は、上空を見上げた。
インデペンデ〇ス・デイの円盤もびっくりの、巨大宇宙船が空に浮いていた。




