《第982話》『夢の中で生きる者』
「少なくとも、だ。妾は他の時間軸でも幾度となく夜貴と共に在った。だが、それに飽いている、とは思っていない」
それを知ったのは、つい先ほどの事だ。記憶をすべて引き継ぐことになって、今の妾がどの「呉葉」なのか判別こそつかないが。それでも、それだけは確かだと言い切れた。
「それが――どう結婚に繋がるのさ」
「まだ分からぬか?」
妾がどうするか。どうするべきか、結局変わる事など無かったのだ。にもかかわらず、妾は何を悩んでいたというのか。戻れるなら、それこそ頭を殴りつけてやりたい程だ。
「妾が、文字通りお前と一緒にいてやる。未来永劫、お前と共に在ることをここに誓おう」
「――それは、世界がやり直されてなお記憶を引き継ぎ、一緒に居よう、と言う事?」
「ああ、それが故の結婚だ」
「あはは――それは素晴らしい事だね」
だが、夜貴は乾いた笑いを漏らす。
「けど、それはすごく――すごく、そうだね。馬鹿馬鹿しいよ」
「――何だと?」
「じゃあ一つ例えるけど、君は自分の頭の中で想像した登場人物と、どこまで仲良くなれる?」
「その問いは、お前が世界そのものであり、妾はその中の登場人物の一人に過ぎないからこそのものか」
「そうだよ。幻想は幻想で、どれだけ掌で掬おうと思っても、実体がないからすり抜けてしまう。触れることすら許されない。僕から見た君は、とてもとても素敵な――ただの夢に過ぎないんだ」
「…………」
「君は――僕にとって、そこまでの存在なんだよ。だから、」
夢、か。確かに、夜貴の言っていることは一種的を射ている。
「君がどんな決意をしたところで、何も響かない。何の役にも立たない」
だが、それが夢でも――何故、お前はそれを望んだのだ。「夜貴」になったんだ?




