《第981話》『力説』
呉葉は、責めるようでもなく。憐れむようでもなく。まるで子供を優しく諭すかのような優しい眼差しで見つめてくる。彼女の方が、子供みたいな体格なのに。
「――何度も言うようだけど、君には分からないからそう言えるんだよ」
「果たして、それはどうかな? 夜貴。お前はこう言いたいのだろう? 例え一時楽しくても、所詮それは瞬く程度の間の事に過ぎない。ならば虚しくなる前に終わらせてやろう、と」
「――どうしてそれを?」
机を回り込んで、僕の隣へと呉葉はやってくる。そして、手近な椅子を引くとそれに腰かけた。
「夜貴の事だからだ」
「――っ、」
「なーどーとー言い切れたなら、それはそれはとてもカッコよかっただろうがな」
「えぇ――?」
「単純に、妾にも似たようなところがあったからだ。妾の年齢は覚えているか?」
「おおよそ1000歳、だね」
「まあ、正確に数えてなどおらぬから、それくらいだ。と、時々言ってきた。とんでもなくババァとか言ったヤツは殴る」
「誰に言ってるの――」
1000年の時を生きた鬼。確かにそれは、人間の身から比較すればとてつもなく長い時間だろう。だが――、
「だが、自分はそんな時間すらも及ばない程の時を巡って来た。だろう?」
「…………」
「確かに、妾とお前とでは大きな時間の差がある。だが、その僅か1000年の間でさえ、生きることに飽いた事は何度かあったよ」
「――その都度楽しみを見つけてきた、だからお前もそうしろ、とでも言うつもり? 最初の話に戻るようだけど、だからこそ僕は、」
「だからこそッ!!」
「!?」
突然、呉葉は大声を上げた。流石の流石にびっくりした。
「な、何――?」
「先ほどの、結婚の話に戻るのだァッ!」




