《第978話》『それは不思議な不思議な奇跡』
「あんたがわたしを選んだ理由が分かったわ」
狂鬼姫との会話を終え、彼女が夜貴の元へ向かおうと空間転移を終えた後、わたしはイヴへと話しかける。
「悪いね、嫌な役を押し付けてしまって」
「全くよ。と言うか、あって間もない相手にやらせることじゃないでしょ。よく知ってたわね」
わたしは、夜貴の事が好きだった。損得勘定とかそんなもの関係なく、放っておけないと世話を焼いていたらいつの間にか掛け替えのない存在になっていて。あいつといる時間に安らぎを覚えていた。
イヴは、そんなわたしの好意を利用し、あの鬼神に発破をかけさせたのである。実際、もうすでに取り返しのつかないわたしとあいつを結ばなかった運命が、客観的かつ主観的な言葉を述べさせた。
けれど、自身の好意そのものに気が付くのは、あいつがあの鬼神と結婚してからの事だ。そんな、わたし自身最近気が付いたにも等しいそれを、この幼女はどうして知っていたのか。
「――まあ、アレだよ。調べたくなるものさ」
「何の話よ?」
「特別悪い点があるわけではないが、しかし一方でまた、特別良い点があるわけでも無いのにそう言う現象が起こるって、ある意味奇跡だよね。ホント、特筆すべきところがあるようには思えないのに、これこそ、理屈ではないのかもしれない」
「???」
この幼女が何を言っているか分からない。何故かほんのり、頬を朱に染めているのは――幼い肌特有の透明感から、血色の良さが出ているのだろうか。
「――それはそれとして。ボクらはもう一つ、やる必要のあることがある。遊、また協力を頼むよ」
「ん……」
そう言って、イヴは空を見上げる。
そこでは未だにあの全身ファンタジー女が戦っていた。




